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第三章 ―愉快な惨劇―
雨乃は冷静に、狐への…眼の前の男子への疑問を呟く。
一方、眼の前の女性をじっと見る狐は、仮面の下で微笑していた。
と、狐の鼻がぴくりと反応し…
「お前、木と金と…錆のにおいもする。何奴だ」
狐の些細な不信感を踏み消し、雨乃は目つきをより鋭くした。
「女性に向かって錆とは失礼極まりございません、長様」
優しく紳士的、それでいて強気な狐の指が、雨乃の顎を上げる。
狐の仮面に学ランという謎の少年に顔を近づけられるも、雨乃の表情は絶えず凍りついていた。
「…気安く私に触るでない、この薄汚い化物めが」
ようやくか、というように狐はひとつ息を吐いた。
呆れたのか疲れたのか、ぼそりと呟かれた狐の言葉。
「お前が巫女だった過去を持つことは、初めから承知しておる」