第22話 「死神の影! アステリア迎撃戦、崩壊」
守るために立った場所が、
次の瞬間には、逃げ場のない地獄になる。
戦場は、人の覚悟が固まるのを待ってはくれない。
アステリア防衛線。
仮配属第一小隊――ヒナタ、チサ、ユウは、防衛ラインの最前で後退誘導を続けていた。
「斥候級、まだ増えてる!」
「数が……減らない……!」
撃墜しても、回避しても、黒い影は次々と宙域の奥から湧き出てくる。
(おかしい……
こんな数、ブリーフィングには……!)
ヒナタの胸に、初めて“予想外”という名の不安が広がった、そのときだった。
――《上位反応、再検知》
――《複数、同時出現》
「……複数!?」
宙域の遠方に、ゆっくりと“歪み”が三つ、生まれる。
そこから現れたのは――
これまでの巨大反応体より、さらに禍々しい、鎌のような腕を持つ影だった。
「……あれ……生き物……?」
「違う……
“殺すための形”をしてる……」
ユウの声が、震えていた。
次の瞬間。
――ザシュッ!!
一体のヴォイドが、信じられない加速で突進する。
「チサ、回避!!」
だが、その動きは、回避角度そのものを“読んでいた”。
――ドォンッ!!
「きゃあっ!!」
チサの機体が、はじき飛ばされ、制御不能に陥る。
――《右推進部、大破》
――《姿勢制御、喪失》
「チサ!!」
「……生きてる! でも……動けない……!」
ヒナタの視界が、狭くなる。
(守る……って言ったのに……
もう、守れなかった……!?)
さらに二体の上位反応体が、同時に襲いかかってくる。
「ユウ、下がれ!!」
「無茶言うなっ……!」
ユウの機体が、かわしきれず、側面を抉られる。
――《左翼部、破損》
「……くそっ……!」
防衛線が、明らかに崩れ始めていた。
◇ ◇ ◇
防衛司令部。
「迎撃部隊、まだなの!?」
「間に合いません!
敵の出現速度が、想定の三倍です!」
「くそ……アステリアが……!」
◇ ◇ ◇
戦場。
三人は、すでに“逃げながら守る”段階を越えつつあった。
「ヒナタ……どうする……!?」
「……」
ヒナタは、一瞬だけ、背後を見る。
そこには、まだ避難輸送が終わっていないコロニーの群。
小さな灯り。
人の生活の、残り滓。
(……越えさせないって、決めたのに)
だが、現実は容赦なく押し寄せる。
チサの機体は、漂流状態。
ユウも、これ以上の被弾は致命的。
ヒナタひとりで、この“死神の群れ”を止めることは――
(できない……)
その事実が、はっきりと浮かび上がる。
その瞬間だった。
――《感情振幅、急上昇》
――《オーバードライブ兆候、発生》
(だめ……!
ここで、出したら……!)
シキ・クロウの一撃が、脳裏をよぎる。
――“それを、待っていた”
ヒナタは、歯を食いしばった。
「……出ない……!」
機体が、震える。
(速くならなくていい……
勝てなくていい……)
ヒナタは、操縦桿を引き寄せた。
「……今は、塞ぐだけでいい……!」
◇ ◇ ◇
ヒナタは、正面の上位反応体一体に正対した。
受け流し型。
真正面からぶつからない戦い。
だが、相手は三体。
(全部は……無理……)
一体の突進を、角度で逸らす。
――ズドォンッ!!
二体目の斬撃が、掠める。
――《外装、大破》
三体目が、背後へ回り込む。
(……来る……)
その瞬間。
「ヒナタ、伏せろおおおお!!」
ユウの機体が、限界を超えた加速で突っ込んできた。
――ドォォン!!!
背後から迫っていたヴォイドと、正面衝突。
「ユウッ!!」
――《ユウ機、推進炉停止》
――《緊急脱出信号、発信》
「……脱出、成功……した……ぜ……」
弱々しい通信。
だが、ユウの機体は、爆散した。
ヒナタの胸が、大きく裂けそうになる。
(……守れた……
でも……失った……)
その一瞬の隙を、敵は見逃さない。
最大級の上位反応体が、ヒナタへ照準を合わせる。
「……私か……」
ヒナタは、恐怖で喉が詰まるのを感じながら、それでも前を向いた。
(ここで……
下がったら……全部、終わる)
シールド展開。
だが、エネルギー残量は、すでに限界。
死神の鎌が、振り下ろされる。
――その直前。
――《広域反応、改変》
――《大型兵器、戦場投入》
宙域全体が、まばゆい光に包まれた。
次の瞬間、ヴォイドの大群が、まとめて吹き飛んだ。
◇ ◇ ◇
「……なに……?」
視界を覆っていた光が収まると、そこに現れたのは――
無数の砲塔を背負った、巨大な防衛艦隊の先鋒だった。
「……遅れてすまない」
低く、落ち着いた声が通信に乗る。
「宇宙防衛軍・第二主力艦隊。
これより、アステリア迎撃戦に介入する」
戦場に、初めて“希望”が流れ込む。
だが――
《……敵、主力反応……この宙域外縁に追加出現……》
新たな警告が、無慈悲に表示された。
ヒナタの背筋を、冷たいものが走る。
(……まだ……終わってない……)
戦場は、勇気よりも先に犠牲を差し出してくる。
アオイ・ヒナタは今日、初めて「守れたもの」と「失ったもの」を同時に手にした。
守るために立った場所は、もはや安全圏ではない。
希望は来た。
だが戦争は、ここからが本番だと、容赦なく告げている。




