十弐、次の道を行く
名物饅頭を2つ買うと、アサギリ姉妹は賑やかな音を立て、またどこかへと饅頭を売りに行く。
少し前まで妙な寒気が立っていた自分だが、今はもう自然と笑顔になれるほど肩にゆとりがあった。
やがて姉妹が霧で見えなくなると、雨乃は悪戯な白い歯を見せて言う。
「いきなりだけど、これから先の道は険しいわよ。手を貸してあげるけど、気をつけてね」
その場所は林に囲まれていて、雨乃の家しか見えなかった。
遠くに見えるといえば、―――怪しげな高い建物。
まるでディズニーランドでシンデレラ城を遠くから見ているかのように、くっきりと聳え立つ屋敷が林の向こうに見えていた。
険しい道とは言われたものの、この覆うような林のどこかに道があると言うのか?
黙って、雨乃の行く方へと足を進めた。
…しかしやはり道はない。
駅前の石畳に広がっていた海のような紅葉も、この辺には全く無いようだ。
道標も何もない、深い深い林の中を、雨乃の後ろから無理矢理ついて歩く。
空は曇り、木漏れ日なども感じられないので、薄気味の悪い場所だった。
さらに樹の根が地面にむき出しになっている。樹とともに歩いている幻覚を思わせる、不思議な空間。
雨乃が無言でいたので、こっちからふる話題もないと思い自分も無言で歩き続けた。
何分歩いていたのだろう、言葉が無かったせいかすごく時間が長かったように感じられた。
やがて林の中を抜け、解放されたマイナスイオンの世界へと出た。
…と思えば、そこから見えた景色は―――ドロ沼と化した、湖だった。