缶詰
よろしくお願いいたします。
今日こそ彼女に告白する。健全な高校一年生のハルタは静かに意気込む。
ホームルームが終わり彼女は教室を出ると小走りで廊下を進む。真っ直ぐ下駄箱へ向かっている。
彼女の放課後は決まって大忙し。
ハルタはずっと見ていたから知っている。
彼女は2週間前の朝、登校中に落し物を拾った。
彼女の前を歩いていた人がポッケから落としたのだからそれは落し物だ。
落し物は缶詰。
見慣れた、よく流通している銀色のアルミ製だと思う。
スーツを着ていたその人はポッケから缶詰を落としたことに気付かずに学校の前を通り過ぎた。
優しい彼女はきっと落し物を返そうとしている。
ハルタは彼女が通学カバンに缶詰をしまうところも見ていた。
いつものように放課後はスーツの人を探しに行くのだ。
決まってハルタは彼女の後ろをつけて放課後を無駄に過ごす。
彼女はゆっくりと町中をねぶりまわすように歩いて探しに行く。
その悲しげで世の儚さを教えてくれるような青白い顔がハルタはたまらなく好きだった。
この世に未練を残した幽霊を感じさせる。
しかし今日はいつもと違った。
校門を出て右に歩くところを彼女は突然走りだした。
彼女の綺麗な顔はお誕生会の中心で笑顔を振りまく子どもの顔写真を張り付けたような表情をしていた。
後ろからでも表情がわかったのは単に後ろ走りで走っていたからだ。
夕暮れがハルタたちを赤く包み込む。
今日の彼女はとても嬉しそう。
僕が後ろをついているからかな。
彼女は清々しい表情をしている。
きっと腕も脚も首も全力で空回りさせているからだろう。
ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる
彼女の目はどこを向いているのだろう。
顔はハルタの方を向いているが視線は四方に飛ばしている。
ハルタは知らなかった。
彼女は陸上短距離走の才能があるのかもしれない。
だって赤信号をそのまま走って渡ろうとしている。
ハルタは足を止めたが彼女は進む。
彼女は優しく真面目な人だ。
行動理由は落し物を届けるためだ。
夕暮れは新鮮。
ハルタはまた彼女に伝えることができなかった。
もう伝えることもできないが。
それについて後悔はしていなかった。
後悔があるとすれば彼女の落とした缶詰を拾ってしまったことだ。
彼女の通学カバンからたくさんの缶詰がコロコロ道路に散っていった。
ハルタは考える。
僕はこの缶詰を彼女に返しに行かなくてはならないのだろうか。
いや、優しくなんかない僕には返す義理がない。
観察は好きだけど観察されるのは大嫌いなハルタは拾った缶詰をそっと地面に置いて帰ることにした。
他にも変な話を書いていますので読んでみてください。評価してくださると嬉しいです。




