壱、「御代里村」
―――「間もなく到着いたします」―――――
車掌さんのその一声で、揺れる手擦りが視界に映る。
腕時計を確認すると、もう既に8時半過ぎ。初めて寝過ごしてしまった。
どうしよう……と、悩むはずだが、素早くこの結果が脳裏を過る。
とりあえず今日はサボってしまおう。
もう、どうでもいいような気もしてきた。毎日毎日、どうせ変わらない日々を過ごすのなら。
とりあえずお金が…次の駅にでも降りようか。
と、少し一人旅をしているような気分になると、急に心臓が高鳴った。
私は、どこの何という場所かも知らない次の駅で、一旦降りることにした。
…だが、その決断は正しかったのか、間違っていたのかはわからない。
「御代里駅ー、御代里駅ー」
初めて聞く駅名、初めて来る場所。
こんな小さくて貧相そうな所、他に来る人がいるのやら。失礼だが、正直そう思ってしまった。
そう思ったことから、ふと電車内を見渡してみる。
乗っている客は、いつのまにか私一人だけ。
―――冒険感が足を浮かせ、電車から降りる。
電車はすぐに扉を閉め、またどこか次の駅へと走っていった。
そこは随分と古ぼけた駅。すべて石づくりの壁には、隅にコケが生えまくり、所々ツタが這う。
しんと静まり返った、冷たい雰囲気が手に汗を握らせた。
誰か人はいないかと、焦り焦り、小走りしてみる。
しかし人を探すもなにも、この駅は驚くほど狭かった。その場から見回せば駅内がすべて見えた。
そしてまたおかしなことに、人は一人もいないと。
ひんやりした“何か”の雰囲気は心音となって自分を押しつぶす。
とにかく早くここを出ようと足を進めた。
駅を出ると、足元に広がるのは…
一斉に自分を見上げる、一面の紅葉。