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私の兄が婚約破棄をしてくれやがりました。

作者:
掲載日:2026/08/13

魔法とかある世界です。

「アネッサ・ラザフォード!おまえとの婚約を破棄する!」


講堂で行われる生徒主催慰労パーティーの準備で、委員の皆が忙しく働く中、私の友人アネッサを指差してそう発言したのはとても残念なことに我が兄ハリーだった。

それだけでも頭を抱えたくなる事態だと言うのに、兄の腕にぶら下がっているのは、豊満な身体の線を全く隠さない薄い生地のワンピース?に身を包んだアネッサの又従姉妹エリザベス。

彼女に対してなにその格好と眉を顰める者と鼻の下を伸ばす者の割合は9.8:0.2。エリザベスが学院に現れた頃なら8:2くらいだったけど、彼女の素性が知れた今は『余程』のおつむでないかぎり隣に立つ殿方はいなくなったと言うのに、まさか血を分けた兄がその『余程』だなんて考えたくもなかったわ。

「アネッサ!おまえはこのかよわく可憐なエリザベスに対してひどい虐めをしただろう!

悪辣なおまえはエリザベスからの声かけを無視し、エリザベスの欲しがった装飾品を渡さず、エリザベスを茶会に招待しなかったな!民の模範とならねばならぬ貴族の風上にも置けぬ女だ!」

兄はエリザベスの肩を抱き物語の英雄のような見得を切りながら、アネッサがエリザベスに行なったらしい虐めとやらを並べ立て始めた。

どうしよう、兄が本気でバカだ。

アネッサが声かけを無視したのも装飾品を渡さないのも茶会に招待しないのも、全部アネッサは貴族でエリザベスがなんの地位もコネもない平民だからだ。

しかもエリザベスは貴族学院食堂の臨時雇いとして春に面接を受けに来ただけで生徒でさえない。因みに採用されてない。

にもかかわらず何を勘違いしてるのか自分も貴族の一員かのように振る舞う─ラザフォードと言う名字だけで子爵家の一員だと勘違いするおバカも初期は僅かにいたが─だいぶ痛い人間だ。

学院に通う生徒の殆どが知ってる事実なのだけど頭お花畑の兄は知らないのか知ってるけど、そこだけすっこ抜けてるのかどちらかだ。

ついでに我が家はおじいちゃんが商う商会が蕪(?)で一山当てて私が五歳の時に貴族(男爵だけど)になった絵に描いたような新興成金貴族。

そう貴族になってたったの十年ぽっちの成金一家。

その一員のくせに、なーにが貴族の風上にも置けぬ!よ、笑っちゃう。

だって私(兄も)一応貴族学院に通ってはいるけど性根には平民が染み付いてる。

街歩きしたいし、大口開けて笑うの好きだし、買い食いだってしたいし、絹の服より木綿の服のが大好きだし、堅苦しいお貴族様言葉とか話したくない。

そんな私達に比べてアネッサ、アネッサ・ラザフォードは正真正銘のお貴族様であるラザフォード子爵家のお嬢様。

ふわふわの金髪に碧い瞳白い肌に桃色の頬十人いれば十人が振り返るくらいの華奢な美少女。

私が金で爵位を買った成金(おじいちゃん曰く要らないのに国が爵位を寄越して来たらしいんだけど)だとか級友に詰められてた時、庇ってくれた優しい心を持つ素敵な女の子だ。

その素敵な女の子がどうしてうちのバカ兄の婚約者なのかというと、アネッサ側の事情とバカ兄の恋が上手い具合に合致したから。

そう、ここテストに出ます。

私に会いきたアネッサ『に』バカ兄『が』一目惚れして熱烈アタックの結果結ばれた婚約なのです。

ラザフォード子爵様やアネッサが絶対兄がいい!と望んだ訳じゃない。

殆ど平民でこちらも事情がある我が家ならば、アネッサの事情を汲ませるのも容易いから、アネッサと仲の良い私が彼女を支えられるから、それなら兄がアネッサを好いてることだしいいかって結ばれた婚約なの。

じゃなきゃ没落もしてなければ家族仲も良いラザフォード家と、スネに傷持つうちの一族なんかが縁を繋げられる訳ないじゃない。

「いくら私からの愛を欲していると言って可愛く可憐なエリザベスを貶めるなど言語道断!」

なのにバカ兄の中ではいつの間にか、『自分がアネッサに一目惚れした』が『アネッサが自分に一目惚れした』に変換されていたようで。

……だめじゃん。

うちバカのせいで最悪連座で処刑とかあるくない?

運が良くても爵位返上財産没収鉱山奴隷コースじゃん。

私が死んだ目でアネッサを見つめているのに気付いて彼女は唇だけで私に伝えてきた「リリー、大丈夫よ」と。

「ハリー・スコット」

鈴を転がすようなアネッサの声が講堂に響く。

「ふん!今さら謝っても遅いぞ!エリザベスの受けた屈辱はおまえが謝ったくらいでは晴らせないからな!」

「いや〜んハリ〜、アネッサが睨んでくるぅ」

まだ自分のやってることの重大さに気付いてない兄と、バカ丸出しのエリザベスの喋りにイラッとしてると、睫毛を伏せたアネッサは静かに言った。


「てめぇ、馬鹿だ馬鹿だと思ってたら想像以上の馬鹿だな?」


「は?」

「ああ馬鹿じゃ馬と鹿に失礼か。てめぇより脳味噌足りてねえはずねえしな」

「な」

「まあアネッサ!ハリーになんてこと言うの!」

「うるせえアバズレ。

そのうっすいぺらっぺらな寝間着みてぇな服で昼間っからウロウロすんな。それくらいの常識もねえのか、カス」

「ひ、ひ、ひっどおい!!」

ぶふっと漏れた音は誰かの笑いをこらえるのを失敗した息よね。

ひっどおい!とエリザベスは言ったけど、うちの国で寝間着みたいな服で昼間ウロウロするのを許されてるのは花街だけ。

花街じゃない場所でそんな格好でウロウロして、異性にベタべタしてたら阿婆擦れって言われても文句は言えない。

「ハリーなんでだまってるのよぉ!わたしがひどいこと言われてるのにぃ!」

エリザベスに縋られたバカ兄は、アネッサの乱暴な言葉使いからどうにか立ち直ると

「あ、アネッサ!貴様阿婆擦れとはなんだ!こんなにも可憐なエリザベスのどこが阿婆擦れなんだ!

それにその口の聞き方はなんだ!貴族のくせにそんな喋り方をするなんて、ゴロツキと付き合いがあるのだろう!貴様こそ阿婆擦れだ!」

なんて言いやがった。

はい、もううちの一族郎党処刑決定〜。終わり終わり解散!解散!あ、でもうちの商会の従業員は助けてください!

由緒正しいラザフォード子爵の御息女をゴロツキと付き合いがあるなんて侮辱したうえに『阿婆擦れ』と衆人環視の中で言い放つなんて、許されることじゃない。

あーあ、一緒に夏祭りの牛串食べるの楽しみだったのに、秋の焼き栗も、冬の白いシチューも、春の魚の塩焼きも。全部全部食べれなくなっちゃった。

あのバカのせいだ。

全てのやる気が失われて足の力が抜けそうな私に同情の視線があちらこちらから送られてくる。

いやいらないからそういうの。

よし最後にあのバカの顔面にパンチしてやろう。

確か足を肩幅に開いて腰を捻って全体重を拳に乗せる……んだっけ。

前につるんでた友達に教えてもらった『殴り方』のシミュレーションを久しぶりに頭の中で反芻しつつ、私はバカたちにゆっくりと近付くことにした。

「リリー、おまえがすることじゃねえよ」

私の動きに気付いたアネッサがバカたちの前を通り過ぎて駆け寄ってきた。

「アネッサ止めないで。身内の始末は身内がつけなきゃ」

「だったらオレもだ。大した繋がりはなくてもエリザベスは一応ラザフォードに連なる者だしな」

私たちの会話に被せるようにエリザベスが勝ち誇った声で叫ぶ。

「まあ見てよ!

アネッサったら婚約者のいる身で男とベタベタしてるわ!はしたない!」

─お前が言うか。

たぶん講堂内に居る皆がそう思った。

「そうだ!

しかもそいつは私の弟だ!兄弟を天秤にかけていたとはなんて悪女だ!やはり私の妻にはこの貞淑なエリザベスがふさわ」

ドゴン!!

バカ兄の言葉は突然響いた音と講堂の床に放射状に広がるヒビに遮られた。

音とヒビの出所を辿れば、それはアネッサの右足。

「いい加減黙れや、なあ」

元は鈴を転がすような声でもド低音で睨みを利かせながら言えば場の空気は一気に変わる。……まあ床にヒビ入れたのが一番大きい理由だけど。

「なあ、バカ一号」

どん!とアネッサが踵を床に叩きつける。

「オレがいつテメェに惚れた?このオレがオマエみてーなそこのアホ女に手玉に取られるような低脳のどこに惚れる必要があんだ?なあ?」

どん!どん!と音が響くたび床のヒビが大きくなっていく。

「貴族がどうだっつってたけどよ、貴族語れるようなことなんもしてねぇだろテメェは」

「わ、私はスコット商会の次期会ち」

「次期会長はリリーだよ。ほんとにバカなんだな」

「な、な、」

バカ兄は顔を青くして口をパクパクと開閉してる。

え、もしかして知らなかったの?自分が次期会長じゃないって。

「何言ってるのよ、次期会長はハリーでしょ?」

エリザベスが周囲をぐるりと見回して問い掛ける。

けどエリザベスが期待してただろう言葉も態度も誰もあげない。

だって兄が次期会長候補から外された一番の原因がエリザベスだと皆知ってるから。

「え……嘘」

兄の腕に絡めていた手を外して、エリザベスは私に顔を向けると

「わたし……ずっと思ってたの。リリー、あなたのこと素敵だなあって」

甘ったるい声でそう言い放った。

─いや、それに引っかかるはずないだろ。どう考えても。

講堂にいる皆がそう思ってるのにエリザベスは

「ねぇ、リリー。ハリーったらひどいのよ私最初からこんなことするの嫌って言ってたのに。ハリーにはアネッサがお似合いねって。しくしく」

目から涙をポロポロ零ししゃくりあげながら自分は被害者なのぅ!とアピールする。……いや泣きながらしくしくって発音するヤツ初めてみた。

「ねぇ、リリー、ううんリリアルド……」

ドゴォン!!!

今までで一番大きな音がアネッサの足元から轟いた。

アネッサが足をあげると靴の踵からパラパラと床の欠片が落ちる。

「おいコラクソ女」

「くっクソ女ですってぇ!?」

茫然自失状態の兄と違ってエリザベスは自分への暴言に見事反応してみせた。

「テメェがクソ女じゃなかったら誰がクソ女なんだよ!」

「り、リリー、リリアルド!聞いたでしょ!アネッサったらこんなひどいこ」

ドドゴォン!!!

更に大きな破壊音が轟き、流石のエリザベスも口を噤んだ。

「テメェさっきから誰の許しを得てその名前を呼んでんだ!あぁ?!」

ひっ!とエリザベスの後で花器のチェック係の女子が小さく悲鳴をあげる。ごめんね、整った顔であればあるほどキレた時怖いよね。

「そもそも警備はどうなってやがんだ!こいつは不法侵入者だろうが!」

アネッサの怒鳴り声にこそこそと講堂を出て行こうとする警備主任に皆の視線が集中する。

「テメェクビだからな。……おいクソ二号」

ぴっ!とエリザベスが鳴いた。

「オレもうちのオヤジもジジイもテメェんとこのババアもジジイもなんっども言ったよなあ?テメェは貴族じゃねえってよ!」

「はあ?!なんでよ!私もラザフォードなのよ!おんなじ家名なんだから貴族でしょう!」

青ざめた顔で目に涙を浮かべてエリザベスは反論した。

「テメェが平民なのはテメェのひいジジイが『真実の愛(笑)』」に目覚めて駆け落ちしたからじゃねぇか!」

これは有名な話。

数代前のラザフォード侯爵家嫡男が真実の愛に目覚め平民と駆け落ちした。嫡男と婚約していた伯爵令嬢を王宮舞踏会に集まった貴族達の前で散々侮辱し、その足で駆け落ちしたのだ。

すぐ見つかったけど。

浅はかな嫡男の行動に侯爵は激しく怒り彼を勘当し無一文で叩きだしたが、侯爵夫人はこっそりと数年は慎ましやかに暮らせる金子を渡した。渡された金額に嫡男は少ないと憤慨したが、日頃大人しく微笑むだけだった夫人が烈火の如く怒り出したのにビビりすごすごと真実の愛の元へ帰り、田舎町に引っ込み貧しいながらもそれなりに暮らした、らしい。

侯爵が嫡男を無一文で叩き出したのも夫人が烈火の如く怒り出したのにも理由がある。

嫡男の婚約者であった伯爵令嬢は精霊の守護を持つ隣国の王家の血を引いていたのだ。低いが王位継承権も有している。

そんな令嬢を王宮で行われた舞踏会で侮辱したとなれば隣国が黙っているはずもなく、王宮には厳しい処分を望む信書が届いた。

結果ラザフォード侯爵家は子爵家に降爵され、伯爵家に莫大な慰謝料を支払った。

それだけで済めばまだよかったのだけど、件の伯爵令嬢は自分への侮辱が伯爵家に支払われた慰謝料程度で帳消しになることを許さずラザフォード子爵家へ呪いをかけたのだ。

『一代につき一人低級精霊を身に宿すこと』と。

呪いを嫡男にでなくラザフォード侯爵家にかけたのは、嫡男からの扱いの悪さや暴言に耐えかね散々婚約解消を申し出ていたのに侯爵が本気で取り合わなかったからだそう。

結果ラザフォード子爵家には一代につき一人低級精霊を身に宿した子が産まれる事となった。

低級精霊を身に宿した者は自分の近くに強い負の感情を持つ者がいると、感情の制御が出来なくなる。

どれだけ普段は礼儀正しく品行方正でも誰かに敵意を向けられたと感じた途端、口から出る言葉は汚くなり指先まで調整された優雅な動きも消え、終いには魔力が暴走し周りの物を破壊する。

そう、まさに今のアネッサの状態だ。

「テメェんとこの曾祖父さんのせいでオレがハリーみたいなクソ一号と婚約しなきゃならなかったんだろうが!全く!ちっとも!ワタゴミよりも好みじゃねえこのクソとよお!!どう落とし前つけてくれんだ!指詰めるか?あ?!」

アネッサはエリザベスに怒鳴りながら近寄る途中、立っていた兄の足を素早く払いバカが床に尻もちをつく。

「そ、そ、そんなのわたしに言われても」

「それだけでも埋めたいぐれぇムカッ腹立つのに」

どこに!?という悲鳴が聞こえた気がするが、悲鳴を無視したアネッサは、床に尻もちついた兄の脇腹に低い位置から蹴りを入れながら言い放った。

「オレの最愛のリリアルドを呼び捨てにしやがってよぉ!!!」

え、そこ?そこなのアネッサ!?貴女がキレた理由それ?! 

あまりの驚きに思わず蹴り飛ばされた兄と目が合った。

その顔に浮かんでいたのが驚きと痛みだけでなくちょっと悲しそうなのは、たぶんアネッサが自分を好いてないと理解したからだろう。やっとわかったの?と思うけど。

「そ、それくらい、いいでしょ!」

「ダメだ。俺以外誰もリリアルドと呼ぶんじゃねぇ」

腕を組んでふんぞり返ってアネッサが言う。

「り、リリーのなにがそんなに……いいのよ」

空気を読んだエリザベスが私を愛称で呼んだ。

「は?全部」

言い切ったアネッサに半ベソで兄が問う。

「リリーなんて……男のくせに女みたいな喋り方でドレス着てる変人じゃないか。どこがいいんだよぅ」

なんで?と兄たちだけじゃなく、講堂内に居る皆がそう思ってる。

つい、と顔をあげたアネッサはとろけるような笑みを浮かべて私に言ってくれたの。

「リリアルドは世界でただ一人オレの辛さも苦しみも解ってるくれる最大の理解者だから」

うん。

そうよね。アネッサ。

この世界で私達だけがお互いの最大の理解者だわ。

だって私も貴女も伯爵令嬢にかけられた呪いを宿してるから。

侯爵家嫡男と駆け落ちした平民の従兄弟の娘が私の祖母。因みに私にかけられた呪いは『侯爵家嫡男の真実の愛(嘲笑)と同じ趣味嗜好になること』。

本人や直系に呪いがかけられなかった理由は、愛する相手と結ばれたところで子を成すことがなかったから。

ほんとに大変なのよ。

たかが趣味嗜好が女性の物だからって、笑われるしけなされるし排除されるし、好きでもない奴に自分に惚れるな!とか言われるし、子どもの頃のわたしは今よりもずっと女の子みたいだったからイタズラされそうになったり。

被害を訴えても歴史のない成金男爵家では握りつぶされて終わり。

どうしてわたしばっかり!って沢山泣いたし皆を恨んだわ。

だってわたし何も悪くないのに、なんで会ったこともない親戚のせいで呪われなきゃなんないの!って。

それで裏町の連中とつるんだりして、護身のための暴力を教えて貰ったりしたけど。

世界の全てを呪いながら入学した貴族学院でも、入学から一週間たたないうちに揶揄われたり小突かれたり、あげくの果てには人目につかない用具室に連れ込まれて数人に服を脱がされそうになったの。

いっそのことコイツら全員ぶっとばしてやろうか……と考えたとこで現れたのがアネッサ。

妖精のように儚げな美貌のアネッサは、扉を蹴り壊して

『一人じゃ何にも出来ねぇクソ共が!』

って怒鳴ると部屋に置かれていた机をぶん投げてクソ共をまず一人排除。

そのあともほれぼれするくらいの暴れっぷりで、私思わず拍手してしまったの。

拍手に気付いたアネッサはにっこり笑って言った。

『おまえも呪われてやがんだろ?』

と。

私も

『アンタも呪われてんの?』

と返して、互いの呪いがどういうものか、誰に何をして呪われたかを語り合い語り尽くし、どちからからともなく手を差し出し固く握り合って友情が爆誕した。

「そ、そんなにリリーが大事ならリリーと婚約すれば良かっただろ!!そうすればぼくは何の問題なくスコット協会の次期会長のままでエリザベスと結婚出来たじゃないか!」

腹を庇ったままハリーが唸りエリザベスに哀れっぽく視線を向けたけど、当のエリザベスはそっぽ向いてたわ。

『いや無理でしょ。エリザベスなんかが会長夫人なら誰もスコット商会の品は買わないって』なしら〜っとした視線が何十本もハリーに突き刺さってるのに、ちっとも気付いてない。

そういうとこも商会長に向いてないって判断された理由なのに。

髪をかき上げたアネッサは私に向かってにっこり笑ってから言ったの。

「リリアルドは私の最愛のひとよ」

ね、と顔を傾げられ私も頷き返す。

「でも私伴侶は欲しくない。いらないの。

私の子どもがまた呪われるかもと考えたら伴侶も子どもも絶対欲しくない」

長いまつげを伏せるアネッサ。

「ほんとうに大好きで大事でいつも側に居たいくらい好きなのにお互いを伴侶としたくないのよ、私たち」

ね?と話を振られ私も深く頷く。

「ええ、私たちお互いが大好きで大事だけど、伴侶になって欲しいと口が裂けても言えない。伴侶になってしまうとまた呪われる子どもが生まれてしまうかもしれないから」

「ええ、それでも結婚は一応しなくてはいけないと言われたから偽装結婚しようか?と思ったんだけれど」

「条件を全部飲んでくれる偽装結婚のお相手探すのって難しかったのよね、お互い」

そこでチラッと二人揃ってハリーを見る。

「「だからこれが丁度よかったんだけど」」

そう、丁度よかったの。

アネッサとハリーが結婚するのなら、ラザフォード子爵家の権力でハリーにアネッサとの子を作る行為をしないように契約させられるし。

私は同じスコット邸の敷地内に住めるし。

アネッサのスコット商会会長夫人としての仕事に私は補佐として着いていけるし。

ほんとうに丁度よかったのよ。

アネッサにとっても私にとってもラザフォード子爵家にとっても。

お飾りの夫として。




私とアネッサは身内でのゴタゴタを外にだすんじゃありませんと学院と親からは軽い叱責を受けただけで終った。

まあ、アネッサのアレ……は呪いだし、本人どうしようも出来ないものだし。

私たちが婚約破棄を言い渡した訳ではないし。

代わりにエリザベス(とハリー)の家はかなりキツいお叱りを受けた上ハリーを婿として迎える様、子爵家とから厳命され、スコット商会への出入りを禁止された。

あとエリザベスの校内立ち入りを容認していた警備員はクビになったそう。それは仕方ないわよね。


氷入りの冷たい紅茶を飲みつつアネッサが言う。

「妻には愛する大親友がいて白い結婚を容認出来る旦那ってどこにいるのかしら」

「……そんなの私が知りたいわよ」

はあ〜と二人揃ってふか〜い溜息をつく。

「ハリーはほんと丁度よかったのにね」

「ほんとよね。

丁度バカで程よく抜けててよかったのに」


コップの中で溶けた氷が、からんと音をたてた。

「……ね、リリアルド」

「なあに、アネッサ」

「私たち今世は伴侶にはなれないけど、来世では絶対伴侶になりましょうね」

「そうね、来世は絶対」

私が頷き返すとアネッサは満足そうに笑ったわ。



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― 新着の感想 ―
結婚して子供作らなければいいだけでは?
伯爵家はそろそろ手打ちにしても良いのでは。子孫がかわいそうだし。それか子孫のやべーやつだけ掛かる呪いに変更出来ないかな。
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