録、紅い眼をした
「ぐあ…!!」
突然視界が揺らぎ、詩帆はその場に伏した。訳もわからず頭がくらくらと、貧血のような症状が現れた。
雨乃が訪ねても、詩帆はひどい頭痛で返事ができず眼を瞑る。
詩帆の喉奥から、耐えきれぬ苦痛が漏れる。…その叫びの跡を、雨乃は見逃さなかった。
―――ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!!!!!!!
刹那、上を向く詩帆の口から、紅い赤い狐が吐きだされた。
セーラー服の襟に髪がかかる。頭がガクンと下を俯き、十六のその娘は、意識を失い固まった。
口から床へ、優雅に降り立った紅の狐。咄嗟に雨乃が構える。
眼をギンと光らせる黒髪の女性を見て、狐の身体は変形を試み、ひと息で人間の姿に成った。
狐は詩帆と同い年くらいの男子の姿に変化した。頭の上からはベタな紅葉の葉が煙で舞い落ちた。
が、狐の仮面をしていて、顔が見えない。
「我は紅葉 狐と申す。知っておるであろうが、この村の長だ」
「あなた、あの太古から存在する呪いの狐なのでしょう。化けても中身は変わらない」
男子高生(の姿をした狐)の綺麗な声に、きょとんとした顔で言う雨乃。
「その通り。我は何千年も昔から存在する。本当の話、これは元の姿なのだが」
爽やかな少年声に似合わない、堅苦しい喋り方。
「教えて長様、これは如何なることか?」
雨乃の冷静さは、その場で誰かが見ていれば、余程信じがたいものだった。