39. ルリと私の結婚式
チェリーとキウイが開けてくれた扉をくぐると、目の前には真っ赤なバージンロードが続いていた。それはまるで、私たちがこれから歩む、幸せな未来への道を示してくれているようだった。
バージンロードの左右には、私たちの大切な家族が、皆手にフラワーシャワーを持って、祝福の笑顔を浮かべてくれていた。
まず最初に、ローズ母様と葵母様の前を通った。ローズ母様は深紅のドレスを、葵母様は紫色のドレスを着こなしている。二人はお祝いの言葉をかけながら、フラワーシャワーをかけてくれた。
「二人とも、綺麗だな。……おめでとう。二人で幸せを掴むんだ」
「ローズ母様、ありがとうございます。私たち、必ず、幸せになります」
ローズ母様からは、激励の言葉をもらう。それは、いつも強い心を持っているローズ母様らしい言葉で、私たちの背中をそっと押してくれるようだった。
「サクラちゃん、ルリちゃん、とても似合ってるわ。二人で、仲良くね。おめでとう」
「葵さん、ありがとう! 私たち、ずっとなかよしなんだから!」
葵母様からは、優しい言葉をもらった。葵母様らしく、私たちのすべてを包み込んでくれるような、温かい言葉だった。
次は、オニキスさんとパールさんだった。二人とも、ルリの髪色に合わせた、藍色のお揃いのドレスで身を飾っていた。フラワーシャワーをかけながら、声をかけてくれる。
「二人の幸福を祈っている」
「オニキスさん、ありがとうございます。ルリを大切にして……一緒に、幸せになります」
オニキスさんはいつものようにごく短く、しかし温かい言葉をかけてくれた。その表情は相変わらず読みにくかったが、かすかに、柔らかく微笑んでいるのを感じた。オニキスさんの優しい気持ちにそっと触れて、心にじんわりとした温かさが広がった。
「ルリちゃん、サクラちゃん、とっても綺麗よぅ! 色々あるかもしれないけど……二人で、きっと乗り越えるのよぅ」
「パール母さま、ありがとう! わたしたちなら、なんだって、だいじょうぶだよ!」
パールさんは、長年の経験からか、応援の言葉をくれた。それは、これまで多くの困難を乗り越えてきた、人魚の里の長だからこその言葉だった。なんだってできる……そんな気分にさせてくれる、優しくも強い言葉だった。
次は、アヤメ、アメジストさん、スフェーンさんだった。ちゃっかり、スフェーンさんがアヤメの横を確保していて、ルリと目を合わせて笑みをこぼしてしまった。
アヤメは、可愛らしいピンク色のドレスを身にまとっている。アメジストさんは、高貴な紫色のドレスが似合っていた。スフェーンさんは、黄緑の髪色によく合う、濃いグリーンのドレスを着こなしていた。三人からお祝いの言葉をもらいながら、フラワーシャワーを浴びた。
「サクラお姉様、ルリお姉様、おめでとうございます。仲睦まじいお二人は、いつまでも私の憧れです」
「二人とも、似合っているよ。おめでとう……末永く、お幸せに」
「サクラ、ルリ……二人とも、とても綺麗だわ。……心から、おめでとう」
私とルリは、三人からお祝いの言葉に、心からの笑顔でお礼を返した。
「アヤメ、ありがとう! アメジストさん、スフェーンさん、わざわざ来てくださって、ありがとうございます」
「アヤメ、アメジスト姉さま、スフェーン姉さま、ありがとうね!」
「サクラたん、ルリたん、ハピハピだねぇ〜! おめでとう〜! あ、こっちは私の伴侶の、カーネリアンだよ」
「サクラさま、はじめましてー! ハピハピオーラ、感じさせてもらってるよー! ルリたんも、おめでとう〜」
次は、シトリンさんと、その伴侶のカーネリアンさんから祝福の言葉とフラワーシャワーをもらった。お揃いのオレンジ色のドレスを着た二人は、同じような満面の笑みを私たちに向けてくれた。そんな二人はまるで双子のようで、お似合いだなあとほっこりした。そして、私もルリと、こんな風にいつまでも寄り添っていけたらいいなと思った。
「シトリンさん、カーネリアンさんも、本当にありがとうございます」
「シトリン姉さま、カーネリアンさん、ありがとうー! ハピハピだよー!」
「サクラ、ルリ、おめでとう。サクラ、この間は無礼な態度をとってごめんなさい。里を守ってくれてありがとう。こっちは、私の伴侶のルベライトよ」
「サクラ様、ルリ様、おめでとうございます。どうぞ、末永くお幸せに」
最後に、ガーネットさんと、その伴侶のルベライトさんから祝福の言葉とフラワーシャワーをもらう。赤いドレスを着たガーネットさんの瞳には、以前のような警戒の色はなく、純粋な笑顔で祝福してくれた。ルベライトさんも赤いドレスで、その柔和な微笑みで、優しいお祝いの言葉を述べてくれた。厳格で真っ直ぐなガーネットさんの横で、ルベライトさんはそれを包み込むように穏やかに微笑んでいる。二人は、まるで欠けた部分を補うように、ぴったりと寄り添っていた。私もルリとこんな風に、お互いを支え合い、高め合っていけたらと、心から思った。
「ガーネットさん、気にしなくていいんです。これから仲良くしてくださいな。ルベライトさんも、ありがとうございます」
「ガーネット姉さま、ルベライトさん、ありがとうね! 楽しんでいってね!」
こうして、私たちはバージンロードを歩ききった。バージンロードを抜けた先は、壁一面がテラスへと繋がっていた。開け放たれたままの扉の一つをくぐると、テラスの下に、フィオーレ王国の民が集まっているのが見えた。口々に私たちを祝福する声が、大歓声となって耳に届く。それは、この国全体からの、私たちの結婚に対する心からの祝福だった。
「ルリ、誓いの言葉、ちゃんと覚えてる?」
「もちろん! サクラこそ、間違えないでね?」
私たちはそんなことを言って、笑いあった。バージンロードでお祝いの言葉を述べてくれた家族たちも、私たちに続いてテラスに出てきた。そして、その後ろの方には、扉を開けてくれたチェリーとキウイも控えている。皆が揃ったのを確認して、私とルリはゆっくりと手を挙げる。民たちの歓声が一様に静かになり、私とルリからの言葉を待っている。
私とルリと目配せした。ルリの藍色の瞳は、いつになく真剣だった。それに呼応するように、私の心の中にも、強い決意が芽生える。今日、私たちはたくさんの人に祝福されて、結婚を成し遂げるのだ。
私は隣に立つルリと、もう一度だけ目を合わせ、深く頷いた。そして、一緒に考えて、何度も練習した、たった一つの誓いの言葉を、高らかに述べた。
私たちは 健やかなる時も 病める時も
楽しい時は それを共にし
苦しい時は それを分かち合い
花咲き誇る地の果て
悠久なる海の深き底
澄み渡る空の彼方まで
どこまでも いつまでも 共にあり
支え合い 補い合い 高め合い
最後の一枚の花弁が 散りゆくその時まで
永遠なる親愛を 互いに与え続けることを
ここに誓います
サクラ・エルモーサ・フィオーレ
ルリ・ラヴィース・フィオーレ
二人で言い終わって、ゆっくりと手を下ろした。すると、静まり返っていた会場が、一気に熱気に包まれた。ベランダにいる家族たち、そして眼下に集った民たちが、割れんばかりの承認の拍手を浴びせてくれたのだ。
その拍手は、私たちの誓いの言葉が、皆に承認された証だ。これを以て、私とルリは、正式に姫と妃になった。温かい拍手の音に、私は胸の奥に温かい気持ちが込み上げてくるのを感じた。
チェリーとキウイが近づいてきて、私たちが手に持っていたブーケを受け取ってくれた。
私とルリはそのままゆっくりと向き合い、ベール越しに目を合わせると、ルリしか目に入らなくなった。私はゆっくりとルリのベールに手をかけた。淡いベールの向こうで、ルリの藍色の瞳が揺れている。そっとベールを上げると、ルリはくすぐったそうに、嬉しそうに微笑んだ。
次にルリが私のベールを上げる。ルリの指先が頬に触れて、ほんのすこしだけ、心臓が跳ねた。
私たちの間を遮るものは何もなくなった。私は腕をルリの腰に、ルリは腕を私の肩に回し、ゆっくりと顔を近づける。徐々に近づく体温を感じて、鼓動がうるさくなり、もう何も聞こえない。拍手と歓声が遠くに聞こえるけれど、まるで別の世界の出来事みたいだった。
吐息が重なり合った次の瞬間、唇が重なり合う柔らかい感触がして、私はゆっくりと目を閉じた。それは、私とルリが、これから先、ずっとずっと一緒にいるんだと、そう誓い合う、確かな誓いのキスだった。
キスを終えて、ゆっくりと目を開けると、ルリの藍色の瞳が、私の心を映す鏡のように、まっすぐ私を見つめていた。
「サクラ、わたし、……しあわせだよ!」
ルリはきらきらと輝く笑顔を、私に向けた。ルリの言葉に、私は今、ルリと同じ感情で胸をいっぱいに満たしているんだと、再確認する。
「ルリ、私もよ……。世界一、幸せよ」
そうして私たちは、お互いの幸せを、確かな胸の温かみとともに、確かめあったのだった。
人前式スタイルの結婚式でした。雰囲気伝わったでしょうか。誓いの言葉も、気合入れて考えました。幸せな空気を感じてもらえたら、嬉しいです。ハピハピ!
この作品の正式名称は「人魚と姫 〜私達が結婚すると、世界が救われる!?〜」なんですが……ここまで読んでくれた方はわかると思いますが、実は別に結婚しても世界が救われる話じゃないです。
そもそも、予言だと「世界が救われる」のは「結婚すると」ではなく「聖なる巫女を産むと」だし。
しかも、結局産んだのは、ローズ母様だし。
目を引くわかりやすい作品名をあれこれ検討した結果、「!?」に「実は違うけど!」の意味を込めて、今の作品名になりました。
結婚しても、特に世界は救われていないですが、ひとつの節目です。
引き続き、「人魚と姫」をよろしくお願いします。
まだまだ続きます!
※ムーンライトノベルズにて、初夜のエピソードを公開中です




