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人魚と姫 〜私達が結婚すると、世界が救われる!?〜  作者:
第二章 人魚の里

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29. 五人姉妹に潜む影

 アメジストさんの案内に私とアヤメがついていくと、二人の人魚がいた。


「シトリン、ガーネット。ルリの伴侶となるサクラと、サクラの妹のアヤメだよ」


 アメジストさんの紹介に、最初に反応してくれたのは次女のシトリンさんだった。


「あなたがサクラたん? ルリたんが、めっちゃラブな人でしょ? 私はシトリンだよ、よろしくね〜! ルリたんはとっても大事な妹だから、ハピハピにしてくれると嬉しいな〜」


 独特な言い回しで、はじけるような笑顔で話すシトリンさんは、太陽のように明るいオレンジ色の瞳と髪がよく似合う、とても明るくて元気な人だった。頭の高い位置で二つに結った髪が、そのエネルギッシュさに華を添えている。彼女はとても気さくで、私たちに対してもポジティブに接してくれた。


「よろしくお願いします、シトリンさん。サクラです」


 挨拶すると、シトリンさんは私の手をぎゅっと握ってくれた。


「私も、伴侶がいるからわかるんだぁ〜。好きって気持ちは、抑えられないよね! 私、伴侶のカーネリアンと初めて会ったときに、ラブすぎて心臓がキュンキュンしちゃったの……! それで、そこから毎日ハピハピなんだ!」


 目を閉じてそのように話すシトリンさんは、まさに幸せを全身で感じているようだった。


「サクラたんもルリたんのこと、ラブなんでしょ? 見てたらわかる! だから、安心して任せられるよ〜。アヤメたんも、ルリたんをよろしくね!」

「はい、よろしくお願いします」


 アヤメが挨拶をしながら笑みを返すと、シトリンさんは満面の笑みでその手を優しく包みこんでくれた。


「ふんっ、私はあなたたちのこと、まだ信用してないんだから」


 一方のガーネットさんは、私たちに対して警戒心をあらわにしていた。真っ直ぐな深紅の髪を肩あたりできっちり切り揃えている。そして同じ色の瞳は少し吊り目で、その勝ち気な態度によく似合っていた。


「ガーネット、客人に失礼な態度はよくないぞ」

「アメジスト姉さまやシトリン姉さまは信用してるみたいだけど、私は自分の目で判断させてもらうわ。あなたがルリ……私たち人魚に害をなす存在だとしたら、容赦はしないから」


 アメジストさんに苦言を言われても、ガーネットさんは態度を変えない。しかし、その言葉からは、敵意のようなものは感じられなかった。単純に、私たちのことを知らないから警戒している、ただそれだけのようだ。そしてそれはごく自然のことで、仕方ないと思った。私がガーネットさんのことを知らないのと同様に、彼女もまた、私たちのことを知らないのだ。


「ガーネットさん、よろしくお願いします、サクラです。あなたが私たちのことをまだ信用できないのは、当然のことです。だって私たち、お互いのことをまだ何も知らないのですから。信用に足ると判断できたら、仲良くしてくださると嬉しいです」

「……ふんっ、わかってるならいいのよ」


 そう言って、そっぽを向くガーネットさん。その、そっけない様子がなんだかかわいらしくて、私とアヤメは目を見合わせて微笑んだ。




 そうして二人との挨拶を終えた私たちは、残る一人のお姉さんの元に向かっていた。アメジストさんの話では、最後の一人はスフェーンさんと言い、五姉妹の四女、ルリのすぐ上のお姉さんということだ。

 道中、アヤメがアメジストさんに尋ねた。


「あの、そこら中に吊るしてある光っている瓶について聞きたいのですが……。あの瓶の中には何も入ってなくて、ただ魔法で作られた光があるだけですよね? 光を照らす魔法は、魔法を使用した人からの魔力の供給がなくなるとすぐ消えてしまうって、本で読みました。あの光は、なぜ光り続いているのですか?」


 里の中にたくさん飾られている光る瓶の飾りは、たしかによく見ると瓶の中は空っぽで、ただ光がぼんやりと浮いていた。それが里のあらゆるところで、魔力供給なしに光っているのがアヤメには不思議で仕方がないようだ。


「ああ、スフェーンがそういうのが得意でね。付与魔法というそうだ。物に付与された魔法は、周囲の……この辺りだと無尽蔵に存在する海水の魔力を消費して動いているらしい。これから会いに行くのだから、その時に聞いてみるといい」


「そうなのですね……お会いできるのが楽しみです」


 アヤメは目をきらきらさせて微笑んだ。その純粋な好奇心に、私は思わず笑みをこぼす。


「アヤメは本当に、勉強熱心ね」


 以前、時早めの魔法を使ったりんご酒の製造方法を模索した時のように、またアヤメは魔法で人々を幸せにする手助けをしようとしているのだろうか。そんなことを思ったのだが、アヤメは首を横に振って微笑んだ。


「いいえ、魔法技術の知的好奇心もあるのですけど……」


 そう前置きしたアヤメは、飾られた光の瓶をもう一度見つめた。そこかしこに飾られた、丸みを帯びた可愛らしい形のガラス瓶。それらが放つ優しい光に心までも照らされているかのように、アヤメはふわりとした笑みを浮かべた。


「この瓶の飾り、どれもとても優しい形をしていて、素敵だなあって思ってたんです。だから、作った人も、きっと素敵な方なんだろうって……そう考えると、お会いできるのがとても嬉しいのです」


 照れながらそんなことを言うアヤメの表情は、さながら恋に浮かれる少女のようであった。初めて見る妹の意外な一面に、私は驚きながらも、その初々しさに微笑ましくなった。

 しかし次の瞬間、まるで何かに気づいたように顔から表情が消え、その瞳に険しさが宿る。


「今、何か、負の魔力のようなものが……」


 アヤメは何かを感知したようで、遠くの方を見据えている。


「えっ? 何も気づかなかったのだけれど……」

「今向かっている方です! アメジスト様、サクラお姉様、急ぎましょう!」


 止める間もなく、アヤメは飛び出して行った。私は、アヤメが背負っている「聖なる巫女」の運命を思い出す。もしかしたらアヤメは、災いとなり得るものを察知する能力があるのかもしれない。

 私とアメジストさんは顔を見合わせ、頷きあった。アメジストさんの瞳にも、私と同じように戸惑いの色が浮かんでいるように見えた。それでも、アヤメを追いかけるしかない。私たちは迷うことなく、アヤメの後に続いた。


『サクラ! こっちに来てるよね? このあたり、イヤな魔力があふれてて、ぞわぞわってするの! こっちに来ないほうがいいかもしれない!』


 ちょうどその時、ルリからの魔法通話が届いた。どうやら、私たちが向かう先にはルリがいるようだ。ルリの言う「イヤな魔力」は、きっとアヤメの言う「負の魔力」なのだろう。


『ルリ、そこにいるの? アヤメが「負の魔力を感じる」って言って、そっちに向かっちゃったの! 私たちも追いかけてるところなの!』

『むむ……わかった! わたし、そっちに向かって、アヤメが来ないように止めるよ!』

『ありがとう!』


 ほどなくして、遠くからこちらに向かっている二人の人魚が見えた。一人はルリで、もう一人は淡い黄緑の髪をした、儚くも美しい人魚だった。


「あっアヤメ! こっちに来ちゃダメ! サクラ! だいじょうぶ!?」


 ルリの姿が見えるとほぼ同時に、ルリの切羽詰まった声が届いた。

 そして、そこで、私が見たものは。


「あの娘が……サクラ。そうなのね、あの娘が、ルリを……」

「ス……スフェーン姉さま!?」


 ルリを抱きしめて離さない、鋭い目つきの人魚。


 オニキスさんのようにただただ冷たい目でもなく、ガーネットさんのように警戒の色に染まっている目でもない。

 私を、憎悪し、拒絶する。そんな目をした人魚を、私は見たのだ。

たくさん人魚が出てきてすみません。全員宝石の名前なので、色で覚えてもらったらと思います。


母たちは

パール(白)→おっとり

オニキス(黒)→無表情


姉たちは上から、

長女 アメジスト(紫)→騎士

次女 シトリン(橙)→ギャル

三女 ガーネット(赤)→ツンデレ

四女 スフェーン(黄緑)→ヤンデレ(?)


姉たちは最低限、四女、黄緑のスフェーンさんだけ覚えてもらえたら、大丈夫と思います。あと、みんなハッピーエンドにしますので、そこだけは安心してください! ハピハピ!

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