第43話 「レイの問い」
誰かの代わりに生きることは、
やさしさにもなり、呪いにもなる。
少女は今日、その鎖を“自分の意志”で外せるかを試される。
第三勢力宙域・精神投影空間。
レイの目の前には、見覚えのある光景が広がっていた。
小さな避難船。
わずかに用意された、ひとつの席。
そして、その席の前に立つ――
もう一人の自分。
(……また、これ……)
胸の奥が、ひりつくように痛む。
◇ ◇ ◇
背後には、若い父と母の姿。
あの日と同じ、
優しくて、どこか覚悟を決めた顔。
「レイ……お前が行きなさい」
「あなたが、生きるの」
記憶の中の声は、完璧に再現されていた。
(……やめて……
それ以上、言わないで……)
――《問い:
“代わりに座る人生”を、ここでも選ぶか》
空間から、直接意味が流れ込む。
◇ ◇ ◇
レイの足は、無意識に一歩、席へ向かいかけ――
そこで、止まった。
(……私は……
ずっと、それを選んできた……)
家族の命の代わりに。
仲間の席の代わりに。
ヒナタの席の代わりに。
(……でも……)
胸に、チサの声が蘇る。
――「一緒に言おう。“おかえり”って」
小さく、拳を握る。
(……私は……
“誰かの席”に座りたいんじゃない……)
◇ ◇ ◇
レイは、ゆっくりと席から“横にずれた”。
その瞬間、もう一人の自分が、驚いたようにこちらを見る。
「……どうして……?」
レイは、静かに答えた。
「……私は……
“代わり”としてじゃなく……」
一度、深く息を吸う。
「……“迎える側”として、生きたいからです」
◇ ◇ ◇
次の瞬間。
背後にいた両親の姿が、少しだけ柔らかく微笑んだ。
「……それでいい」
「……やっと、自分で選べたね」
その声は、責めるものでも、命令するものでもなかった。
ただ、
“見送る声”だった。
◇ ◇ ◇
――《問い:
“誰かが戻ってきたとき、
その席を本当に空け渡せるか”》
レイは、間髪入れずに答えた。
「……はい」
「……私は……
その人の席を奪うために、
ここにいるわけじゃありません」
そして、少しだけ震えながら、続ける。
「……私は……
“帰ってきてもいい場所”を……
守るために、座っているだけです」
◇ ◇ ◇
空間が、ふっとほどけた。
避難船も、席も、両親も、
ゆっくりと光に溶けていく。
――《選択、確認》
◇ ◇ ◇
次の瞬間、レイは機体のコックピットに戻っていた。
荒い呼吸。
汗ばんだ手。
それでも――
胸の奥は、不思議と軽かった。
「……私は……
初めて……
自分の席に、座れた……」
◇ ◇ ◇
――《レイさん!》
チサの通信が、すぐに届く。
「……どう?
そっち……」
レイは、少しだけ間を置いて答えた。
「……大丈夫です」
そして、静かに言う。
「……今度は……
逃げません」
その言葉には、
“代わりに生きる覚悟”ではなく、
**“自分として迎えに行く覚悟”**が宿っていた。
レイは今日、“代わりに座る人生”から一歩、外へ踏み出した。
誰かの命の順番に自分を差し出すのではなく、
誰かが戻ってくる席を守るという選択。
それは同じ「座る」でも、まったく違う意味を持つ。
少女は初めて、“自分の席”に座ったまま、
誰かを迎えに行ける存在になった。




