久しぶりの剣
「エル、行きますよ」
「はい、先輩!」
訓練用の木剣を振りかぶる。
木で作られてはいるが、重さは本物と大差ない。
大差ないから頭にでも当たるとどうしようもない。
そのことは昔から言われていたけど。
今は本気でかかる。
足を動かす。
剣を目の前に抱えたまま。
「ハァ!」
そのまま突き出す。
少し体をずらしエルは避ける。エルの剣が同時に突き出された。
突いた剣をエルのほうに横に振り、剣に振り回されるように自分は動き避けた。
エルの直剣は私の方に常に切っ先を向けている。
少し距離を取り、助走出来る間を作る。
剣を下げ携えるように持ち直す。
そして走る。
と、同時にエルも飛び出す。
逆手の持たれた軽量の剣はすでに突き出されていた。
速さに乗れていない状態で下げた剣を振り上げる。
利き手に少し痛みが走った、対して力が無いのに重い剣を無理して振り上げたからだろうか。
カンと木のぶつかる音がしてエルの手から直剣が飛び出す。
エルは別段驚いたりしていない、最初からこう思っていたのだろうか。
「目がなくても、やっぱり先輩は強いですよ」
剣のなくなった手を頭の上で組んでいった。
「いや、まだまだですよ」
そう、まだ。
さっきだって腕がつった、療養中に少し力が落ちてしまったみたい。
「目はちゃんと見えているんですよね?」
「うん、片目でも何とかね」
目を包んでいるガーゼに手を当てた。
傷はなくて、綺麗に治っているとか姫様は言ってくれた、騎士団長は義眼を入れれば他からは目が傷ついているなんて分からないだろうとか眼帯を付けてみたらどうだといっていた。
なので、ガーゼなんてもういらないんだけど。
そんなことしても私が強くなるわけでもないし、私が弱いところを見せたかった。
このガーゼは私が弱いからつけているんだと自分で思って未だにつけている、他の人には目が痒いとか言ってごまかしてはいるけど。
せめて魔物くらいには戦えるぐらいに強くならないととてもこれを外す気にはなれない。
「すいません、聞いてしまって…」
物思いに浸っている私を、怒らせたと勘違いさせてしまった。
「そんなことは無いよ」と、一言入れておいた。
「人相手なら、騎士団の中でもかなり上なはずなんだが」
騎士団長が外から私を見ていた。
自分でもそう思う、けっして思い上がりではない。
仲間同士での訓練ではともかく、本当の死ぬ気で向かってくる相手を手玉に取ることも出来たのに。
型の無い、あの時の犬のようななれない相手ならともかく、人の形であったあの魔物にも負けたのが私には納得できない。
技量で負けていたわけではない、では単に力負け?
それなら言い訳もたつけど、私は力を捌くだけの技量はあったはずなのだ。
今はただ、ひたすら自身を鍛えるしかない。
何とか更新しました、お久しぶりです。
今回は少し時間を経過させて、剣を振れる程度まで立ち直れたというところです。
主人公は実際のところ強いはずなのに私の登場させる敵が強すぎでむしろ弱く見えるといただきました。
フィリアの剣の腕ともども私の筆の早さも強くしたいと思っています。これからもよろしくです。