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トップを越えろ!  作者: たむ


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第13話 「ライバルの焦り! ミサキ、初めての敗走」

追う者がいるから、走り続けられる。

だが、追われる者になったとき、人は初めて“揺らぐ”。

完璧だった少女に、初めて忍び寄る影――それは、焦りという名の感情だった。

 強化訓練週間・五日目。


 中央クラス専用の高速演習フィールドで、ミサキ・レイナは静かに機体に乗り込んでいた。


(相手は中位クラスの三人……

 問題、ないはず)


 開始のカウント。


 ――3、2、1。


 戦闘は、いつも通りの展開になるはずだった。


 ミサキは正確に距離を詰め、最短の動線で一機を無力化。

 だが、二機目に仕掛けた瞬間、わずかな“違和感”が走る。


(……遅い?

 私の判断が?)


 相手は、ミサキの一拍の迷いを逃さなかった。


「連携、来るぞ!」


 三方向からの同時突進。


「……囲まれる!? この私が!?」


 必死に回避に入るが、判断がわずかに乱れる。


 ――《左腕部、擬似破損》

 ――《推進バランス、低下》


「くっ……!」


 ミサキの機体が、大きく姿勢を崩す。


(違う……!

 私は、こんな“迷う戦い方”はしない……!)


 だが次の瞬間――


 ――《擬似装甲、耐久ゼロ》


 視界が暗転した。


◇ ◇ ◇


「勝者、中位クラスチーム」


 その結果に、観測席がざわつく。


「ミサキが……負けた?」

「一人で三機相手だったとはいえ……」


 ポッドから降りたミサキは、ヘルメットを外しても、しばらく顔を上げなかった。


(……負けた?

 私が?)


 衝撃よりも先に、胸の奥に冷たい不安が広がっていく。


(最近……

 ヒナタの動きが、頭から離れない)


 判断の速さ。

 無茶なはずなのに、妙に“折れない”姿勢。


(私は……

 あいつを“越えられない存在”だと思っていたはずなのに……)


◇ ◇ ◇


 その夜。


 旧式区画で、ヒナタはいつものように鉄塊と向き合っていた。


「……今日も、動いた」


 ほんの少し。

 それでも、確実な変化。


 そこへ、静かな足音が近づく。


「……あんた、最近“負け方”が上手くなったわね」


「えっ?」


 振り向くと、ミサキが立っていた。


「ミサキさん……!? 今日は、模擬戦お疲れさまで――」

「……負けたわ」


 あまりにもあっさりとした言葉に、ヒナタは言葉を失った。


「え……?」


「初めて、“判断が遅れた”。

 理由も、分かってる」


 ミサキの視線が、ヒナタを射抜く。


「……あんたが、毎日ここで“負け続けてる”からよ」


「えぇぇ!? それ、ほめてます?」


「どちらかと言えば……

 かなり、厄介な話よ」


 ミサキは、腕を組んだ。


「私は、“負けないこと”で、ここまで来た。

 だから、“負ける痛み”の処理の仕方を知らない」


「……」


「あんたは違う。

 毎日のように負けて、それでも立ってる」


 ヒナタは、しばらく考えてから小さく言った。


「……慣れました」


「……それ、才能よ」


 二人の間に、奇妙な沈黙が流れた。


◇ ◇ ◇


「……ねえ、ヒナタ」


 不意に、ミサキが口を開く。


「もし、あなたが本当に私の“脅威”になる日が来たら……

 私は、あなたを“仲間”だと思う」


「え……?」


「ライバルっていうのはね、

 本気で負ける可能性を認めた相手にしか、そう呼ばないの」


 ヒナタの胸が、どくんと跳ねた。


「……それ、すごくうれしいです」


「まだ早い。

 今日はただの“様子見”よ」


 そう言い残して、ミサキは背を向けた。


(私は……守られてた側なんだ)


 そう気づいた瞬間、胸の奥が熱くなった。


(でも……

 いつか、守る側にも、なりたい)


 ヒナタは、鉄塊に再び手をかけた。


 ――ギィ……。


 今日は、いつもより少しだけ、大きく動いた。

追う者は、追われる者を強くし、

追われる者は、追う者を焦らせる。

ミサキが初めて知ったのは、“負ける可能性”という現実だった。

そしてヒナタは、知らぬ間に誰かの心を揺らす場所へ近づいている。

二人の距離は、今日、確かに一段縮まった。

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