強すぎる師匠
「弛んでおる!」
言葉と共に師匠は私を弾き飛ばした。
――ここまでは計画通り。
私はおとりだ。
背後から三人が一斉に師匠へ飛びかかる。
が、一瞬の内に弾き飛ばされた。
「踏み込みが甘い!」
うっわ。
皆、痛そう……。
そんなことを思いながらもほくそ笑む。
流石の師匠だって気づかないだろう。
まさか、武術に特に秀でたあの三人さえもおとりだなんて――。
「顔を緩ませるな! 狙いがあるのがバレバレだ!」
言いつつ透明化魔法を使っていた最後の一人が弾き飛ばされた。
こうなってしまえば私達はもう呆然とするしかない。
なにせ、全員が全力を出して挙句の果てに連携さえもしたのに……。
「傷一つどころか触れることさえ出来ないなんて」
私の呟きに師匠の顔が一瞬緩む。
「そう挫けるな。中々悪くはなかったぞ」
等と口にした瞬間。
師匠は一歩後ずさる。
実に自然な様子で。
――その場に放たれた矢はかわされてしまった。
「そんな……油断したんじゃ」
絶望の声が仲間から漏れる。
最後の矢は私でさえ知らなかった。
敵を騙すならまず味方からなんて言うけれど、それさえも師匠は見切っていた。
「裏を読め。狙いがあるなら顔に出すな。そして顔に出すなら『油断をした』と錯覚させろ」
師匠の言葉が重い。
平和な時代となって数百年。
それでも師匠はいつだって油断をするなと人々に告げていた。
「良いか。平和な時だからこそ鍛錬を怠るな。なにせこの平和がいつ破られるかなんてわからぬのだから」
師匠がここまで強いのには当然ながら理由がある。
実のところ、若輩者の私達がこうして翻弄されるのは理解できる。
が、大陸有数の実力者がまとめてかかってきても師匠の有利は覆らないだろう。
「ですが、師匠。師匠が居る限り平和は決して破られないのでは?」
「馬鹿者! 私がいつまでも生きているなんて思うな!」
「……ところで師匠。今、おいくつでしたっけ」
「千と二十八だ」
「暦とほとんど変わらないじゃないですか」
その言葉を聞いて師匠はふと涙を流す。
「そうか。勇者殿が亡くなられてからそんなにも経つのか」
暦の始まりは千年前の勇者様の誕生からだ。
そして、師匠は今じゃ唯一の生前の勇者様との面識のある存在だ。
さて。
何故、こんなにも師匠が長生きなのか。
「しかし! お前たち人間達は勇者殿が遺した平和を守り続ける責務がある! なにせ!」
答えは簡単だ。
要するに。
「私の後に生まれる魔王がこんなにも変わり者である可能性は低いのだから!」
そう。
師匠は魔王なのだ。
どういうわけか平和をこの上なく愛している不思議な魔王。
千年前に勇者様と意気投合し、今もこうして勇者様の愛した平和を守り続けようとするへんてこな魔王……。
「さぁ、立て! 勇者殿はこの程度では根をあげなかったぞ!」
師匠は強くて当然だ。
魔王でありながら、勇者様と同じく平和を愛し、その平和を守るために生き続けているのだから――。
「お前たち! 今日こそは私に触れてみろ!」
平和な世界に魔王の快活な声が今日も響いた。




