エピローグ
はじめまして、ゆとと申します。これからかなりの不定期で投稿する予定です。暖かい目で見て頂けますと幸いです
いまはなんがつなんにち?
そもそもよるかな、ひるかな
そんなことを考えながら目を開ける。冷たい床、窓もないコンクリートの壁、やせ細った子供達。また同じ一日を繰り返す。
ブーツの踵がなる音がする。
「おい、何寝てやがる1011番?はやくこい」
「す、すみませ…」
そう言われぼくは起き上がる。もう朝だったみたい。
研究員はぼくを見ると汚いものを見るかのような目をする。そんなに嫌そうにするなら来なきゃいいのに。
呼ばれて実験部屋に行くとぼくと同じくらいの子供たちがたくさんいた。辺りを見渡すと3日前と人が変わってる。
昨日はご飯をよく食べるシンくんが実験で。昨日一昨日は歌が上手なレンちゃんが流行病で死んだ。そうやって子供が死ぬと研究員達はどこからかまた子供達を連れてくるからだ。
そして新しく来る子はみんな赤色の注射をされる。それでほとんどが死ぬ。ある子は眠るように、ある子は身体から変なものが飛び出てそのまま。ある子は体が変色して死んだ。症状はそれぞれだけど死んじゃう子はだいたい八割くらい。生きた二割の子達もその後の実験とかで命を落とすことも少なくない。だからここに居る子達はみんな生きることを諦めてる。どうせ数ヶ月、数年の命だ、と。子供達は入れ替わるけどみんな同じ顔をしているのはそのせいだ。
「あちゃ〜この子も失敗かぁ。そこの君、処分しといてくれる?」
「わかりました」
目の前でまた同じくらいの歳の子が死んだ。この子は将来パン屋になると昨日言っていた子だった。近くにいた子は次は自分が死ぬんじゃないかと震えている。
「なんか興ざめしちゃったなぁ。もーいいやお前たち戻っていーよー」
そう言われ震えていた子や他の子供達は安堵し何事も無かったかのように次々と自分達の部屋に帰る。冷たい床の上をぺたぺたと歩きまた同じ所へと戻る。
部屋に着くと研究員が厳重に扉を閉めて硬くてボソボソしているパンを隙間から投げ入れた。きっと機嫌が良かったのだろう。いつもならかびているのに今日は普通のパンだ。
硬いのはともかくかびているのはよくない。体調を崩してしまう。まだマシだ、と自分に言い聞かせガシガシと食べる。パンは一日に1個しか貰えないからしっかり食べておかないと明日にでも倒れてしまう。それでも常にお腹はすいているし美味しいご飯だって食べたい。
カチ、カチ。時計の針が動く音で目が覚める。この部屋には時計は無いからおそらく研究員が近くにいるのだろう。子供達が寝ている時間に来ることは今までなかった。なにかされるのも怖いのでとりあえず寝ているフリをする。起きていたらまた実験に付き合わされる可能性だってある。目を閉じて寝息を立てる。
三人ほどの喋り声が聞こえる。一人はいつもここにくる暴力的な研究員、もう一人は昼の研究員。あと一人は………。
「伯爵様。こちらが当研究所の作品となります」
「ふむ。案内、ご苦労」
伯爵?伯爵ってたしか偉い人だったはず。ここは田舎町のさらに外れにある森。こんな場所に伯爵が来るだろうか。もしかしたら助けに来てくれたのだろうか。どちらにせよ今聴き逃したらもう知れない話だ。必死に聞き耳を立てた。
「にしてもよろしいのですか?このようなごみのような者たちで」
「よい。どうせ身分を証明できる者たちでも無いのだろう?しかも耐久性に優れていると。それならワシの魔法の的にぴったりであろう」
「そのとおりでございます。燃やそうが氷漬けにしようがなかなか死にません。そしてお得意様の伯爵様にだけにお伝えしたいご情報が……」
どうやら助けに来たのではなくぼくたちを買うために来たらしい。しかも買われたあともいい生活は出来そうにない。耐久性については実際優れているのだろう。日に日に傷が治るスピードが早くなっていっているのがわかる。でもだからなんだというのか。平民の魔法ならともかく貴族の魔法は直に当たれば一回でも致命傷になってしまう。
傷が治るスピードが早くとて一回で死ぬのかもしれないのなら意味が無い。
つまり、この貴族に買われるということは死が目の前になるということ。いつ死ぬか分からないとはいえそんなの選ばれないに越したことはない。
「実を言いますと、少し整えれば見目の美しいものが何体かございます。そのもの達には夜の世話をさせるのも悪くないかと。伯爵様がお相手ならきっと喜ぶでしょう」
「それもよいな。たしかに子ができる心配もない。そのほうがなんとも使えていい!貴様わかっているな」
ガハハと笑う三人にぞわりと鳥肌が立った。何せこの部屋には男しかいない。その部屋を見ながら言っているのだから男にその役割をさせるといっているのだ。冗談じゃない。そんなの嫌に決まっている。気持ちが悪い。
「……では伯爵、どの物にいたしましょうか」
「そうだな……その見目の美しいものにしたい。どれだ」
「見目の美しいものですと……一番手前の紺髪になります」
「ではその者にしよう。明日が楽しみだ」
この部屋で紺色の髪の毛はぼくしかいない。つまり僕が選ばれたのだ。暴力なら耐えられる。暴言なら気にしなければいい。ただそれは無理だ。いっそ自害してしまおうか。気づきたくなかった。このまま寝ていれば気づかず少なくとも一日はいつもどおり生きれたはずだ。
しかし、ぼくにはどうしようも無かった。諦めて運命に従うことしかできない。
「1011。出てこい。お前にいい話がある。」
ニヤニヤしながらぼくを呼ぶ声にぼくは近づく。話の内容はわかる。昨日の夜きいたあれだろう。心底吐き気がする。それでも知らないふりをしてついて行く。
着いて行った先はやはりあの伯爵と呼ばれた男の元だった。その男は品定めをするかのように上から下まで舐めまわすようにぼくを見始めた。
「伯爵様。こちらでございます。おいお前、跪いてご挨拶しろ」
ぼくの頭をつかみ床に押し当てる。ぼくは体勢が崩れてそのまま床に倒れ込んだ。
「よせよせ。そこまでせんでもよい。それにしてもなかなか良いでは無いか。よし、お前ワシの館へ連れて行ってやろう」
もちろん嫌であったがそんなことを言える雰囲気でもない。それにそもそもぼくには発言権など無いのだろう。研究員も「ぜひ」と答えている。もう諦めたんだ、そう自分に言い聞かせ目を閉じる。
「くれぐれも失礼なことをするなよ」
いつもと違う部屋に連れていかれそのまま水浴びやら着替えやらをさせられた。長年の傷はどうしても消せなかったらしく長めの袖の服を着せられた。そして髪を梳かされてまた長々と説明をされる。
「迷惑はかけるな」「逃げようと考えるな」「伯爵には逆らうな」内容はだいたいこんな感じ。そんなことをいちいち言わなくともしないしさせて貰えないだろう。通行儀礼だと思い聞き流した。
「それでは伯爵様。今度ともご贔屓に」
「ああ、また来よう」
研究所の偉い人と伯爵が少し話し、伯爵、ぼく、そして護衛の研究員が2人で馬車に乗った。ぼくは手枷と首輪をつけられ伯爵に引き渡された。
初めての外は思ったよりも眩しくてますます嫌になった。
町に近づくにつれて冒険者や親子、商人などの人にすれ違った。どうやら祭りがあるらしく皆派手な服を着て昼間から酒などを飲んで楽しんでいた。どこをみてもぼくみたいに首輪をつけられている人も手枷をつけられている人も居なかった。
いいなぁ、ただただそれだけを思ってみていた。どこを見ても楽しそうな子ばっかり。馬車が通ると貴族様だとみな頭を下げるばかりで中を見る人はいない。きっと中に奴隷のような者がいるなんて思ってもいないのだろう。やはり外を見ると苦しくなる。もう諦めたんだ。周りがどうとか気にしてはいけない。これがぼくの運命なんだ、そうまた言い聞かせる。最後に、と外を見ると少女がこちらに手を振った。そして口を動かして
おいで
と言った。
きっと茶化しているのだろう。そっちには行けない。あの風貌、おそらくどこかのご令嬢だろう。住む世界が違う。そうわかっている。
……だけど何故か気になってしまう。初めてこっちを見てくれた人。だめだ、気にするな。あの人なら助けてくれるかもと淡い期待に呑まれるな。わかっている。わかっているけど目が離せない。その時ガタン、と馬車が止まった。
「なんだ、故障か?おい!はやく発進しろ!」
そう伯爵が言っているとまた近くにあの少女が来た。そして口を動かしてまた言った。
こっちおいで
その時ぼくは思った。ああ、もう罠でもいい。彼女のほうへ行きたい。ぼくを見て欲しい。ぼくは
じゆうになりたい
護衛が伯爵と話して隙ができたその一瞬にぼくは馬車から飛び降りた。伯爵が「捕まえろ!」と叫び護衛も外に飛び出た。外の人達はなんだなんだと集まってきたが人混みをかき分けて、初めて自分の足で外に出た。




