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人魚と姫 〜私達が結婚すると、世界が救われる!?〜  作者: ぞ
第三章 結婚式

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48. チェリーの迷い

「ねえ、二人、何があったの?」


 その日、私とルリが城下町の視察に行っている間に、チェリーとキウイの間に何かがあったことは明らかだった。


「べ、別に、何もないです。ねぇ、キウイさん」

「そうですね、私、至って普通です」


 本人たちはそう言うが、いつもは楽しそうな雑談が絶えない二人が、今日は口を閉ざしたまま、黙々と作業をしている。そのぎこちない雰囲気に、ルリと顔を見合わせる。たまに手が当たって、「あっ、すみません……」「いえ……」などと言いながら、お互いに慌てて手を引く。そんな些細なやりとりばかりで、いつもの二人とはまるで違っていた。


「ふふっ、きょうのおふとんもきもちいい〜! いつもありがとうね!」

「はい、たしかに、気持ちよかったです」

「えっ? キウイ、おひるねでもしたの?」


 ルリの言葉に、ぼうっとしたキウイがおかしな返事をする。


「き、キウイさん! わわわ私たちが、サクラ様とルリ様のベッドを使うなんて、そんなこと、あるわけないじゃないですか!」


 顔を真っ赤にして、なぜか必死に否定するチェリー。その剣幕にキウイも、はっとしたように我に返っていた。


 とにかく、二人は目を合わせようとすらしない。これはダメだ、二人を離して落ち着いて話をしないと、と思って、魔法通話を使ってルリに話しかけた。


『ルリ、チェリーとキウイのことなんだけど、何だか様子がおかしいわ。私はチェリーから話を聞いてみるから、ルリはキウイを連れ出してくれない?』

『なんだか、あんまりおはなししないし、変だよね! わたしに任せて!』


 魔法通話を使って、チェリーとキウイにはわからないように、目の前にいるルリとそんな相談をした。そして、私は作戦の台詞を口にした。


「私、今日は、どうしても一人で湯浴みをしたい気分なの! ルリ、悪いけど、今日は一人で行ってくれるかしら? キウイ、ルリをよろしくね」


 我ながらわざとらしい演技をしながら、ルリに視線で合図を送った。


「サクラ、そうなんだねー! そういうきぶんの時、あるよね! わたし、とってもよくわかるよ! じゃあキウイ、おふろに行こっか!」

「……? はい、わかりました」


 ルリの台詞は、いかにも演技とわかるひどい棒読みだった。だが、ぼんやりと虚空を見つめていたキウイは、その不自然さにも気づかず、ただ頷くだけだった。


「えっ? あっ、キウイさん!」


 驚いたチェリーが声をあげたが、ルリは気にせずキウイの腕を掴んで、湯浴みに行ってしまった。


「……さあ、キウイはいなくなったわよ、チェリー。一体キウイと何があったのか、話してくれるかしら」


 そう言いながらチェリーを優しく抱きしめた。すると、張り詰めていた緊張の糸が切れたように、チェリーのワインレッドの瞳が、みるみるうちに涙でいっぱいになる。


「うう……サクラ様ぁ……」


 そうしてチェリーは、目に大粒の涙を溜めながら、ぽつりぽつりと、何があったのかを話してくれた。


「わっ私、キウイさんに……き、キス……されちゃったんです。それに、私のこと、好き……だって……っ」


 チェリーの口から発せられた、思ってもみなかった事実に、私は驚きで息をのんだ。いつも冷静沈着なキウイのイメージからは想像もつかない行動だったからだ。


「そう、なのね……。チェリーはそれを……嫌だと思ったのかしら」

「……イヤでは、なかったんです……。でも、キウイさんのことを、そういう風に見たことなくて……っ。私、どうしたらいいか……わからなくてっ」


 嗚咽を漏らしながら、うまく喋れないチェリーの頭を、私は優しく撫でた。そのまま、チェリーが落ち着くまで、ただ静かに抱きしめる。嗚咽がすすり泣きに変わったのを確認してから、私は静かに声をかけた。


「私は……実を言うと、ルリと婚約した時、ただの友達だと思ってたの」

「そうなんですか?」


 私がそう言うと、チェリーは驚きで目を丸くする。チェリーにとってルリは、私の婚約者として突然現れた存在で、私とルリのこれまでの関係を詳しく知らないのだから、当然の反応だった。


「そう。そもそも、恋人って何なのか、よくわからなくて。見ず知らずの人と結婚するのは嫌だったから、ルリなら気心知れてるし、いいかなぁ……くらいの気持ちだったのよ。でも、今の私は、ルリと結婚できて、この上なく幸せと思っているの。そういう始まりがあっても、いいんじゃないかしら?」


 私は、過去の自分とチェリーを重ねて、そっと語りかける。チェリーは、まだ迷いの表情を浮かべたまま、私の言葉を静かに聞いていた。

 そこまで言ったところで、ノックの音がした。ルリとキウイが湯浴みから帰ってきたようだ。


「さあ、今度は私たちが湯浴みの番ね。もっと話を聞かせてくれる?」


 私は目を腫らしているチェリーがキウイの目に入らないように気をつけながら、部屋に戻ってきたルリとキウイとすれ違った。キウイが一瞬、私に隠されたチェリーの存在を気にするように、その透き通った緑の瞳をわずかに揺らしたのが見えた。

 すれ違い様、ルリが心配そうに眉を下げた。


『サクラ、チェリー……ないてたの? だいじょうぶ?』


 ルリがキウイたちに聞こえないよう、魔法通話でこっそり私にだけ声をかけてくる。キウイからチェリーを隠すのを優先したので、ルリにはチェリーの赤く腫れた目が見えてしまったようだ。


『まだ、わからないけれど……。ひとまず私に任せておいて。ありがとう』


 魔法通話でそう返事すると、ルリは私の話を理解したように、そっと頷いた。




「やっぱり、キウイさんのこと、好きかと聞かれると、わからないです……。嫌いでは、ないのですけど」


 チェリーは、私の髪をシャンプーで洗いながら、ぽつりとそうこぼした。まだ目は少し赤いが、涙はもう止まっているようだった。


「キウイとキスをした時、どう思ったの?」

「……っ、や、優しくて……、びっくりしました。いつものふざけてる感じでもなくて……」


 キスをした時のことを思い出しているのか、チェリーの頬がみるみるうちに赤く染まっていく。


「……その、キウイさん……『嫌なら拒否してください』って、そう言ってたんです。無理やりとか、そういうのでは全然なくて……優しかったんです……とても」

「そうね、私もキウイはとても優しいと思うわ」


 そう言うチェリーは、心の奥底で、もう答えを見つけているけど、踏み出すきっかけを探しているのではないか……。そう思った私は、背中を押すことにした。


「お付き合いできないなら、そう言えばいいじゃない」

「……っ、それは……」


 私の言葉に、チェリーのヘアオイルを塗る手がぴたりと止まる。ワインレッドの瞳を大きく揺らしながら、言葉を詰まらせた。


「ふふっ、そこで即答できないのが、答えじゃないかしら? 私は、そう思うわ」


 私の言葉に、チェリーは再びヘアオイルを塗る作業に戻った。しかしその動きはどこかぎこちなく、目を伏せたまま不安そうに呟く。


「でも、その、キウイさんの、想い……に、応えられるか、心配で」


 チェリーのその声に、私は静かに問い返す。


「キウイは、そんな見返りを求めているのかしら?」

「え……?」

「与えた分が返ってこないからと言って、怒るような人じゃないと思うわ。もらえるものは、ただ素直にもらっておきなさいな」


 私がそう言うと、チェリーはふっと笑みをこぼした。


「……ふふっ、そうかも……しれないですね。私、難しく考えすぎていたのかもしれません」


 そう言って笑うチェリーの瞳に、もう迷いはなかった。彼女の心はもう、答えを決めたようだった。




 湯浴みを終えてチェリーと一緒に部屋に戻ると、ちょうどルリの寝支度が終わったところのようだった。


「ルリ様の支度は完了いたしました。では、私はこれで、お先に失礼いたします」


 キウイはそう告げるやいなや、一礼して部屋を出ていこうとする。その素っ気ない態度に、チェリーは思わず声を上げた。


「あっ、待ってください、キウイさん……!」


 しかし、その声が聞こえているのかいないのか、キウイは足を止めることなく、すっと部屋の外に出ていってしまった。


「チェリー、キウイを追いかけなさい」

「でも、サクラ様の寝支度が……」


 チェリーは私と扉を見比べながら、どうするか迷っているようだった。


「そんなの後でいいから。ほら、行きなさい」


 私はチェリーの背に手を添え、ドアの方へ優しく押した。その後押しに、チェリーは迷いを振り切るように、力強く頷いた。


「……っ、はい、ありがとうございます!」


 そしてぱたぱたと、キウイを追いかけるように部屋の外に走り去って行った。


「ねぇ……、キウイ、いなくなっちゃうの?」

「へっ?」


 チェリーが部屋から走り去った後、それまで黙っていたルリが、不安そうに私を見上げた。


「おふろに入ってるときにね、キウイが『明日からはもう、会えないかもしれません』って、そう言ってたの。わたし、わたしのメイドは、キウイがいいよ……。わたし、キウイがだいすきなの……っ」


 そう言いながら、ルリの大きな瞳には、みるみるうちに涙が溜まっていった。


「チェリーに任せておけば、大丈夫よ。いつも通りの日常が、またきっと、戻ってくるわ」


 私はルリを優しく抱きしめながら、そう囁く。いつもと変わらない温かいルリの体温に、少し心が落ち着いた。その言葉は、ただの私の純粋な願いだったが、不思議と叶うような気がしていた。

ひとつ前の話は、ムーンライトノベルズ版も公開中です。

なろう版・ムーンライトノベルズ版、どちらのエピソードからも話が繋がるように書いてます。後者の方から繋がっていると思って読むと、また違う感じがして面白いと思います。興味があって、年齢的に大丈夫な人は、ぜひ読んでみてください。


さて、二人がどうなるかは……次話に持ち越しです。

長々とかかってすみません。引き続きよろしくお願いします。

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