第21話 「初任務! アステリア防衛線へ」
訓練は、準備でしかなかった。
本当の戦場は、何も教えてくれない。
生き方も、守り方も、間違いさえも。
すべては――一瞬で、結果になる。
仮配属輸送艦は、静かに星間航路へと入っていった。
窓の向こうで、星々が線となって流れていく。
「……本当に、行くんだね」
チサが、小さく呟く。
「……もう戻れないって感じがする」
「戻るよ」
ヒナタは、前を向いたまま答えた。
「戻るって、約束したから」
ユウが、少しわざとらしく笑う。
「よし、じゃあ全員生還な。
それがこのチームの初ミッションだ」
“チーム”という言葉に、ヒナタの胸が少しだけ温かくなった。
◇ ◇ ◇
艦内ブリーフィングルーム。
「これより、第七外縁宙域防衛線の現状を共有する」
スクリーンには、巨大な星系マップが映し出された。
「現在、敵性存在《ヴォイド反応体》の小規模出現を確認中」
「……敵……」
「確認されているのは、斥候級のみ。
だが――」
画面が切り替わり、破壊された無人観測ステーションの映像が映る。
「“単独行動では対処不能”な個体も含まれる」
艦内の空気が、一気に引き締まった。
「君たちの役割は、正規部隊が来るまでの“時間稼ぎ”だ」
「つまり……倒さなくていい?」
「倒せるなら倒せ。
だが、最優先事項は“生還”と“市民防衛”だ」
ヒナタの心臓が、どくんと鳴る。
(“生き残れ”……
訓練と、同じ言葉なのに……
重さが、全然違う)
◇ ◇ ◇
アステリア防衛線。
無数の小型防衛ステーションと、移動型コロニー群が、宙域に点在していた。
「……きれい」
チサが、思わず声を漏らす。
だが次の瞬間、警報が艦内に響き渡る。
――《敵性反応、複数確認》
――《第一警戒レベル、発令》
「……来た」
ヒナタの喉が、ひくりと鳴った。
「仮配属要員、出撃準備!」
格納庫が開き、三人のヴァルキュリアが並ぶ。
「ヒナタ、いつも通りでいい」
「うん……受け流して、生き残る」
チサとユウも、深くうなずいた。
カタパルトが起動する。
「仮配属第一小隊、出撃!」
次の瞬間、三人は戦場へと放り出された。
◇ ◇ ◇
宙域の奥で、“それ”は静かに漂っていた。
黒く、歪んだ輪郭。
生物とも、機械ともつかない存在。
「……あれが、ヴォイド……」
センサーが悲鳴のような音を立てる。
「ヒナタ、右から反応!」
「来る……!」
斥候級ヴォイドが、音もなく加速する。
(速い……ドローンより……)
ヒナタは、正面から迎え撃たなかった。
(追わない……
競らない……)
相手の進路に、機体の軸を“置く”。
――ズドォンッ!!
ヴォイドは、ヒナタをかすめ、背後のデブリに激突した。
「……通った!」
だが、その瞬間。
――《反応追加――上位反応体出現》
「……嘘でしょ……?」
巨大な影が、宙域の奥から、ゆっくりと姿を現す。
斥候級とは比べ物にならない圧力。
「これ……時間稼ぎどころじゃ……」
ヒナタの心拍が、跳ね上がる。
(怖い……
でも……)
通信越しに、チサの声が震えながらも響いた。
「ヒナタ……逃げないよね」
「……うん」
ユウも、声を張り上げる。
「俺たち、守る側だろ!」
ヒナタは、操縦桿を強く握った。
「……全機、後退しながら誘導!
正規部隊が来るまで、絶対にここで踏み止まる!」
三機は、ゆっくりと後退しながら、防衛ラインの前に立ち続けた。
その背後には――
まだ避難しきれていない、コロニーの灯り。
ヒナタの視界に、小さな生活の光が映る。
(……ここを、越えさせない)
それが、彼女の最初の“守る戦い”だった。
初めての実戦は、覚悟よりも先に恐怖を突きつけてくる。
アオイ・ヒナタは今日、訓練ではなかった“本物の敵”と向き合った。
速さでも、力でもなく、ただ一歩、退かないという選択だけで。
その背後に、守るべき灯りがあると知った瞬間から、
少女の戦いはもう“自分のためだけ”ではなくなっている。




