第41話 「異界の歓迎」
歓迎とは、必ずしも優しさの形をしていない。
ときにそれは、
“生き残れるかどうか”を試す、静かな問いとして現れる。
第三勢力宙域・不定安定層。
チサとレイの機体は、光の関門を抜けた直後、
奇妙な“静止”状態に置かれていた。
「……動けない……?」
チサが操縦桿を引くが、反応がない。
「……推進は生きてます。
でも……“世界のほうが、止まってる”感じです……」
レイの声も、どこか現実味が薄かった。
◇ ◇ ◇
周囲には、星も、闇も、上下も存在しない。
ただ、淡い光の粒子が、呼吸するように膨張と収縮を繰り返している。
「……ねえ、レイ……」
「……はい」
「……ここ、
音が……ない……」
敵襲警報も、振動も、通信ノイズも存在しない。
“戦場の音”が、すべて消えていた。
◇ ◇ ◇
そのとき――
正面の空間が、静かに“割れた”。
裂け目の奥から現れたのは、
兵器でも、艦でもない、“人の形をした光”。
「……来た……」
チサの手に、無意識に力が入る。
「……第三勢力……
個体……?」
その存在は、三歩ほどの距離まで近づき、
ふっと“顔のような輪郭”を形作った。
だが、目も、口も、感情すらない。
ただ、“観測する意識”だけが、そこにあった。
◇ ◇ ◇
――《侵入個体、二名》
――《識別:人類パイロット》
直接、頭の内側に流れ込んでくる声。
「……言葉……?」
「……音じゃなくて……
“意味”が来てます……」
「……君たちは……
敵……?」
チサが、恐る恐る問いかける。
一拍。
――《敵ではない》
――《味方でもない》
「……やっぱり……」
――《問う》
――《君たちは、“何を取り戻しに来た”》
チサは、強く息を吸った。
「……仲間です」
「……アオイ・ヒナタという少女を……
連れて帰りに来ました」
その“存在”は、しばらく沈黙した。
◇ ◇ ◇
――《その名は、ここにある》
その言葉と同時に、
空間の奥に、ひとつの“映像”が浮かぶ。
そこには――
光の中で訓練を続ける、ヒナタの姿。
「……っ……!」
チサの喉が、詰まる。
「……本当に……
生きてた……」
だが次の瞬間、映像が歪んだ。
ヒナタの輪郭が、少しだけ“薄く”なる。
――《だが、彼女は“こちら側”へ進みつつある》
「……戻れなくなる、ってこと……?」
――《その理解で、概ね正しい》
レイが、強く拳を握る。
「……だから……
迎えに来たんです」
◇ ◇ ◇
“存在”は、わずかに形を変えた。
――《歓迎する》
二人の周囲に、淡い光の輪が出現する。
――《君たちの意志を、測定する》
「……やっぱり……
試されるんだ……」
――《この領域において、“願い”は力であり、
同時に“制約”となる》
◇ ◇ ◇
次の瞬間。
チサとレイの機体は、強制的に分断された。
「……チサさん!?」
「……レイ!?
通信が……!」
二人の間に、見えない壁が出現し、
互いの存在が“概念的に引き離される”。
――《君たちには、それぞれ“越えるべき問い”がある》
◇ ◇ ◇
チサの前に現れたのは――
傷だらけの自分の機体。
その背後に、崩壊寸前のコロニー。
そして、前方には超級個体の影。
(……また……
“塞げ”って……言うの……?)
――《問い:
“彼女を迎えに行くこと”と、
“ここで誰かを守ること”
両方を選べるか》
胸の奥が、きつく痛む。
◇ ◇ ◇
一方、レイの前に現れたのは――
避難船の席と、
そこに座る“もう一人の自分”。
そして、背後には両親の姿。
――《問い:
“代わりに座る人生”を、
ここでも続けるか》
レイの呼吸が、震えた。
◇ ◇ ◇
異界は、二人にそれぞれの“過去と本質”を突きつける。
これは戦闘ではない。
これは試練でもない。
“その人が、何を選び続ける存在なのか”を測る、静かな確認だった。
そしてこの問いは、
ヒナタへと辿り着く資格そのものを、今、彼女たちに突きつけていた。
第三勢力の歓迎は、武器ではなく“問い”だった。
チサは守る選択を、レイは譲る選択を、再び突きつけられる。
それは過去の再現であり、未来の分岐でもある。
ヒナタへと辿り着くために必要なのは、強さではない。
“同じ選び方を、もう一度する覚悟があるか”――
その一点だけだった。




