第11話 「広がる格差! エリートたちの壁」
越えたと思った一線の向こうに、さらに高い壁がそびえ立つ。
努力でたどり着いた場所は、誰かにとっては“最初から立っていた場所”だった。
少女は、世界の広さを思い知る。
訓練校・中央演習フィールド。
久しぶりに、全候補生合同の模擬戦が行われることになった。
「本日のプログラムは、クラス混成の三対三」
キリサキ教官の声が響く。
「底辺ルート組も、全員参加だ」
「……ついに来た」
ヒナタは、胸の奥がきゅっと締まるのを感じた。
底辺ルートでの訓練は、確かに自分を変えてくれた。
だが――それが、どこまで通用するのかは、まだわからない。
ヒナタのチームは、
アオイ・ヒナタ
ハルノ・チサ
タチバナ・ユウ
対する相手は、中央クラス上位の三人だった。
「うわ……相手、ガチのエリートじゃん……」
「チサ、声が震えてる」
「ヒナタだって、目が泳いでるよ!」
三人とも、笑ってごまかすしかなかった。
開始のカウントが入る。
――3、2、1。
◇ ◇ ◇
開幕と同時に、速度の次元が違った。
「は、速っ――!」
敵チームの一人が、一瞬で距離を詰めてくる。
無駄のない加速。
無駄のない姿勢制御。
それは、ヒナタが底辺ルートで必死に覚えた“基礎”を、最初から完成させている動きだった。
「ヒナタ、右から来る!」
「見えてる!」
ヒナタは回避動作に入る。
第10話で掴んだ“噛み合い”を思い出す。
(感覚だけで、動け……!)
だが――
「遅い」
冷たい声と同時に、敵の一撃がかすめた。
――《左脚部、擬似破損》
「くっ……!」
チサとユウも、それぞれ別の相手に押し込まれている。
「情報共有、遅れてる!」
「向こう、連携が完成してるぞ!」
エリートたちの動きは、“個人の強さ”ではなかった。
最初から、三人でひとつの生き物のように動いている。
(これが……上位クラス……)
ヒナタは、歯を食いしばった。
◇ ◇ ◇
「ヒナタ、下がって! このままじゃ集中砲火される!」
チサの叫び。
(下がる……下がるだけじゃ、終わる……)
そのとき、観測席のユズハが小さく呟いた。
「……“壁”だね」
ミサキは、無言でフィールドを見つめていた。
(ヒナタが、やっと入口に立った場所。
でも……あいつらは、もう“向こう側”にいる)
◇ ◇ ◇
ヒナタの機体は、次第に動きを削られていく。
判断は間違っていない。
だが、一拍分、すべてが遅い。
「終わりだ!」
正面、左右、背後――同時にロックオン。
(あ……これ、ダメだ)
次の瞬間。
――ドンッ!!
ヒナタの視界が暗転した。
――《擬似装甲、耐久ゼロ》
少し遅れて、チサとユウも撃破される。
「……勝者、中央クラスチーム」
無情なアナウンスが響く。
◇ ◇ ◇
ポッドから降りたヒナタは、しばらく俯いたまま動けなかった。
「……ヒナタ」
チサがそっと近づく。
「ごめん……私たち、全然――」
「違う」
ヒナタは、顔を上げた。
「私、少し……“分かった気”になってた」
「え……?」
「底辺ルートでちょっと上手くいったから、
“追いついた”って、どこかで思ってた」
拳を、ぎゅっと握る。
「でも……全然だ。
あの人たち、スタートラインがもう違う」
その様子を遠くから見ていたミサキが、静かに息を吐いた。
「……やっと、同じ景色が見えてきたわね」
「ミサキさん……?」
「エリートっていうのは、越える“壁”じゃない。
越え続けないと、押し潰される“地形”よ」
そう言って、ミサキはヒナタを見下ろした。
「あなたは、そこに足を踏み入れた。
――それだけでも、今日は上出来よ」
ヒナタは、少しだけ驚いた顔で、その言葉を受け取った。
(負けたのに……
でも……何も得られなかったわけじゃない)
視線の先で、中央クラスの候補生たちが淡々と次の準備をしている。
(あそこが……今の“壁”)
ヒナタは、ゆっくりと背筋を伸ばした。
(だったら……
また、一段ずつ登るだけだ)
努力で届いた場所にも、さらに高い当たり前が存在する。
アオイ・ヒナタは今日、初めて“世界の差”をはっきりと突きつけられた。
越えられないと知ることは、絶望ではない。
それは、越えるべき場所が定まったということでもある。
少女の視線は、次の壁をもう見据えていた。




