夫婦会議
「ねえ、ニイヤル。話があるんだけど、いい?」
ルネが静かに声をかけると、ニイヤルは書類から顔を上げた。
「どうしたんだい、ルネ?」
彼女は、ニイヤルの書斎を訪ねていた。何か、胸に引っかかることがあるようだった。
「まずは入って。お茶でも飲みながら話そうか。カイト、もう下がっていいよ」
ニイヤルの隣にいた従僕のカイトが、軽く会釈してルネに微笑みかける。
「では、失礼しますね」
そう言って、静かに部屋を出ていった。扉が閉まる音が響いたあと、ニイヤルが口を開く。
「カイトにも聞かせられないような話なんだろう?」
彼は自分でティーカップを二つ用意しながら、ルネの様子をうかがう。
「……そうなの。リアのことなんだけど」
ルネは言い出しにくそうに視線を泳がせる。ニイヤルは黙って、彼女の前にカップを置いた。
しばらく沈黙が流れたあと、ルネは決心したようにニイヤルを見つめる。
「リアは……天才なんじゃないかしら」
その言葉には、期待よりも不安が滲んでいた。
「……ああ、そのことか。実は、俺も話そうと思ってたんだ」
ニイヤルは静かに頷く。
「まず、三か月でハイハイなしで歩くなんて、医学書にも記録がない。しかも、言葉を理解してる。まだ三か月だぞ?普通なら、ようやく指しゃぶりを始める頃だ」
ルネはうんうんと頷きながら、少し顔を曇らせる。
「やっぱり、少しおかしいわよね。ルインスはまだおしゃぶりを始めたばかりで、手足をばたつかせてるくらいなのに」
リアの異常な発達に、ルネは安心と同時に不安を感じていた。
「何か対策を考えないとな。まずは、リアのことを周囲に知られないようにすることだ」
「ええ……信頼できる人をそばに置きたいわね。貴族の世界って、闇が深いから」
ルネは目を伏せながら、ぽつりとつぶやく。
「貴族を侍女につけるのはやめておこう。信用できるのは……カイトくらいか」
「そうね」
ルネは小さく頷いた。
「カイトと、俺と、ルネの三人で面倒を見るしかないな。ルインスもカルも一緒に見たほうがいいだろう」
「うん、そうしましょう」
ルネは少し安心したような表情を見せたが、すぐにまた考え込む。
「となると……お茶会の数を減らすしかないわね。よし、予定に入ってるもの以外は断りましょう。出産後で出席してなかったし、ちょうどよかった」
ニイヤルはその様子を見て、ふっと微笑む。
「さあ、もう遅い。先に寝ておいで。カップは片づけておくよ」
「ありがとう、ニイヤル。おやすみ」
ルネは彼にぎゅっと抱きついてから、満足そうに離れ、静かにドアを開けて自室へと戻っていった。
書斎にひとり残ったニイヤルは、窓の外を見ながらぽつりとつぶやいた。
「……これは、また仕事が増えたな」
その声は、どこか楽しげで、どこか不安げだった。
そして、誰もいない書斎の空気が、少しだけ重くなった気がした。
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