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人魚と姫 〜私達が結婚すると、世界が救われる!?〜  作者: ぞ
第四章 ドワーフの国

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78. 愛の言霊で、裏返す

 皆の話が盛り上がる少し後ろで、居心地が悪そうに一人佇んでいるマレットに、カナはそっと話しかけた。


「私……何もできなかったよ。マレットは大活躍だったね、お疲れ様」


 柔らかく微笑むその唇が、つい先ほど自分の唇に触れた時の感触を思い出して、マレットは全身の熱を集めるように顔を真っ赤にした。


「……っ。それは、あなたが私に魔力の大半を渡してきたからでしょう……なぜ、あんなことを」


 そんな戸惑うマレットに対して、カナはまるで当然のことのように、落ち着いた声で返事をした。


「だって、マレットが悔しそうな顔をしてたから……」


 カナは少し頬を緩めて、優しい顔をした。


「頑張ろうとしてるマレットを、応援したくなっちゃったんだよ」

「…………っ」


 背の低いカナがじっと見上げながら自分を見つめている。そして、その口から放たれる純粋でひたむきな言葉に、マレットは言葉を失った。

 マレットが何も言わない様子から、カナは「あぁ」と思い至るような声を出す。


「マレット伯爵って、呼んだ方がいいんだっけ? ごめんね、癖で……」


 カナが少し淋しそうな顔をしてそんなことを言うので、マレットは思わず首を振った。


「……もう、いいのよ。ごめんなさい、私……っ」


 自分のちっぽけなプライドで、我儘のように発したことを、カナは心から気に留めてくれている。それが、カナをどれだけ傷つけてきたのだろう。

 色々な思いが込み上げて口ごもるマレットを、カナはその背の低い身体で見上げて、まっすぐな上目遣いで尋ねる。


「ねぇマレット……私の気持ち、伝わったかな?」

「何のこと……」


 困惑するマレットに、カナは逃さないとばかりに真剣な瞳で見つめて、純粋な言葉を放つ。


「好きでもないのにキスしないよ。あれは、私の、愛の証。ねぇ、伝わった?」


 カナは戸惑うマレットの反応を待たず、優しくも強い言葉を放った。その言葉は、マレットの心を鋭く突き刺した。


「私、マレットが好きなの」


 突然、ただひたすらにまっすぐな愛の告白を聞かされて、マレットは頭が真っ白になった。


「なんで、私……っ」

「だって、ずっと好きなんだもの。何事にも一生懸命で、ちょっと不器用で……だけどそこがかわいい、マレット」


 カナは動揺するマレットを気に留める様子もなく、マレットの方に一歩踏み込み、愛の言葉を重ねていった。


「ねぇ、マレット。好きだよ……今までも、これからも、ずっと」


 その純粋すぎる愛の言葉を前に、マレットは胸がいっぱいになり、堰を切ったように瞳から涙がぽろぽろ溢れてきた。


「……っ、私っ、わたし……っ」


 言葉を詰まらせるマレットに、カナはまるでマレットのすべてを包み込むような、優しい顔をした。


「ゆっくりでいいよ……私、ちゃんと聞いて、受け止めるから。マレットの気持ち」


 カナの優しい言葉に包まれながら、マレットは、嗚咽混じりに声を出した。


「……っ、私、昔はカナみたいに、なりたかったのっ。なんでもできて、でも、それを自慢するわけじゃない、かっこよくて、優しい、カナ……っ。でも私は、そんな風に、なかなかなれなくて……っ」


 マレットから涙とともに、懺悔の言葉が溢れる。


「……だんだんカナが、羨ましくて、憎らしくなっちゃったの……っ。それでイライラして、カナにたくさん嫌な思いをさせちゃった……っ、こんな、ひどいことばかりする、私に、カナに好かれる資格なんて、ない……っ」


 そんなマレットの自己否定の言葉を聞いて、カナは徐々に、ここ最近のマレットとのすれ違いの原因が、嫉妬という名の、裏返った愛にあるのだと、深く、そして切なく理解した。


 ―― 愛憎なんて元々表裏一体で、簡単に反転するものだもの


 少し前に耳にしたばかりのスフェーンの言葉が、カナの脳裏に鮮やかに蘇る。


(本当に……そうですね)


 愛憎が表裏一体なのならば、もう一度私の愛で、反転させてみせる。カナはそんな強い想いを胸に抱いて、マレットの瞳から溢れる涙を、優しく指で掬い、その頬を伝う悲しみの跡をそっと拭った。


「好かれるのに資格なんて要らないよ。私が誰を好きかは、私が決めること。イライラをぶつけられたことなんて、少しも気にしてない。だって……」


 カナは、そう言って一瞬だけ、言葉を飲み込むように口を閉じた。そして、マレットに向かって、優しく微笑む。


「だって……マレットのこと、大好きなんだもん」


 そして、溢れる涙の跡を辿るように、頬に優しく手のひらを当てた。

 先ほどの情熱的なキスを思い出して、マレットが身体をびくっとさせる。カナはそんなマレットを見て、確かな手応えを感じながら、優しく、悪戯そうに微笑んだ。


「……今日は、私の気持ちを、伝えるだけ……ね。もう一回、私の唇が欲しくなったら、返事を聞かせてくれるとうれしいな?」


 そうして、カナは、涙と気恥ずかしさで顔を赤くして呆然とするマレットに、静かに背を向けた。


(これからどうなるかは、私次第……本当に、そうでした、スフェーン様……)


 マレットから隠れるようにして、カナは満足そうに微笑んだ。その胸には、確かな一歩を歩み始めることができた、安堵の気持ちが温かく広がっていた。






 登場時から明確に悪意を持ったキャラとして書いたので、あまりマレットのことを好ましく思っていない読者の方も多かったのではないでしょうか。


 初登場時のオニキス(ルリ母)も敵意を持ったように描写しましたが、その実は言葉足らずなだけでした。デーモンに魅入られたキャラ以外で、明確に敵意をもったキャラとして書いたのは、マレットが初めてです。


 皆様の印象がこれで完全にポジティブになるとは思いませんが、不器用でかわいいマレットを、少しずつ好きになっていただけると嬉しいです。

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