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ジムのリングには、県内から集められた血気盛んな格闘家やモンスターたちが、獲物を狙う目をして列をなしていた。

コウタが「練習試合」と称してセッティングしたのは、地獄の「百人組手」だ。


「……百人? 冗談でしょ……? 十人も無理だよ、死んじゃうよ!」



「能書きはいい! 一人一分、休む暇はねえ。お前の身体に刻んだ『防御』がどこまで通用するか、実戦で試せ!」


試合開始のゴングと共に、一人目の猛者がティナの巨体に襲いかかる。

重厚な打撃がティナの腹を打つが、石切り場と一トン重りで鍛えた肉体は、それを冷徹に弾き返した。

だが、地獄はそこからだった。

二人目、三人目と入れ代わり立ち代わり、異なる戦術の刺客が送り込まれる。

次第にティナの呼吸は乱れ、鋼の防御にも綻びが見え始めた。

十人目。

現れたのは、鋭い刺突を得意とするスピードタイプの選手だった。


「……あ、うぅ……もう、腕が上がらない……っ」


死角からの蹴りがティナの脇腹を抉る。

一度崩れた肉体は、連戦の疲労で思うように反応しなかった。


「……待って、もうやめて! お願い、タイム! 降参、降参だから!」


ティナは膝をつき、鼻血を流しながら涙声で命乞いをした。

あまりの無惨な姿に、スパーリング相手の選手も拳を止め、審判役を務めていた他ジムのトレーナーが割って入る。


「……おい、コウタ。もう十分だろ。これ以上やったら、この娘の心が壊れるぞ。ストップだ」


会場に沈黙が流れる。

ティナは助かったという安堵感で、力なく床に這いつくばった。

だが、コウタの冷徹な眼光だけは、微塵も揺らいでいなかった。


「情けなし……!」


コウタの怒号がジムを震わせた。


「敵が情けをかけてくれたから命を拾ったか? そんな腑抜けた根性で、よくもリングに上がれたもんだ!」


コウタは這いつくばるティナの髪を掴み、無理やり引きずり起こすと、そのままジムの外に待機させていた軽トラックの荷台へ投げ飛ばした。


「試合は終わりだ。だが、特訓は終わっちゃいねえ。その腐った根性、走りながら叩き直してやる!」


コウタは麻縄をティナの胴体に巻き付け、トラックのフックに固定する。


「……いやっ、走れない! もう足が動かないよお!」



「動け! 動かなければ引きずられるだけだ!」


アクセル全開のエンジン音が深夜の街に轟く。

泣き叫びながら、夜道を必死に追いかけるティナの影。


深夜のジムに、肉体と肉体が衝突する鈍い音が絶え間なく響く。

気絶走りから引きずり戻されたティナを待っていたのは、慈悲なき一週間の連続打ち込み稽古だった。


「……う、あ……ぁ……」


ティナの腕は腫れ上がり、視界は涙と汗で歪んでいる。

だが、コウタの拳は一分一秒の休みも許さず、ティナの急所を的確に突き続けた。


「ニート根性を捨てろ! お前のその甘えが、リングの上で無様に命乞いをさせたんだ!」



「……だって、もう……力が入らないんだもん……っ」



「口を動かす暇があるなら、本気を出せ! 腕を上げろ! 足を動かせ! 理論や計算じゃねえ、気合いと根性ですべてを塗り潰せ!」


コウタの叫びが、限界を超えたティナの脳髄を叩き割る。

一時間、半日、一日。

時間の感覚はとうに消え、ティナはただ、襲いかかる絶望を打ち払うためだけに、泥にまみれた拳を突き出した。

三日目を過ぎる頃、ティナの目から光が消え、代わりに底知れぬ「昏い火」が宿り始めた。

寝食を忘れ、ただ打ち込む。

四日目、五日目……。

コウタの罵声が子守唄のように聞こえ始め、ティナの動きはもはや思考を介さず、反射と本能だけで最適解を叩き出す「戦闘機械」のそれへと昇華されていった。

七日目の夜。

満身創痍のティナが放った最後の一撃が、コウタの防御を激しく弾き飛ばした。



一週間に及ぶ不眠不休の打ち込み稽古が終わり、ジムには静寂と、焦げ付いたような汗の臭いだけが残っていた。

ティナは床に座り込み、幽霊のように虚空を見つめている。

腫れ上がった拳、紫に染まった全身。

もはや涙を流す水分すら、彼女の身体には残っていなかった。

そこへ、コウタが古びた大鍋を抱えて現れた。


「……一週間ぶりだ。食え」


ドロリ、と重苦しい音を立てて皿に盛られたのは、小麦粉で練り上げられた昭和の黄色いカレーだった。

具材は無造作に切られた巨大な肉と、形がなくなるまで煮込まれた野菜。

スパイスの刺激臭が、ティナの失われていた嗅覚を暴力的に突き刺した。

ティナはスプーンも使わず、震える手で皿を掴むと、そのまま顔を突っ込んだ。


「……っ、ふ、ぐ……っ!!」


喉を鳴らし、文字通り獣のようにカレーを貪る。

熱さも辛さも、今の彼女には極上の快楽でしかなかった。

ドロドロのルーが顔中にこびりつき、鼻から抜ける香りが、泥のように眠っていた胃腸を強制的に叩き起こす。

コウタは、その光景を黙って見下ろしていた。


「……そうだ。死ぬ気で食って、死ぬ気で消化しろ。その泥のようなカレーが、明日のお前の血となり、相手をぶち殺すための力になる」


ティナは一言も発しない。

ただ、皿の底を削り取るような音だけが、深夜のジムに不気味に響き続けていた。

その瞳には、かつての知性はなく、ただ生存と捕食を求めるディノの渇きだけがぎらついていた。

【d-tube:168時間特訓後の「給餌」ライブ】

動画タイトル:【閲覧注意】特訓明けの食事シーンが完全に「猛獣の餌付け」な件。

1. 激辛マニア:

あのカレー、見ただけで分かる。めちゃくちゃ重くて、胃にくるやつだ……。

それをあんな勢いで食うなんて、代謝がバグり始めてる証拠。

2. 匿名:

ティナの目がヤバい。

一週間前はあんなに「帰りたい」って泣いてたのに、今はコウタの言葉すら耳に入ってない感じだ。

ただ「力」を取り込むことだけに集中してる。

3. 古参格闘ファン:

昭和のジムにはよくあった光景だよ。

極限まで追い込んで、内臓まで空っぽにしてから、高カロリーなものをぶち込む。

これが一番、身体がデカくなるんだ。

4. メンタルケア専門家:

完全に自我が消失してますね。

今の彼女を動かしているのは、コウタへの本能的な信頼と、飢餓感だけです。

5. 運営事務局:

(※この食事風景だけでスパチャが100万円を超えました)


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