はじめまして?
母上が、私とルイの髪を丁寧に整えてくれた。本来なら侍女がやるはずだけど、私たちの秘密がばれないように、毎朝こうして母上が手を動かしてくれる。
私はふわりとしたハーフアップ。結び目には、真っ白なリボンが蝶のように揺れている。鏡越しにちらりと見えた自分の姿に、思わず胸が高鳴った。
ルイは、母上が手のひらで何か透明なワックスをのばして、前髪をきゅっと上げてくれた。普段は寝ぐせだらけなのに、今日はなんだか王子様みたいだ。
支度が終わると、私たちは公爵家の紋章が金色に輝く馬車へ。
「わあ、これが馬車?」ルイが目をまんまるにして父上と母上を見上げる。
「そうだよ。これで王都まで行くんだ。一時間くらいかな。」
ルイは“一時間”がどれくらいか分かっていないはずなのに、にこにこ顔で「すごい!」と声を上げた。
「さあ、乗ろうか。」
馬車の扉が開くと、ふわっと甘い革の香り。中は思ったよりずっと広くて、前世で想像していた“ぎゅうぎゅう詰め”とは大違い。たぶん、私たちの体が小さいから余計に広く感じるんだろう。
私とルイとカル兄さんが並んで座り、向かい側に父上と母上。窓の外には、朝の光にきらめく街並みが流れていく。
道中は、なぜか掛け算や足し算の問題大会になったり、父上が王都の話をしてくれたり。王都は父上の実家らしい。
「王都にはね、珍しいお菓子や動物もいるんだよ」と母上が教えてくれると、ルイは「お菓子!」と目を輝かせていた。
馬車に揺られて一時間。窓の外の景色が、ゆっくりと、でも確実に変わっていく。街から少し離れた郊外、十キロほど進んだころ、ようやく大きな門が見えてきた。
「ここが王都だよ。大きいでしょ?」
母上が優しく微笑む。
「あとで、いろいろ見て回ろうね。でもまずは、おじいさまとおばあさまにご挨拶しようか?」
「「「はーい!」」」兄妹そろって返事をすると、母上が「さすが兄妹ね」と笑った。
馬車が街中を進むと、さらに大きな門が現れる。
「証を見せてください。」
がっしりした門番が馬車使いに声をかける。家の馬車使い(呼び方が分からないからこれでいいや)は、すぐに証を差し出した。門番はさっきまでの厳しい顔が嘘みたいに、にこにことお辞儀までしてくれる。この変わり身、なんだか面白い。
「すごい!物語の中みたい!」
ルイが隣で目をキラキラさせている。
「ここは国で一番大きい屋敷なんだよ」と父上が言うと、
「えー?国で一番?すごーい!」とルイは口を大きく開けて驚いていた。
国で一番…。王都…。王様…?
ふと、脳裏に妙な考えが浮かぶ。でも、まさかね。皇太子が公爵家にいるなんて聞いたことないし、父上に兄弟がいるとも聞いたことがない。




