十壱、お饅頭
「「まいどおおきに、アサギリ姉妹やで!」」
…やはり、同じ声がふたつ重なっている。どちらも幼く高い声をしている。
そしてその声は、いま詩帆の眼の前で発信されている。
〈御代里名物・どんちゃん屋饅頭〉というプレートに、首から饅頭の入った箱をさげてそこに立つ。
雨乃はこの場に広がる濃い霧の理由を「この2人が近くにいると、何故か霧が出てくるの。不思議現象よ」と耳打ちで説明すると、普通に饅頭をふたつ頼んだ。
しかし、揃った声は詩帆に突然話しかけてきた。
見ない顔だ、とずいずい押し寄せる好奇心の顔に、とっさに声をだした。
「ひ、日向 詩帆です。東京から来ました」
敬語もなぜかとっさに出た。
詩帆の一言を聞いたアサギリ姉妹は、きゃあきゃあと騒ぎ出す。都会者は珍しいと。
ぺらぺら、けらけらと、賑やかに喋繰る双子の姉妹。大阪なまりなのが不思議だが、とても良い子そうだ。
自分より明らかに年下…小4くらいの子供。話を聞いても外見を見ても、癒しの存在だった。
「「おっと、ウチらの紹介がまだやったな」」
二人とも前に出ると、姉の瑠子が饅頭をふたつ詩帆に手渡した。
「ウチら、家ではずっと饅頭作っとる。針山の姉さんが案内してくれはるやろから、いつでも遊びに来なはれや」
少し照れたような上目づかいと小声が、詩帆の疲れを解した。子犬を見るような輝いた目で、詩帆はこくりと頷く。
学校をサボって電車旅、見知らぬ村で知り合いが増えた。
隣では雨乃が「また人任せにして」と笑っている。
呪縛されたこの村で詩帆を待っていたのは、穏やかな新しい出会いとも言えた。