少年の願い
少年はだいたい12歳ほどです
ただただ走った。奴らに捕まらないように必死に。捕まったら今度こそ終わりだ。もう諦めない。今はあの少女の方に行きたいとそれだけを考えていた。
しかし、あの少女の方へ走っていたはずなのに少女の姿はない。馬車の時にはまだ居たが外に出てからはそれどころではなく、見失ってしまったようだった。だが立ち止まって探すほど余裕がある訳では無い。とりあえず探すのは後でにして護衛を巻こうと考えた。
祭りのパレードを見るために並んでいる人達をかき分けて何度も曲がり角を曲がった。途中、護衛達に捕まりそうになったが大人では通れないところなどを通ったりしたおかげで何とか捕まらずにいた。
もう護衛の姿がほとんど見えなくなって逃げ切ろうと細い道を抜けて裏路地に入った。
しかし、そこは行き止まりで塀も高く少年には飛び越えられそうになかった。かと言って別の道に行こうにも一本道でありおそらく戻る途中、もしくは戻っても鉢合わせる可能性が高かった。
とりあえず手が塞がっていては何も出来ないと思い、塀に思い切り手枷を打ち付けた。何回もぶつけているうちにガコンという音とともに少年の両手は開放された。
両手が使えるようになった少年は研究所で盗んできた小さいナイフでよじ登ろうと考えたがそう考えてるうちにもう一本道の先に護衛の姿が見えようとしていた。それに気づいた少年は急いで登ろうにも刃がうまく引っかからず体重を預けることができない。
(このままじゃ戻されて殺される…!)
結局少女に会いたくて逃げてきたのに会えなかった。
少年は手のひらを見つめていた。彼女の手は大きさはあまり変わらないのに少年よりも白く綺麗だった。ちゃんと手入れをしている手だった。
おそらく上流階級の人だったのだろう。普通に暮らしていれば見ることも叶わないほどの。
それでもさっき見ただけの少女に勝手に少年は人生をかけてしまった。少女に会え、逃げれたらいちばん良かった。だがもしその前に護衛達に見つかれば確実に重い罰が待っているだろう。
(話してみたかったな……)
少し離れたところで男たちの会話が聞こえる。多分護衛が近くまで来てしまったのだ、と少年は気づき感傷に浸っている暇はないと我に返る。そしてまたナイフを引っ掻き続けた。
必死にガリ、ガリと引っ掛けるもうまくいかず逆にその音で護衛が居場所の近くまで来てしまった。
少年は急がなければという焦りにより手元は先程よりも雑になってきており、ナイフが跳ね返りその時に出来る傷が何個もついていた。
「おっ!ガキ見つけたぞ」
「えっまじ!?」
そして遂に護衛達が少年のいる行き止まりの道まだ来てしまった。護衛達は少年を見つけニヤリと口角をあげた。腰には研究所でもよく見た切られると痛い剣があった。
貴族に一時的とはいえ雇われているならおそらく殺しはしないだろうがあの剣で切るくらいはしてくるだろうと少年は思った。
しかし、今殺されないとはいえ連れ戻されたあとに殺されない保証があると言うわけではない。この人達は殺せないが貴族の気が変わっていれば少年が殺される可能性だってゼロではないのだ。
少年はどう逃げるかと考えてはいるが頭の片隅でどうしたら許していただけるかと考え始めようとしていた。もちろん少年もどうぞと体を出すつもりは毛頭ないが。
「もう会うことはないと思うが俺の名前はドリ、こいつはウーロ。お前は?」
少年はなぜ急に自己紹介が始まったのか分からずただただ呆然としていた。
それを見たドリと名乗った赤髪とウーロと呼ばれた金髪の男たちは「こいつ喋れねーの?」「そんなはずないと思うけど」とかと言いながら剣を抜いた。
そして少年に策が無いことを確認し、護衛の者たちはジリジリと詰め寄る。少年も自然と後ろに下がろうとしたが背中と壁がぴったりとくっついておりこれ以上下がることは出来ずにいた。
「聞こえてんの?」
「……」
「おいなんか喋れよ、つまんねーな!」
あーあ、と言いながら赤髪の男は急に不機嫌になり、少年に冷たい眼差しを向けた。もう1人は落ち着いて、といって赤髪を宥めた。
「本意じゃないけどさァ、|俺もウーロもお金貰ってんだわ」
「ごめんね?」とウーロと呼ばれたもう片方の男の方が笑いながら手を合わせて言った。そして先程抜いた剣をこちらに向け、男たちは真剣な表情を見せた。
「仕事なんだ、悪く思わないでくれ」
そう言いこちらへ走ってきたその瞬間、氷の壁が少年と男たちの間に現れ男達の剣が弾かれる。
少年と男たちが困惑していると、少年の後ろの塀に人影が映り、少年は振り向いた。そこにいた人は少年と目が合うとニコリと笑い、ふわりと少年の目の前にきた。
「さっきぶりだね少年、助けてあげよっか?」
少年の目の前に現れた人は、見とれてしまうほどに綺麗な黒髪に鮮やかな虹彩をもっていた。
そして、少年が探していた少女その者だった。
少年は驚き腰を抜かしてしまい、その場に座り込んだ。
ふわりと香る花の匂い、青空を閉じ込めたかと思ってしまうほどの綺麗な瞳。想像していたよりも少し低い落ち着く声。
少年が目をパチパチとすると少女はニコリと笑う。少年の顔は真っ赤になった。
「あ」
そういえばと何かを思い出したかのように口を少し開ける少女に少年は?を浮かべた。
「こうゆうのって形が大事なんだったよね」
ごほんっと軽い咳払いをし少女は少年の方に視線を向け、ニコリと笑い手を伸ばしてこういった。
「君の願いを叶えてあげよう。もちろん対価は貰うけどね」
決まったと言わんばかりのドヤ顔の少女に少し笑みが零れる。それを見て少女はしゃがんで
「さあ、願いを言うといい。おれが全部叶えてあげる」
そう言ってさっきまでの太陽のような笑顔とは違う少し妖艶表情をした顔を近づいてきた。少年はまたしても顔を赤くしていた。
そして、少し息を吸って恥ずかしそうに大きな声で少年は言った。
「ぼ、ぼくのことを攫って……!」
「え?」
バキッ
その瞬間、少年と男たちの間にあった氷の壁が砕かれた。
「なんだこの氷は、そこの嬢ちゃんがやったのか?くそ硬ぇんだけど」
予想外、と言って男達はまた剣をこちらに向けて構えた。少女も氷を砕かれるのは予想外だったようで「よく壊したね」と笑っていた。そして、少年は勇気をだして言ったのに……!と内心少し恥ずかしがっていた。
少女は男たちの方から少年に視線を移し少し笑いながら少年の頭を撫でた。そして長い髪を耳にかけ、
「……じゃあおれのとこで働く?」
少年は自分の意味の分からないお願いに対して意味の分からない提案が返ってきたことに少し困惑したが少年はすぐに首をこくんっと縦に振って返事した。
少女は満面の笑みになり「よぉし!」と言った。それを見た2人の男は剣を持つ手を少し緩めた。そして互いに顔を合わせ、
「なんの話してるのあの子たちは」
「知らねぇ」
とこそこそ話しているのが聞こえた。二人の男は何が何だかわからんという顔をしていた。先程まで割と余裕のある表情をしていた金髪の男もいつの間にか明らかな困惑の表情になっていた。
「よし」
目の前で僕と目の高さが合うようにとしゃがんでいた少女が立ち上がった。自身のハーフパンツを少し叩いて、また少年に手を伸ばした。少年はその手を恐る恐るとるとぐんっと引かれ、軽く抱き合うような体勢になった。そして少女は少年に目を合わせ、
「じゃあもうここにいる理由は無くなった…って事で行こうか!少年!」
「いや俺らお前たちに用あるんだが!?っておい!!」
そう言い、地面が光り始めた。少女は少年に「目瞑っといたほうがいいよ」と小さな声で言われ、目をぎゅっと閉じる。
「ふざけんな!おい!待てって…それもしかして転移魔ほ……」
赤髪の方の男が何かを言い切る前に街の騒音と男たちの声が聞こえなくなった。目を閉じていてもわかるほど周りがすごく明るくなった。
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「もう目開けてもいいよ」
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