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7. 海へ初デートに

「今朝のごはんもおいしかった!」


 食事を終えて部屋に戻ると、ルリは満足そうに声を上げた。


 ルリは、昨日と同様に変化の魔法で尾を脚に変えていた。メイドのチェリーが二人に合わせて用意してくれたドレスを身にまとっている。

 ルリは私の髪色に合わせて、珊瑚のような薄紅色のドレスを、私はルリの髪色に合わせて、夜の海を映したような藍色のドレスを着付けてもらった。


「お揃いもいいなと思って迷ったんですけど、やはりお互いの色を身に纏うのが、王道ですよね! お二人ともとっっっってもお似合いです!!!」


 と、やけに興奮しながら着付けてくれた。そんなチェリーは既に下がっていて、今は部屋にルリと私の二人きりだ。


「今日はどうする? 街を案内しようか?」


 ルリに声をかける。

 ちなみに、私の、姫としての公務は、しばらくお休みということになっている。今私が一番にやるべきことは予言に従って聖なる巫女の生命を宿すことなので……それに注力しろ、ということらしい。


「えっとね、行きたいところがあって……」


 てっきり、よくわからないからお任せ!とでも言われると思っていたので、ルリから行く場所の希望が出たのに少し驚いた。


「魔力がなくなっちゃった時のために、海水をとりに行きたいなって。今もってる海水は、ほとんど魔力がなくなっちゃったんだよね」


 聞くと、昨日魔力切れした後、寝ている間に海水から魔力を補充して回復したらしい。


「ちなみに、魔力が完全に空になっちゃったら、どうなるの?」

「んー、なったことないから、わかんないんだけど……泡になって消えちゃうって聞いたことあるよ」


 いつもの軽い調子で、ルリは衝撃の事実を語った。


「それって死んじゃうってことじゃないの!?」

「そうなのかな? そうかもしれない! 泡になったら、ずっとサクラにくっついていようかな〜」


 そう言って、ルリは無邪気に笑った。

 ルリはその言葉が意味することを理解していないのかもしれない。その無邪気さに、私は背筋が寒くなるのを感じた。ルリが泡になって消えてしまうかもしれない。その想像をしただけで、私の心臓はひどく締め付けられるような痛みを感じるのに。


 だから、もう絶対に、ルリを一人にはしない。

 ルリの隣にいて、私が、ルリを護るのだ。私が、側にいて、気をつけよう。

 もう絶対にルリを魔力切れにしないと、心の中で強く誓った。


 海に行くと決まったが、どうやって行くかだ。今までルリが城に来る時に使っていた庭園――刻凍の回廊庭園の池は、宮廷魔術師のキウイによって既に結界が強化されており、通れなくなっている。


「湖や川だったら、たいてい海につながってると思うんだよね〜。むむむ……」


 そう言いながら、ルリは目を閉じて集中し始めた。


「むむっ! えっと、あっちの方に……水がいっぱいある気がする」


 急に目を見開いたルリは、窓から外の方を指さした。


「たしかに、その方向には城の裏を流れる川があるけど……。驚いた、今のは、探知魔法なの?」

「そうなのかな? むむむ〜ってしたら、場所がわかるんだよ」


 ルリは感覚で魔法を使いこなしているらしいが、人間だと、探知魔法は水晶などの魔道具で魔力を集中させるのが必須とされている。何気なく行っているが、これは人知を超えた技術だ。


「ルリの魔法の技術は……本当に素晴らしいわね」


 感心してルリを見つめていると、ルリが楽しげに私の手を引いた。


「サクラ、じゃあ、行こう! おひさまも、とっても元気みたいだよ!」


 手を引きながらルリが言う。その言葉は、ルリの心そのものを表しているようだった。たしかに、散歩にはちょうどよさそうな天気だ。


「ルリ、川は少し遠いから、お弁当を頼んでいきましょう」

「おべんとう?」

「お外で食べるお昼ごはんよ。サンドイッチがいいかしら」


 ごはんという言葉を聞いた瞬間に、ルリの楽しそうな顔が、より一層明るくなる。


「なにそれすっごくよさそう! たのしみ!」


 踊りそうな勢いで大喜びするルリを見て、思わず笑みがこぼれる。

 部屋の隅のベルを鳴らすと、チェリーが来てくれた。


「これからルリと出かけようと思って。昼食にサンドイッチを用意してくれる?」

「それはいいですね。すぐにお持ちします」


 すぐに厨房に手配を済ませ、程なくしてサンドイッチが入ったバスケット手に戻ってきた。


「いってらっしゃいませ、サクラ様、ルリ様。デート、楽しんできてください」


 チェリーが楽しげに言ったその一言に、私は、はっとした。そうだ、これはデート、なのか。

 庭園で二人でお喋りを楽しんだことは何度もあるが、二人きりで城の外に出るのは初めての経験だ。


 地に足がついていないような、フワフワとした感覚を感じる。なんともむず痒く、恥ずかしいような、それでも心のなかでは抑えられない高揚感が、沸き上がってくる。

 これはデート。ルリとのはじめてのデートなのだ。


 私は、浮足立った気持ちで、ルリとともに城の外へ踏み出した。

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