歩きはじめとこの世界について少し
両親と兄が部屋を出ていった音がして、私は小さくため息をついた。
……いや、ちょっと待って。情報量が多すぎる。
頭がパンクしそう。理解しきれてないくて頭が困っているみたい。
それにしても、カルの姿はまだ見えなかったけど、両親は……うん、かっこよすぎた。
前世で主演ドラマのポスターに並んでても違和感ないレベル。あれが私の両親って、なんか気後れする。
で、話は変わるけどここってどこなんだろう?
昔のヨーロッパっぽい雰囲気だけど、妙に清潔。変なにおいもしないし。
ふと思った。赤ちゃんって、生まれたばかりの頃って嗅覚とか聴覚、発達してるんだっけ?
……覚えてない。まあ、どうでもいいか。笑
誰もいないと思っていたら、すぐ近くから声が聞こえた。
「リアンナとルインスは、いるよ。えっと、先ほど生まれたばかりだ」
少し低めの声。たぶんアルトの高さぐらい?
あっ、さっきの侍女さんだ。誰かと話してるみたい。
表情は暗かったけど、数秒後にふっと笑って、
「まだ幼いからな。時期を見て、実行しよう」
……実行?
何を!?ってツッコミたかったけど、声が出ない。まあ、生まれたばかりだからね。
まずは、体を動かせるようにならないと。これはもう、特訓だな!
──それから三か月後。
「旦那様!奥様!リアンナ様が歩いてます!」
侍女がドタバタと両親を呼びに行く。
ここの常識はよくわからないけど、体を動かす練習をしていたら、いつの間にか歩けるようになっていた。
「リア!歩いたってほんと?」
両親より先にカル兄さんが駆けつけてくれた。初めて全身を見た気がする。
父上似かな?漆黒の髪に空のような瞳。雪みたいに白い肌。顔立ちは母上そっくり。笑った顔なんて、まるで母上と一緒。
まだ4〜5歳くらいだろうか。かわいらしい幼さが残ってる。
ちなみに最近、みんな私のことを【リア】って呼ぶようになった。
「あいあい!」
返事をしながらにこにこ笑顔でカルを見つめる。とりあえず、愛想よくふるまっておく。ファンサだ、ファンサ!
なんか、こういうのって後々助かる気がする。なんとなくだけど。
この三か月間、メイドさんたちの会話や両親、兄の様子から、少しずつ状況が見えてきた。
どうやらここは“リストン公爵家”らしい。
国名までは聞き取れなかったけど、魔法みたいなものを使っていて、それを〈リアスト・コード〉って呼んでる。みんなは【リアスト】って略してるみたい。
魔法とリアストって、同じように見えて、実はちょっと違う。
魔法は、この世界にある“力”そのもの。火を操ったり、風を呼んだり、傷を癒したり──現実じゃありえないことが、ここでは普通に起きる。
でも、それをただ「魔法」って呼ぶんじゃなくて、この国では「リアスト・コード」っていう名前がついてる。
どうやら、魔法を使うための技術体系とか、理論のことらしい。
つまり、「魔法」は自然に存在する力で、「リアスト」はそれを使うための“方法”とか“ルール”ってこと。
たとえば、火を出す魔法があったとしても、それをどう使うか、どう制御するかはリアスト・コードに従う。
リアストは、魔法を“学問”として扱ってる感じ。魔法が感覚なら、リアストは理論。
……って、まだ赤ちゃんの私がこんなこと考えてるの、ちょっとおかしいけどね。
でも、メイドさんたちの会話とか、兄や両親の話を聞いてると、なんとなくわかってきた。
魔法は誰でも持ってるわけじゃない。リアストを学んで、訓練して、ようやく使えるようになる。
そして、リストン公爵家はそのリアストに長けた家系らしい。
魔法=力
リアスト=その力を使うための技術・理論
……うん、たぶんそんな感じ。
「こっちにおいで!」
カルが手を広げる。私はそちらに向かって歩き出した。
長かった赤ちゃん生活……いや、まだ赤ちゃんだけどね。笑
最初は首も座らず、体も自由に動かせなかった。
だから、まずは首の運動から。手足をできる限り動かして、少しずつ体を動かせるようになった。
そして今日!ついに歩けたのだ!パチパチ!
「わあー!リア、かわいい!」
カルはもう、かわいくて仕方がないって顔で私を抱きしめる。
カルはとっても温かい。抱っこも好きだけど、私はギューッとされる方がもっと好きみたい。
「カル。いつまでそうしているつもりだ?父上にも変わってほしいな」
いつの間にか、私たちの後ろには両親が立っていた。
重々しい雰囲気じゃなくて、穏やかで優しい空気をまとっている。
今日もかっこいいですね!もう輝いてます!
私はキラキラのおめめでアピールしたけど、伝わったかは不明。
でも、にこにこと微笑んでくれてるから、たぶんOK。
「リア、父上のところにもおいで!」
にこにこしながらそう言われたので、「あーい!」と返事をすると、周囲──父上含め──が一瞬驚いた。
でもすぐに笑顔に戻って、手を広げてくれた。
とことことことこ……
父上の胸に飛び込むと、大きな手で頭をよしよしと撫でてくれる。
その様子を母上たちが温かい目で見守っている。
家族って、なんかいいね。
ふと、そんなぬくもりを感じた
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