第39話 「回収作戦」
失われたものを取り戻す計画は、
いつも“無謀”から始まる。
だが、それでも人は、手を伸ばすことをやめられない。
アステリア防衛線・臨時作戦司令室。
巨大スクリーンに、見慣れない宙域の座標が投影されていた。
「――第三勢力が介入したポイントを逆算した結果、
ヒナタが存在する可能性が最も高い宙域が、ここだ」
司令官の声は、沈んでいる。
「……“存在する可能性”……」
チサは、その言葉を噛みしめる。
「確認されたわけじゃないんですね……」
「確認できたら、すでに戦局は終わっている」
それが、この戦争の現実だった。
◇ ◇ ◇
「この作戦を、
仮称――《回収作戦》とする」
スクリーンが切り替わり、
赤く点滅する航路が表示された。
「目的は一つ。
アオイ・ヒナタの“生存確認”および、可能であれば帰還補助」
チサの心臓が、強く打つ。
「……“可能であれば”……」
「断言しない理由がある」
司令官は、視線を伏せた。
「第三勢力の宙域は、人類の物理法則が通用しない」
「……つまり……」
「入った者が、戻れる保証は一切ない」
司令室が、静まり返った。
◇ ◇ ◇
「作戦成功率は?」
レイが、静かに尋ねる。
数名の解析士が顔を見合わせ、
重く口を開く。
「……生存確認のみで、三割以下」
「帰還まで含めると……一割未満です」
「……一割……」
チサは、奥歯を噛みしめた。
(……十分だ……
ゼロじゃない……)
◇ ◇ ◇
「……仮配属第一小隊――チサ班」
司令官が、まっすぐにチサを見る。
「本作戦への参加を、要請する」
その言葉は、命令ではなく、“選択”だった。
「……なお……」
一拍、間を置いて続く。
「第三勢力宙域に侵入した場合、
軍の救援は不可能となる」
「……つまり……」
チサが、静かに言う。
「……“行った人間は、自己責任”ってことですね」
「……そうだ」
◇ ◇ ◇
司令室を出たあと。
チサとレイは、静かな廊下を並んで歩いていた。
「……正直……」
レイが、ぽつりとこぼす。
「……私は……
怖いです」
「……うん」
チサは、否定しなかった。
「……私も……
めちゃくちゃ怖い」
二人は、しばらく無言で歩く。
◇ ◇ ◇
「……それでも」
レイが、顔を上げた。
「……私は、行きます」
「……理由は?」
「……預かってるからです」
その言葉に、チサは足を止めた。
「……ヒナタさんの席も……
命も……
まだ、返してない」
レイの目は、強く揺れていた。
「……だから……
返しに行きます」
◇ ◇ ◇
チサは、少しだけ笑った。
「……それ、
私が言うセリフだった」
「……一緒に言えばいいじゃないですか」
レイも、小さく笑う。
「……行こう」
チサは、まっすぐ前を見る。
「……取り戻すよ。
今度は……
“ヒナタを、塞ぐため”じゃなくて……」
一呼吸。
「……“連れて帰るため”に」
◇ ◇ ◇
数分後。
チサは、正式な端末に認証を通した。
――《仮配属第一小隊:回収作戦参加、承認》
その通知の下に、
レイの承認が、ほぼ同時に点灯する。
――《キサラギ・レイ:参加、承認》
もう、迷いはなかった。
回収作戦は、戦術ではなく祈りに近い。
成功率一割未満の作戦に、二人の少女は迷わず手を挙げた。
それは軍人として正しい選択ではない。
だが、仲間としては、間違っていない。
今度こそ彼女たちは、誰かを“置いていかない”戦い方を選ぼうとしている。




