第42話 「チサの問い」
同じ問いは、
同じ人間に、同じ答えしか許さないわけではない。
だがそれは、“変わる勇気”がなければ、選び直すことすらできない。
第三勢力宙域・精神投影空間。
チサの前に立ちはだかるのは、
かつてと同じ光景だった。
――崩壊寸前のコロニー。
――背後に逃げ遅れた避難船。
――正面には、超級個体の影。
(……また、これ……)
胸が、ぎゅっと締めつけられる。
――《問い:
彼女を迎えに行くか。
ここに残り、誰かを守るか》
答えを急かす声ではない。
だが、逃げ場のない“事実”として、その二択は存在していた。
◇ ◇ ◇
(……前と同じなら……
私は、ここに残る……)
ヒナタも、レイも、
それを“当然”だと思っているはずだった。
(……だって……
それが、私の役割……)
一歩、前に出かけ――
チサの足が、止まる。
(……違う……)
あのとき、自分は“塞ぐことしかできない”と思っていた。
それ以外の選択肢が、見えなかっただけだった。
◇ ◇ ◇
チサは、ゆっくりと後ろを振り向いた。
そこには――
今まさに発進しようとしている、小さな避難艇。
そこに、子どもの姿が見える。
(……守らなきゃ……)
その想いは、消えない。
だが――
(……でも……
私がここに残ったら……
ヒナタは、誰が迎えに行くの……)
その問いも、同じくらい重かった。
◇ ◇ ◇
「……私は……」
チサは、小さく声を出した。
誰に聞かせるでもない、独り言のような言葉。
「……“一人で全部”は……
もう、やらない……」
そして、通信を開く。
「……避難艇。
最短ルートで、脱出してください」
――《だ、誰が誘導するんですか!?》
「……自動誘導、起動。
コロニー側の管制と直結して」
一瞬の沈黙のあと、応答が返る。
――《……了解……!》
避難艇が、光の航路へ向かって加速を始めた。
◇ ◇ ◇
チサは、ゆっくりと正面を向き直る。
超級個体は、なおも迫ってくる。
だが――
そこに、以前ほどの“絶望”はなかった。
(……守る……
でも……
私が、全部背負うんじゃない……)
チサのは視線は、恐怖よりも、決意に近かった。
◇ ◇ ◇
次の瞬間。
超級個体の影が、チサの目前まで迫る。
――《問い:
それでも、彼女を迎えに行くのか》
チサは、まっすぐ答えた。
「……行く」
一拍。
「……戻る場所を……
一緒に、守るために」
世界が、ふっと歪んだ。
◇ ◇ ◇
崩壊寸前だったコロニーの映像が、
ゆっくりと“消えていく”。
避難艇が、無事にワープアウトする光景だけが残った。
――《選択、確認》
空間が、静かに静止した。
◇ ◇ ◇
次の瞬間、チサは、自分の機体の中に“戻って”いた。
計器が、再び意味を持ち始める。
「……戻って……きた……?」
胸に、確かな痛みと、確かな鼓動。
それが“現実”であることの証だった。
――《チサさん……!》
レイの通信が、割り込んでくる。
「……無事だった……?」
「……うん……
たぶん……
合格、した……」
◇ ◇ ◇
チサは、静かに目を閉じた。
(……ヒナタ……
今度は……
塞がないで、迎えに行くよ……)
それは、
これまでの自分を否定するのではなく、
超えていくという宣言だった。
チサは再び“守るか、迎えに行くか”を問われた。
かつての彼女は、迷いなく守る側を選んだ。
だが今回は違った。
彼女は“誰かに任せる”という、新しい選択を受け入れた。
それは弱さではなく、
ヒナタを取り戻すために必要な“分担”の強さだった。




