弐、雨宿りの樹
駅から出た詩帆の足元には、鮮やかな紅葉が広がっていた。まるでレッドカーペットで招待でもされているかのようだった。
その下にはちらちらと、石畳が敷いてあるのが見える。
この辺は、しばらく掃除をされていないのだろうか。
それにしても、おかしなところがひとつ。今は秋ではないこと。
季節はまだ夏、さすがに7月では秋とは分類されない。
不思議に思っていると、スクールバッグを持つ手の甲に、一粒の水滴があたった。
―――…雨?
無論、傘などは持ち合わせていない。
次第に強まる雨の勢いは、少しずつ紅葉たちを濡らしていく。
バッグを頭に乗せ抑えると、詩帆は石畳の上を小走りした。
右にも左にも道が別れないので、とにかく先へ先へと続く紅葉のカーペット、その一本道を駆ける。
周りには木があるが、それは背の低いものなので、とても雨宿りにはならない。
頭上を見れば空は灰色に覆われ、今にも土砂降りがやってきそうな風だ。
何分か普通のペースで進んだが、そろそろ少し疲れが見えてくる。
そのタイミングで、ちょうど雨を凌ぐのに良さそうな大きな樹が一本。
詩帆は助けを求めるように、その樹の下まで行くことにした。
暗雲の天候で、蒸し暑さが絶えない午前中。ああ、なんだかもう東京へ帰りたい。
こんなことなら、大人しく家に帰るべきだったかもしれない。こんな変な所で降りたのは、やはり間違っていたか。
駅で感じた寒気、この雨による不安、蒸し暑さ。それ等は詩帆の思考回路を空回らせた。
しかし、どう自分を攻めてもここまで来てしまうと、また駅まで戻るのも嫌になってくる。
だれか村の人いないかな…と
どこかに安心させてくれるものがあることを、ただ少し望んで。