第一章―とある日常―
「詩帆へ 今日も残業で遅くなりそうです。ゴメンネ 母より」
短い文。走り書きで綴ってある母からの置手紙だ。
その白無地のメモ帳を、私はトーストにかかっていたラップと共にゴミ箱の中へ落とした。
いそいそと朝食を済ませ、着替えて顔を洗い、髪型を整え 計15分。重い瞼に逆らい続け、遅刻は免れた。
校則に適った黒いハイソックスに、白い夏服のセーラー。スニーカーを履いて、重い鞄を肩に掛ける。
自宅のマンションから外の世界へ出れば、それほど眩しく暑い場所はなかった。
人混みと暑さの中、デジタルの街をただひたすら走って、…
スニーカーにブレーキをかけ、駅ビル前。
電車の発車音は自分を安心させた。既に自分は電車の中、幸いなことに腰をかけることまでできた。
白い電車はユラリと動くと、線路を駆ける衝撃音と共に、私を日常へと運ぶ。
時が止まってしまえばいいのに。
そう思いながら駅で買ったレモン水を飲む。微かにそれは涙の様な味をしていた。
そして私は今日も明日も、来週も来年も変わらず、この静寂を感じ続ける。
根拠などないが、今までがそうだったからそうとしか考えられなかった。
「次はー、御代里村ー、御代里村ー…」――――