伍、狐の説
雨乃さんは物腰柔らかく、それでいて真剣に言った。
何も知らないままでは、この村にいるのは危険だと。
すると、部屋の棚からある本を取り出し、私に見せた。
表紙には〈御代里村狐之説〉とある。随分昔のもののようだ、ホコリがすごく色も褪せている。
「…最後まで1ページも飛ばさずに読んで」
雨乃さんのあまりに真剣な表情に、無言でページをめくってみた。
―――第一ノ説―――
緑豊かな御代里村、此処に在り。
男はよく働き、女は御子を沢山産め。汝と村の、幸福に恵まれん。
―――第二ノ説―――
緑儚き御代里村、此処に在り。
男は勤労に餓え、女は食に餓えり。汝と村に、異変が起こらん。
―――第三ノ説―――
緑枯れ果て御代里村、此処に在り。
男は愛を求め戦い、女は神社へ奉神に参れ。汝と村は、狐の呪に縛られん。
そこで気づく。「第三ノ説」から先のページが、ずっと白紙のままの状態。
ページをめくっても、めくっても先が無い。そこから歴史が途絶えているのだ。
「〈御代里村狐之説〉は、その悲しいエピソードで終わってるの。」
「つまり今現在でも、その状態が続いているということよ」
《汝と村は、狐の呪に縛られん》
もう一度、私はその一文を読み返す。
この村は―――…大昔から、狐に呪縛されていた。