雨宿りは雨が上がればそりゃできない
東屋に腰掛ける自分は、目の前に広がる大雨を何とも思わずに、ただ時間が過ぎるのを待っていた。紫に変色したあざのある左腕と下手なガーゼの張られ方をされた顔をこすりながらずっと待っていた。
「もう、どっかに逃げちゃおうかな……」
わざと大雨に遮られるように、言葉を垂れ流す。
だって、自分ができるはずないのは分かってるから。
もうすぐ、自分を見つける人がいる。自分を叱る人がいる。――そんなこと考えただけで、この雨といっしょに消えてしまいたくなる。そんなとき、
「――だったら、行こうよ」
どこかから、どこからもそんな声が聞こえてきた。
声のする方を見て、誰が自分の元に来てくれたのかがわかった。
――雨――
雨粒が一粒一粒落ちるたびに、声が、言葉が聞こえる。
「こっちにきて」
「あそぼうよ」
「もうこんなところにいないで」
心から嬉しいはず、だった。でも、なぜだろう。
「僕は、」
声がつっかえて出てこない。言いたいはずの言葉がまったく。
「ここにのこるの」
「こっちにくるの」
「どっちなの」
何も言えない。なぜか言えない。なんで、なのかな。
「こっちにきたら」
「ここにのこったら」
「きみはどうしたいの」
どうしたい、か。
「それは当然、逃げたいよ。でも何でだろう」
自分の問いに雨は教えてくれた。
「それはきみに、たいせつなものがあるから」
「それはきみに、いきてたいときがあるから」
「それはきみに、してみたいことがあるから」
雨たちの声を破って、一つの答えが心を刺す。
「それはきみが、じぶんをあきらめないから」
「自分を、諦め、ないから」
自分のなかでも、きれい事なのは分かってる。でもそれが何となく答えな気がした。
「僕は逃げない。立ち向かってみるよ」
心が晴れ晴れとしていく。それに呼応するように、雨粒たちが次々に上空へと吸い込まれていった。最後の一粒が消えてしまうまで、透き通った雨たちが自分に言葉を掛けてくれた。
最後の一粒は言ってくれたんだ。
「つらいときは、あめをおもって。かならずきみをたすけるから」
目を覚ます。
いつの間にか、東屋で寝てしまっていたみたいだ。
夢はいつも忘れるのに、今日のはしっかりと覚えている。
「あっ、子供たちを迎えに行かないと」
懐かしい記憶を思い出した僕の心と、ふと見た空はどこまでも透き通っていた。
「がんばってね」




