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第二章 ―オ稲荷サン―
紅い紅いもみじの葉が、風に巻き上げられながら、セーラー服の背中を押す。
自然と押されるがままに神社に近づき、呆然と立ち尽くす女子高生。
身体が固まり、何故かそこから動く気がしなくなった。
風は冷たく、北から滑り込んでは詩帆の足を抑えつけた。
遠くから微かに人の声が聞こえる。村の人かと周囲を見渡す。
―――来る!
“何か”の気配が近づいている。濃い威圧感が詩帆を包んだ。
そして視界の淵に、黒い霧が被さり、…
やがて黒い霧は、目の前を黒く黒く、塞いだ―――――。
「愚かな小娘め!勝手に我の村に上がり込むなどとは。ひゃひゃひゃ」
甲高い陽気な笑い声が、超音波の如く響き渡る村。
その声を一番近くで聞いていたはずだったのは、セーラー服の女子高生。
そう、一番近くで聞いていた、はずだった。
意識さえ飛んでいなければ。
「ひゃひゃひゃひゃひゃ……」