第14話 「最弱決定戦!? 底辺ルート代表に選ばれる」
目立たず、勝てず、評価も低い。
それでも、ある日突然、名前は呼ばれる。
それが“栄光”とは限らなくても――
逃げられない舞台に、少女は立たされる。
「――次の特別演習における、“底辺ルート代表”を発表する」
朝の全体ブリーフィング。
キリサキ教官のその一言で、訓練室の空気が一変した。
「代表……?」
「底辺ルートにも、そんなのあるのか……?」
ざわつく候補生たち。
「今回の演習は、上位・中位・底辺、各ルートの“代表”による模擬トーナメントだ」
「えぇっ!? そんな無茶な……」
チサが思わず声を上げる。
「勝敗はともかく、目的は“現在地の可視化”。
逃げ道はない」
キリサキは一拍置き、淡々と告げた。
「――底辺ルート代表。
アオイ・ヒナタ」
「……え?」
一瞬、世界が止まった気がした。
「えええええええ!? 私ぃぃぃ!?」
悲鳴にも近い声が、場内に響き渡る。
「ちょ、ちょっと待ってください!
まだ底辺ルートに来て二週間ですよ!?」
「だからだ」
「理由が雑すぎませんか!?」
キリサキは、微動だにしない。
「“今、一番失うものが少ない者”を選んだ」
「それ、ほぼ最悪の選び方じゃないですか!!」
笑いとどよめきが、訓練室に広がった。
◇ ◇ ◇
昼休み。
「ヒナタ、大丈夫!?」
「大丈夫に見える!?」
「見えないね」
チサとユウが、同時に首を振る。
「よりによって、“最弱決定戦”みたいな枠で……」
「言い方ひどい!!」
だが、ヒナタの胸の奥には、別の感情も渦巻いていた。
(代表……
私が、“底辺”の顔……)
そのとき、背後から淡々とした声が飛んでくる。
「まぁ、妥当でしょ」
「ミサキさん……」
「今の底辺ルートで、“一番試される価値がある”のは、あなたよ」
「それって……慰めですか?」
「事実」
ミサキは腕を組み、まっすぐヒナタを見た。
「あなたが負けるのは、みんな想定内。
でもね」
一拍置いて、続ける。
「あなたが“折れない”のは、もう想定外よ」
ヒナタは、少しだけ目を見開いた。
◇ ◇ ◇
その日の夜。
旧式区画で、ヒナタはいつものように鉄塊と向き合っていた。
「……代表、かぁ……」
正直、怖い。
結果は、ほぼ見えている。
(たぶん、ボロ負けする)
それでも、手は止まらなかった。
――ギィ……。
いつも通り、小さく鉄塊が動く。
「……でも」
ユズハが、いつの間にか背後に立っていた。
「“最弱の代表”ってさ、
一番“変われる代表”でもあるよ」
「それ、前向きなんですか?」
「かなりね」
ユズハは、少しだけ声を落とした。
「この演習――
表向きは“公平な比較”。
でも本当は……」
「本当は?」
「“どこで誰が壊れるか”を見るテスト」
ヒナタは、ごくりと喉を鳴らした。
「……私、壊れますかね」
「壊れるかどうかは知らない」
ユズハは、まっすぐヒナタを見た。
「でも、“逃げない”のは、もう分かってる」
ヒナタは、小さく笑った。
「……逃げられるなら、逃げたいですけどね」
「そういう人ほど、逃げないんだよ」
◇ ◇ ◇
翌日。
トーナメント用の演習フィールドが解放された。
観測席には、教官だけでなく、上層部の視察官の姿まである。
「うわ……ガチの見世物だ……」
「帰りたい……」
ヒナタは、控室でスーツの袖をぎゅっと握りしめていた。
「アオイ・ヒナタ」
キリサキが、静かに声をかける。
「負けていい」
「え……?」
「だが、“壊れるな”」
「……はい」
「それだけ守れ」
短い言葉だった。
だが、ヒナタはその一言に、深くうなずいた。
フィールドのゲートが、ゆっくりと開く。
対戦相手は――
中央クラス代表・シキ・クロウ。
圧倒的実力者。
これまでの模擬戦、ほぼ全勝。
(……最初から、詰んでる)
それでも、ヒナタは一歩、前に出た。
「……底辺代表、アオイ・ヒナタ。
――行きます」
その声は、震えていなかった。
選ばれることは、誇りであると同時に、逃げ場を失うことでもある。
アオイ・ヒナタは“最弱の代表”として、最も残酷な舞台に立たされた。
だが彼女の足は、止まらない。
結果が見えていても、前に出るという選択だけは、もう迷わなかった。
次の一戦が、少女の現在地を決定づける。




