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仇、目覚める娘
雨乃が下を俯いて何かを考えていると、後ろで人影がゆらりと動いた。
反射的に振り返れば、人影は首を回し疲れたような表情を見せる。
詩帆だ。セーラー服を雨でしわくちゃに汚した女子高生。
意識をしっかりさせた詩帆は、キョロキョロと部屋に視線を走らせ、雨乃に気づいて言葉を紡ごうとする。
しかし寝ぼけているといった感じで、詩帆はうまく言葉が出てこなかった。
―――すべてを知り、確信し…それを詩帆に伝えなければならない。
雨乃は解っていた。
しかし、高校生とはいえまだ子供の詩帆に馬鹿らしいことを言う勇気が出なかったのだ。
「あなたの身体に今、狐が入っています」などと。
詩帆が寝ぼけているうちに、ぶつぶつと考えていた雨乃だが…
―――――気づいた。
村人は沢山いるのに、なぜ詩帆だけが狐に身体を乗っ取られたのかが。
誰も近づこうとはしない狐の住み家・神社に、ただ一人だけ立ち寄ってしまった娘。
つまり恐らく、紅葉 狐という〈一人の少年〉が―――
「お嬢さんにご執心なのね、この変態妖狐。」
雨乃のそんな呟きは、まだ眠そうな詩帆には聞こえていなかった。