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人魚と姫 〜私達が結婚すると、世界が救われる!?〜  作者: ぞ
第三章 結婚式

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41. 小さな嘘と秘密の花畑

 その泣き声に真っ先に気づいたのは、ガーネットさんだった。


「誰かの……泣き声が聞こえるわ」


 ガーネットさんが声のする方に走り出したので、私たちも慌てて後を追った。


「ふえっ……ふええん……」


 たどり着いた路地の裏で、小さな子どもが膝を抱えて泣いていた。大きな怪我をしているような様子はなかったので、私はひとまず胸をなで下ろした。


「ねえ、どうしたの?」

「ふえっ……おかねが……おかねが、なくて……プレゼントが……かえないの……」


 ルリはしゃがんで子どもの目線に合わせ、優しく問いかけた。すると、その子は震える声でそう話した。


「ええっ!? たいへんだ! もしかして、おとしちゃったのかな?」

「……っ。…………うん、そうなの」

「じゃあ、いっしょにさがしてあげる! みんなも、いっしょにさがしてくれる?」


 ルリがそう言って私たちに視線を向けたので、私たちは頷き、手分けしてあたりを探し始めた。路地裏の地面を一通り見て、看板の裏や木箱の影、ありとあらゆる場所をくまなく探したが、それらしきものは見つからない。


「おかね……どのぐらい、おとしたの?」

「…………わかんない」

「そっかー。おかねかぞえるの、むずかしいもんねぇ……」


 ルリは、子どもを怖がらせないように、優しく言葉を選んでいる。

 私は悲しむ子どもの様子を見て、このまま見つからないのであれば、自分の財布からいくらか施しを与えてもいいのでは、と考え始めていた。しかし、そのまま渡すと相手に気を遣わせてしまうだろう。一度路地裏に落として、偶然見つけたように装えば、この子も素直に受け取ってくれるだろうか。そんな考えを巡らせる。

 しかしガーネットさんは、子どもの様子を見て何か思うところがあったようで、厳しい顔で口を開いた。


「……あなた、隠していることがあるなら、正直に言ったほうが良いのではなくて?」


 その言葉の鋭さに、私はぎょっとした。不意に発されたその言葉は、まるで氷のように冷たく感じた。


「ガーネットさん……?」

「あなた、さっきから物言いがはっきりしないし、嘘をついているのは明白だわ。ルリの優しさにつけこんで、隠し事を増やしても、不幸が増えるだけよ」


 ガーネットさんが言葉を発する度に、幼い子どもの目にはみるみるうちに涙が溜まっていった。耐えられず私がガーネットさんを止めようとした、その時。伴侶のルベライトさんが「私に任せてください」と私に耳打ちして、前に出た。


「ごめんね、このお姉さん、優しい言い方をするのが苦手なの。でも、心の中はとっても優しいから、安心してね。……もし、何か、言いづらい雰囲気にしてしまっていたらごめんなさい。でもね、もし、言えないでいることがあるなら……素直に教えてくれた方が、私たちとしても、もっといいことを考えてあげられるかもしれないの」


 そう言って、ルベライトさんは子どもを優しく抱きしめた。


「何か、教えてもらえることは、ないかしら?」

「……っ」


 優しく抱きしめられて、子どもの頬を涙が伝っていく。身体が震えていたけど、その表情はだんだんと安らいでいくように見えた。


「……おかね、おとしたんじゃないの。……っ、さいしょから、なかったの。ごめんなさい……っ」


 嗚咽が落ち着くと、子どもはぽつりぽつりと話し始めた。


「ここ、おかねがおちていることが、よくあるの。きょうは、お母さんのたんじょうびだから、プレゼントをあげないといけないのに……。おこづかい、とっておくのをわすれて、おかねがないの。だから、ひろいにきたのに、きょうは、ぜんぜんおちてなくて……」


 子どもは震える声で、ゆっくりと事情を話してくれた。

 確かに、最初に話したのは「お金がなくてプレゼントを買えない」という事実だけだった。そこにルリが「落としたの?」と問いかけたので、思わず頷いてしまったのだろう。私たちが必死で探すものだから、もう後戻りできなくなってしまったのかもしれない。


「そうだったのね。言いにくいこと、教えてくれてありがとう。買うものはもう、決まっているのかしら?」

「いつもは、おはなをあげてるの……。きょうも、おはなにしようと、おもってたんだけど……」


 それを聞いて、私は一つのアイデアを思いついた。


「お花、ブーケにできたら素敵かしら? 私、とってもいい花畑を知ってるから、一緒に行ってみない?」




「サクラ様、お待たせいたしました。庭師のバナナさんから入室の許可をいただきましたので、鍵を開けますね。バナナさんもすぐにいらっしゃるそうです。ブーケにするのは、バナナさんに頼むといいでしょう」


 そう言って、チェリーはフィオーレ城の一角にある、透明なガラスで作られた巨大なドーム状の建物の扉を開けてくれた。ここは、城が誇る、花で溢れる巨大な温室だ。


「わあっ……!」


 一緒に連れてきた子どもに、中に入るように促すと、目をきらきらと輝かせた。


「ここは、秘密の花畑なの。今日だけ特別に、ほんの少しだけなら、お花を持っていっても大丈夫よ。でも、ここは秘密の花畑……今日だけの秘密、とっても特別なことだから、それは覚えておいてね」

「うん……! あのね、お母さん、髪が紫色だから、紫の花がいいな……!」

「それなら、あっちの方かしら? いい花があるといいわね。チェリー、案内してあげてくれるかしら?」


 私は子どもをチェリーに任せると、温室の外にいるルリと家族たちに声をかけた。


「皆さんもせっかくなので、見ていってくださいな。城の自慢なんです」


 そう声をかけると、みんなは順番に温室への扉をくぐった。


「わあ、きれい! わたし、はじめて入ったよ! お城にこんなところがあったんだ!」


 温室に初めて入ったルリは、目を輝かせ、くるりと一回転して、あちこちを見回している。


「本当に、綺麗だし、いい匂いねぇ……立派だわぁ」

「世話が大変そうだ……尊敬する」


 続いて入ってきたパールさんとオニキスさんは、お互いに言葉を交わしながら、うっとりした様子で、時折花の匂いを嗅いだりしている。


「とても……すごい……! こんなに花があるの、初めて見たわ」

「本当に。サクラ様、お招きありがとうございます」


 最後に入ってきたガーネットさんとルベライトさんも、物珍しそうにたくさんの花々を見渡した。二人の髪色に似ている赤の花を見つけて、嬉しそうに顔を綻ばせていた。


「ガーネットさん、ルベライトさん。あの子の……本当の話を聞き出してくれて、ありがとうございました。私だけでは、こんなに良い結果を導き出せませんでした」


 私は先ほどの子どもの、きらきらとした笑顔を思い浮かべながら、ガーネットさんとルベライトさんに声をかけた。もし、私が自分の財布から施しを与えていたら、彼女は心のどこかで罪悪感を抱えたまま、花屋で花を買っていたかもしれない。


「聞き出したのは、ルベライトよ。私じゃないわ」

「でも、ガーネットさんが気づいてくれたのが、きっかけですもの」


 私の言葉に、ガーネットさんは恥ずかしそうに目を逸らした。


「ふふ、ガーネットはとても正直者だから、すぐ誤解されてしまうのです。だから私は伴侶として、みんなにガーネットの心の奥底を……真っ直ぐな魅力を伝えているだけですよ」

「ルベライトは逆に、ほっとくと何も言わないんだから! だから私が、はっきりと伝えてあげてるのよ」


 そんな風に話す二人は、まるで足りない欠片をかっちりとはめ合ったかのように寄り添っていた。その様子があまりにも美しくて、とてもお似合いな二人だと、心からそう思った。


「あっ、サクラちゃん? そういえばぁ……」


 みんなと一緒に花を見ていると、パールさんがふと思い出したように声をかけてきた。


「あなた、ローズの子だったのですねぇ。結婚式の日、城でお迎えしてくれたのがローズだったから、びっくりしちゃったのよぅ。言われてみれば、面影があるわぁ……」

「えっ!? ローズ母様と、お知り合いだったのですか?」


 私は、その意外な繋がりに、思わず驚きの声を上げてしまった。


「ではオニキスさんとも……?」

「いや、私は初対面だった」


 オニキスさんは首を横に振った。そして、次にパールさんが告げた言葉は、私に頭を真っ白にするほどの衝撃を与えた。


「そうねぇ、だって、ローズと最後に会ったのは、私がオニキスと出会う前……もう、千年以上前のことですからねぇ」




「というわけで、チェリーには今、その子を家に送ってもらっているのよ」

「なるほど、そういうことがあったのですね」


 私とルリは部屋に戻ってきて、キウイに紅茶を淹れてもらいながら、相方のチェリーがいない理由をキウイに説明をしていた。路地裏で泣いていた子どもは庭師のバナナに可愛らしいブーケを作ってもらい、笑みをこぼしていた。そろそろ送り届けられた頃だろうか……そんなことを思っていたら、部屋のドアがノックされる音が聞こえた。

 ドアが開くと、いつものメイド服ではなく、町娘風の服を身に着けたチェリーが中に入ってきた。子どもを送るのに目立たないようにと、着替えて行ったのだろう。


「失礼いたします。サクラ様、無事にあの子を送り届けてきました。皆様が気になっているかと思い、取り急ぎ報告に来ました。キウイさん、お任せしてしまってすみません」

「チェリー、ありがとう。とても助かったわ」

「いいえ、とんでもございません。では私、急いでメイド服に着替えてまいりますね」


 そう言ってチェリーは一礼をして、ぱたぱたと部屋を出ていった。


「き、キウイ! こぼれてる!」

「……っ! あっ、す、すみません」


 ルリの声に振り返ると、キウイが注ぐカップから紅茶が溢れているところだった。キウイは慌ててティーポットを置き、カップから溢れた紅茶を拭う。その頬は、心なしかいつもより少しだけ赤く染まっているようだった。


「どうしたの? ぼうっとするなんて、珍しいわね」

「いえ……チェリーさんが、珍しい服を着ていたので、驚いてしまって。すみません」

「ふふっ、確かに、いつもメイド服だものね」

「チェリー、かわいかったねー!」


 キウイは紅茶を拭き終えると、胸のざわめきを鎮めるように、深い息を吐いた。そうして、いつもの落ち着いた表情を取り戻し、紅茶を淹れなおしてくれた。

 私はお礼を言ってその紅茶を飲みながら、脳裏にちらつくパールさんとの会話を反芻していた。


―― ローズと最後に会ったのは、私がオニキスと出会う前……もう、千年以上前のことですからねぇ


 ローズ母様は、そんなにも悠久の時を生きているのだろうか。

 人魚の里で聞いた、人魚たちの寿命の話。ルリと同じ時を生きるなら、私も時から解放された身体を手に入れないといけない。そのためには何にせよ、ローズ母様との対話が必要だ。

 落ち着いて話ができる機会を設けようと、私は心に誓った。

ガーネットさんとルベライトさんがメインの話でした。


ガーネットの宝石言葉、真実

ルベライトの宝石言葉、寛大

それをキャラクタに落とし込んでみたのですが、どうでしょうか。ちょっとでも魅力的に感じていただけたら嬉しいです。


ローズ母様の年齢に、ちょっぴり慌てるキウイに……? 地味に色々な情報がある話でした。徐々に回収していきます。

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