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トップを越えろ!  作者: たむ


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第20話 「選抜通過! 宇宙防衛軍・仮配属決定」

生き残った者は、次の場所へ送られる。

そこは守られる世界ではなく、守らねばならない世界。

少女は今日、初めて“戦場の入口”に名前を書かれる。

 実地生存演習から、三日後。


 訓練校全体が、異様な静けさに包まれていた。

 候補生たちは全員、中央ホールに集められている。


「……嫌な予感しかしない……」

「分かる……この感じ……」


 ヒナタは、チサとユウの間で、小さく息を整えていた。


(進級って言ってたけど……

 何が、どうなるんだろ……)


 ホールの正面に、巨大スクリーンが展開される。

 紋章――宇宙防衛軍・外縁防衛部隊のマーク。


 ざわり、と空気が揺れた。


「――実地生存演習・生存者に告ぐ」


 キリサキの声が、響く。


「本日付けで、貴様らは“訓練候補生”の立場を離れる」


 一瞬、全員が言葉を失った。


「え……?」

「つまり……?」


「貴様らはこれより、

 宇宙防衛軍・仮配属要員となる」


 その瞬間、ホールがどよめきに包まれた。


「仮配属って……実戦!?」

「本物の部隊に……行くの!?」


 ヒナタの心臓が、どくんと大きく跳ねた。


(実戦……

 本当に……戦うってこと……?)


◇ ◇ ◇


「仮配属期間は、三か月」


 キリサキは、淡々と告げる。


「配置先は、最前線ではない。

 だが、安全圏でもない」


 スクリーンに、複数の宙域名が表示される。


「補給支援基地」

「哨戒防衛線」

「辺境コロニー警備」


 その中に、見慣れない名前があった。


――第七外縁宙域・移動防衛線アステリア


「……ここは……?」


 ヒナタが、小さく呟く。


「最近、敵性反応が増えている宙域だ」


 キリサキが答える。


「大規模戦闘は発生していない。

 だが、**“いつ始まってもおかしくない場所”**だ」


 不意に、名前が呼ばれる。


「――アオイ・ヒナタ」


「……は、はいっ!」


 反射的に背筋が伸びた。


「貴様は、《アステリア》配属だ」


 チサが、はっと息を呑む。


「ヒナタ……!」

「え……私……!?」


「ハルノ・チサ、タチバナ・ユウ。

 貴様らも、同宙域だ」


「えっ、同じ!?」

「よっしゃ……!」


 三人の視線が、一瞬だけ交わる。


(……一人じゃない)


 その事実に、胸の奥が少しだけ温かくなった。


◇ ◇ ◇


 ホールの後方。


 ミサキは、別の宙域名を見つめていた。


――第一防衛主軸ヘリオスライン


「……完全に、別戦線ね」


 ユズハが、隣で肩をすくめる。


「これで、しばらく直接は会えないね」

「……ええ」


 ミサキは、遠くで小さく見えるヒナタを、静かに見つめた。


(やっと……同じ“土俵の外”に出たのね)


◇ ◇ ◇


 配属説明が終わり、解散。


 ヒナタは、荷物の準備リストを手に、しばらく立ち尽くしていた。


「……宇宙防衛軍……仮配属……」


 言葉にすると、ようやく実感が湧いてくる。


「ヒナタ!」


 チサが、少し不安そうに笑った。


「……怖い?」


「……うん。

 正直、めちゃくちゃ怖い」


「だよね……」


 ユウが、少し照れたように頭をかく。


「でもさ。

 俺、ちょっとだけ……楽しみでもある」


「……楽しみ?」


「だってさ。

 訓練じゃなくて、“誰かを守る側”になるんだろ?」


 ヒナタは、その言葉を、ゆっくりと噛みしめた。


(……守る……)


 これまで、ただ生き残ることに必死だった。

 逃げて、避けて、折れないことだけを考えてきた。


(でも……

 これからは……)


 ヒナタは、拳をそっと握った。


(“守るために、生き残る”戦いになるんだ)


◇ ◇ ◇


 夜。


 出発前、最後の自由時間。


 ヒナタは、一人で訓練校の展望デッキに立っていた。


 遠くに広がる、無数の星。


(あの向こうに……

 本物の戦場がある)


「……お前が、そこに立つとはな」


 背後から、キリサキの声。


「……教官」


「怖いか」


「……はい」


 即答だった。


「だが、逃げないんだろう」


「……はい」


 キリサキは、短く息を吐いた。


「なら、それでいい。

 戦場で必要なのは、“覚悟”ではない」


 ヒナタが、静かに振り向く。


「……何ですか?」


「戻ってこようとする意志だ」


「……戻る……」


「守るために出た人間ほど、

 “戻る理由”を見失いやすい」


 キリサキは、ヒナタをまっすぐ見た。


「必ず、生きて戻れ。

 それだけでいい」


 ヒナタは、深く、深くうなずいた。


「……はい。

 必ず……戻ってきます」


 遠くで、仮配属船の準備灯が、静かに点滅していた。

訓練は終わり、選ばれた者は戦場へ送られる。

アオイ・ヒナタは今日、初めて「守る側の名簿」に自分の名前を見つけた。

怖さは、消えない。

だが、逃げないと決めたことだけは、もう揺らがない。

少女は今、星の海へ踏み出す準備を静かに整えている。

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