表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トップを越えろ!  作者: たむ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/45

第28話 「帰れない距離」

帰れないと知ることは、

帰りたいと願い続けるよりも、ずっと苦しい。

少女は今日、“名前の扱われ方”で現実を突きつけられる。

 アステリア防衛線・司令部ブリーフィングルーム。


 壁面スクリーンには、戦死・行方不明者のリストが、淡々と表示されていた。


「……次は……」


 チサは、無意識に番号を数える。


 表示が切り替わる。


――《アオイ・ヒナタ/Status:MIA》


 MIA(Missing In Action)。

 戦闘行方不明。


 それは、“生存も死亡も確認されていない者”に与えられる、冷たい区分だった。


「……行方不明……」


 声に出した瞬間、自分の声が、ひどく遠くに聞こえた。


◇ ◇ ◇


「――現時点をもって、アオイ・ヒナタの捜索は、軍事優先順位“低”へ移行する」


 司令官の言葉が、静かに下される。


「……低……?」


 チサの指が、震えた。


「外縁宙域の戦線は、さらに拡大している。

 正規部隊の投入が追いつかない以上、行方不明者の継続捜索は――」


「……打ち切り、ってことですか……?」


 その問いに、司令官は答えなかった。

 だが、沈黙そのものが、答えだった。


「……ヒナタは……

 “もう探さない人”になるんですか……?」


 その問いも、誰も拾わなかった。


◇ ◇ ◇


 ブリーフィング終了後。


 チサは、資料を胸に抱えたまま、廊下の壁にもたれかかっていた。


「……そんなの……」


 ヒナタは、あの戦場で、確かに戦っていた。

 確かに、生きていた。


 それなのに――


「……MIAって……

 ただの、記号じゃん……」


 生きてるかもしれないのに。

 死んでるかもしれないのに。


 どちらでもない“保留”のまま、

 社会から静かに消されていく区分。


◇ ◇ ◇


 医療デッキ。


 ユウは、まだ意識が戻らないままだった。


 チサは、隔離カプセルの横に立ち、ガラス越しに顔を見る。


「……ヒナタさ……

 変なところで、約束守る人だったじゃん」


 “戻る”って言ったら、絶対に戻ってくる人。


「……なのに……」


 声が、途中で詰まる。


「……戻れない距離まで、

 行っちゃったの……?」


◇ ◇ ◇


 その日の夜。


 チサは、一通のデータを受信した。


――《仮配属第一小隊・再編完了通知》

――《小隊名:チサ班》


 かつて、“ヒナタ班”と呼ばれ始めていた部隊は、

 正式に“チサ班”へと名称を変えられていた。


「……消された……」


 ヒナタの席は、

 名前ごと、戦場から消されようとしている。


「……そんなの……

 認めない……」


 チサは、資料を強く握りしめた。


「……あんたが帰ってくるまで……

 あの席は、空けておく……」


 涙は、出なかった。


 代わりに、胸の奥に

 冷たい、硬い何かが沈んでいく。


◇ ◇ ◇


 同じ時間。


 誰にも知られない宙域。


 ヒナタは、静かな部屋の窓から、見知らぬ星を見ていた。


「……チサ……

 きっと、怒ってるだろうな……」


 小さく、笑う。


「……でも……

 戻るから……」


 その言葉が、どれほど遠い約束になってしまったのか、

 彼女自身だけは、まだ知らなかった。

行方不明という言葉は、希望と絶望の両方を切り離す。

生きているかもしれないという可能性と、

もう戻らないかもしれないという現実。

チサは今日、ヒナタの名前が“戦場の記録”へと変えられた瞬間を見た。

だが、記録になったからといって、思い出まで消えるわけではない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ