第18話 「新たな型――ヒナタ専用戦闘フォーム」
強くなることは、誰かの真似をやめることでもある。
同じになれないなら、違うままで進めばいい。
少女は今日、初めて“自分だけの戦い方”に触れる。
再調整フェーズ三日目。
ヒナタは、訓練用ヴァルキュリアのコックピットに、久しぶりに座っていた。
「……ただいま」
小さく呟き、操縦桿に手をかける。
だが、ディスプレイに表示された出力制限値を見て、思わず目を瞬かせた。
「感応出力……二十パーセント固定……?」
「上げさせん」
通信越しに、キリサキの声。
「今日は、“出せない前提”で動け」
「……はい」
ヒナタは、息を整えた。
(オーバードライブは封印。
判断も、反応も、全部“素のまま”……)
フィールドには、簡易ドローン三機が配備されている。
攻撃力は低いが、動きは速い。
――開始。
◇ ◇ ◇
最初の五秒で、ヒナタは気づいた。
(……速すぎる)
視界の端を、ドローンが横切る。
狙おうとした瞬間、もうそこにはいない。
「……当たらない」
射撃をしても、すべて空振り。
(追おうとしたら、絶対に間に合わない……)
そのとき、ユズハの声が、観測席から飛んだ。
「ヒナタ、“追わない”って選択、ないの?」
「え……?」
「前から撃てないなら、
**“来たところに置いておく”とかさ」
「……置いておく?」
ヒナタは、一瞬だけ思考を止めた。
(追いかけるな……
来る場所を……)
ドローンの動きを、よく見る。
速いが、軌道には癖がある。
(必ず……“一瞬、溜める”……!)
ヒナタは、あえて照準を早めに固定した。
誰もいない空間に。
(今じゃない……
もう一拍……)
――次の瞬間。
ドローンが、その位置に“入り込んできた”。
「……今だ!!」
――ドンッ!!
一機目、撃破。
「……え?」
ヒナタ自身が、一番驚いていた。
◇ ◇ ◇
だが、残り二機は動きを変えてくる。
「同じ手は、通じない!」
高速の交差移動。
視界が、完全に追いつかない。
(……無理。
私の反応速度じゃ……)
そのとき。
(じゃあ……
“動きに、間に合おうとしなければいい”)
ヒナタは、深くブレーキを踏み、あえて動きを止めた。
「……ヒナタ!? 止まった!?」
次の瞬間、左右から同時にドローンが突っ込んでくる。
(来る……
“ぶつかりに来る”……!)
ヒナタは、ほんのわずかだけ、機体の体軸を傾けた。
――ドンッ!!
二機のドローンが、ヒナタではなく、互いに激突する。
「……!」
その隙を逃さず、最後の一撃。
――ドォン!!
三機目、撃破。
◇ ◇ ◇
静寂。
「……全機、停止」
キリサキの声が響く。
ポッドから降りたヒナタは、まだ呆然としていた。
「……勝てた……?」
「勝ったな」
キリサキは、腕を組んだまま言った。
「だが、今のは“速さ”でも“力”でもない」
「……はい」
「貴様は、“相手の速さに乗った”。
そして、“自分が間に合えるところ”だけで戦った」
ヒナタの胸が、どくんと跳ねる。
「それって……」
「貴様の戦い方だ」
キリサキは、はっきりと言った。
「追わない。
競らない。
だが、逃げもしない。
来た場所で、確実に仕留める」
ユズハが、嬉しそうに手を叩く。
「やったじゃん、ヒナタ。
これ、“受け流し型”だね」
「……受け流し……」
「速い相手、でかい相手、強い相手――
全部、“相手の動きを借りる”タイプ」
ヒナタは、静かに自分の手を見つめた。
(私は……
速くも、強くもない。
でも……)
ゆっくりと、拳を握る。
(だからこそ……
“相手に勝たせない戦い方”なら、できるかもしれない)
◇ ◇ ◇
その夜。
ヒナタは、久しぶりに旧式区画の鉄塊の前に立っていた。
「……今日は、押してみる」
両手をかける。
――ギィ……。
今までで、一番大きく、鉄塊が動いた。
「……あ」
息を呑む。
(私……
“速くなった”んじゃない。
“合うようになってきた”んだ)
自分と、世界の動きが。
ヒナタは、静かに笑った。
速さも、力も、才能も足りない。
それでもアオイ・ヒナタは今日、“足りないままで戦う型”を見つけた。
追わず、競らず、借りて返す。
それは、彼女だけの戦い方の原型だ。
まだ未完成で、まだ弱い。
だが確かに――少女はこの日、“自分の型”の入口に立った。




