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雨宿りは雨が上がればそりゃできない

掲載日:2025/12/20

 東屋に腰掛ける自分は、目の前に広がる大雨を何とも思わずに、ただ時間が過ぎるのを待っていた。紫に変色したあざのある左腕と下手なガーゼの張られ方をされた顔をこすりながらずっと待っていた。

「もう、どっかに逃げちゃおうかな……」

 わざと大雨に遮られるように、言葉を垂れ流す。

 だって、自分ができるはずないのは分かってるから。

 もうすぐ、自分を見つける人がいる。自分を叱る人がいる。――そんなこと考えただけで、この雨といっしょに消えてしまいたくなる。そんなとき、

「――だったら、行こうよ」

 どこかから、どこからもそんな声が聞こえてきた。

声のする方を見て、誰が自分の元に来てくれたのかがわかった。

――雨――

 雨粒が一粒一粒落ちるたびに、声が、言葉が聞こえる。

「こっちにきて」

「あそぼうよ」

「もうこんなところにいないで」

心から嬉しいはず、だった。でも、なぜだろう。

「僕は、」

声がつっかえて出てこない。言いたいはずの言葉がまったく。

「ここにのこるの」

「こっちにくるの」

「どっちなの」

何も言えない。なぜか言えない。なんで、なのかな。

「こっちにきたら」

「ここにのこったら」

「きみはどうしたいの」

どうしたい、か。

「それは当然、逃げたいよ。でも何でだろう」

 自分の問いに雨は教えてくれた。

「それはきみに、たいせつなものがあるから」

「それはきみに、いきてたいときがあるから」

「それはきみに、してみたいことがあるから」

 雨たちの声を破って、一つの答えが心を刺す。

「それはきみが、じぶんをあきらめないから」

「自分を、諦め、ないから」

 自分のなかでも、きれい事なのは分かってる。でもそれが何となく答えな気がした。

「僕は逃げない。立ち向かってみるよ」

心が晴れ晴れとしていく。それに呼応するように、雨粒たちが次々に上空へと吸い込まれていった。最後の一粒が消えてしまうまで、透き通った雨たちが自分に言葉を掛けてくれた。

最後の一粒は言ってくれたんだ。

「つらいときは、あめをおもって。かならずきみをたすけるから」


目を覚ます。

いつの間にか、東屋で寝てしまっていたみたいだ。

夢はいつも忘れるのに、今日のはしっかりと覚えている。

「あっ、子供たちを迎えに行かないと」

懐かしい記憶を思い出した僕の心と、ふと見た空はどこまでも透き通っていた。

「がんばってね」

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