十四、安心からの不安
その先には道という道が続いている。
だが、まだ建物どころか人の一人も見当たらなかった。
「結構道程が長いですね…あれ?」
疲れをちらつかせている自身の足。雨乃に振り返り口を開いた。
しかしその言葉を聞いていたのは、吹き抜ける風のみだった。
視界には渡ってきた吊り橋と、自分を見上げるへどろの湖。
一人ぼっちであるという確信に、不安が灰色の霧となって頬の傍を横切る。
不思議と気味が悪くなり、その感じがぐるぐると心臓を取り囲む。
「雨乃さん…?」
―――――此処に居ては危ない、先を急げ―――――
刹那、少年らしき声が響いた。
あまりにもすぐ傍で話しかけられているように感じたが、そこには確かに誰もいない。
「誰…どこにいるの…」
小さく声を出したが人の気配はなく、それからその少年らしき声も聞こえなかった。
訳が解らなくなり、微かに痛み始める頭を押さえる。
さっきまでそこにいた雨乃はどこへ消えてしまったのか。
いきなり自分に話しかけてきた声は何だったのか。
もやもやと謎を考え込み、一人。足の疲れにその場にあった木の陰にうずくまっていた。
雨乃に村を案内してもらうはずが、肝心の案内人がはたりと消えてしまっては、どうにも進みようがない。
困り果てていると、足元にひらりと何かが舞い降りてきた。
見ると―――虫食いもなく真っ紅に染まった、一枚の紅葉の葉だった。
「何で…?この辺、紅葉の樹なんか見当たらないけど…」