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人魚と姫 〜私達が結婚すると、世界が救われる!?〜  作者:
第二章 人魚の里

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24. ようこそ、人魚の里へ

「では、ルリお姉様、サクラお姉様、お供させていただきます。よろしくお願いいたします。なんだか緊張してしまいますね」


 そういってアヤメは、私とルリに深々と一礼しながら、柔らかい笑みを零した。


「アヤメ、来てくれてありがとう。では、一緒に行きましょう」


 これから私たちは人魚の里へと出発する。

 今私たちは、私とルリの部屋に集っている。この部屋の一角にある海に繋がる水場から、海へと行く予定だ。

 見送りは本人の熱い希望があり、キウイが担当している。というか見送りは断ったのだが、キウイがどうしてもと言うので、同席してもらってる形だ。

 「変化の魔法で何か問題が起こった時に、私なら助けられますから」なんて言っていたけど、珍しい魔法をルリが使うところを見てみたい気持ちのほうが、明らかに大きそうであった。


「さいしょは、わたしから!」


 ルリが魔力を練り上げて解放すると、ルリの身体が眩く発光した。ドレスを着ていたシルエットは徐々に、人魚のシルエットへと変化する。そうして発光がおさまると、着ていたドレスがドレス風の水着に変わっていて、脚は幼い頃から見慣れた藍色の尾に変化していた。


「ほう……さすがルリ様、素晴らしい魔法です。身につけているものも、変化の対象にできるのですね」


 キウイは瞬きもせず、一部始終をじっくり観察していた。その視線には、一人の魔術師としての純粋な探究心、そして高度な魔法を使いこなすルリに対する尊敬の念が宿っているようだった。


「驚きました……。その、ルリお姉様が人魚というのは、話では聞いていたのですけれど、目で見たことがなかったので。こんな言い方、失礼になってしまうかもしれませんが……、本当に、人魚、だったのですね……」


 アヤメは目を丸くしたまま、窓から漏れる光を浴びてきらきらと光る、ルリの藍色の尾を見つめていた。アヤメのその様子は、美しい宝石に見とれているようにも見えた。


「ふふっ! いいでしょう? じゃあ次は、アヤメ、おいで!」

「は、はいっ!」


 ルリは水場の中にちゃぷんと浸かり、同じようにアヤメに変化の魔法をかけた。アヤメの身体を覆う光が消えると、純白の鱗の尾が現れた。その神聖な輝きに、思わず息を呑む。


「わあっ……、とっても綺麗です! なんだか、不思議な気分です」


 アヤメは、子どもが新しい玩具の動きを確かめるように、きらきらとした無垢な瞳で、自分の尾をぴこぴこと動かしていた。


「アヤメ様、気分が悪いなどの問題はありませんか? 尾は自分の意志通りに動かせますか?」

「ええ、問題ありません。尾も、元々自分のものであったかのように、自由に動かせます」


 キウイがどちらかというと自分の知的好奇心を満たすために聞いた質問に、アヤメは律儀に答える。

 アヤメはルリの浸かっている水場に、静かに潜り込んだ。


「ぷはぁっ! 水に入ると、身体が軽くなったようです! ふふっ、なんだか、気分が高揚しますね」


 弾んだ声でそう言うと、アヤメは期待に顔を輝かせた。


「さいごは、サクラだね〜」


 ルリは、私にも同じ魔法をかけた。眩い光がおさまると、私の脚は、以前にも見た珊瑚色の尾に変わっていた。同じように人魚になって海をデートした時のことが懐かしく思い出されて、思わずきらりと輝く鱗を優しく撫でた。


「ありがとう、ルリ」


 私も水場に入る。これで、三人が水場の中に揃った。


「キウイも、見送りありがとう。私たちは行くわね」

「ええ、こちらこそ、いいもの見させていただいてありがとうございました。お気をつけていってらっしゃいませ」


 そう言ってキウイは、深々と礼をした。「いいもの見せていただいて」なんて、下心を隠さず律儀にお礼を言うキウイに、私の口からは笑いが溢れてしまった。




 水場から海へと繋がる水路は、一人ずつしか通れない幅だった。ルリを先頭に、順番に並んでしばらく泳ぐと、あっという間に海に着いた。

 一度水面から顔を出し、三人で広大な海を眺める。


「海って……広いのですね! 私、本や絵画でしか見たことがありませんでした……!」


 アヤメが水平線を見つめながら、楽しそうに語る。初めて海を見た時の自分と重なり、微笑ましく思った。


「ふふっ、そうね、私も初めて見たときは驚いたわ」


 アヤメの頭を撫でると、アヤメは照れたように、少し顔を赤らめた。


「少し、興奮しすぎてしまいました……」

「んふふ、アヤメはかわいいね〜」


 ルリも一緒になって頭を撫で始めたので、アヤメはさらに顔を赤くしてしまった。


「じゃあ、里に案内するよ! ちょっと遠いけど……着いてきてね!」


 ルリがそう言って水に潜ったので、私とアヤメも続いた。




 ルリの案内で、深く、深く潜りながら泳いでゆく。最初は淡い陽光が差し込んでいたが、徐々に光が届かない世界になってきた。

 人魚の姿でルリとデートした時もそうだったが、人魚の視界は暗闇でもクリアで、何も見えなくて困ることはなかった。時折、小さな魚たちが、私たちをめずらしそうに眺めながら泳いでいくのも、しっかりと視認することができた。


「人魚の里とは、どういうところなのですか? 人魚がたくさんいるのでしょうか?」


 道すがら、アヤメがルリに尋ねる。


「そうなの! みんなでおしゃべりしたり、歌ったりして、楽しく暮らしてるんだよ〜。アヤメとサクラも、みんなと仲良くなってくれると嬉しいな!」


 ルリの話では、人魚の里は国というほどは大きくないが、近隣の人魚たちが身を寄せ合って暮らしている場所らしい。

 私がルリと話をする時は、ルリは私の話の聞き手になることが多く、あまり自分のことを話してくれなかったので、初めて知ることばかりだ。


「ルリの家族は……、どういう方たちなの?」


 私は尋ねた。それは、これから会う人たちに好印象を与えるため、少しでも情報が欲しいという気持ちもあった。婚約者として、そして人間の代表として会うのだから、少なくとも、嫌われるようなことはしたくなかった。


「うーん、パール母さまは、いつもニッコリしていて、怒ってるところを見たことがないよ! もう一人の、オニキス母さまは……、とってもしっかりしていて、かっこいいの!」


 ルリは故郷に思いを馳せるように、目を閉じて語った。


「姉さまたちは……うーん……、あっ、実際に会ってもらった方がわかるかな、ほら!」


 話しながら泳いでいたら、いつの間にか遠くの方に、ぼんやりとした光の塊のようなものが見えた。

 遠くから見ると夜空に浮かぶ星々のようだったのに、泳ぎ進むにつれて、それらがはっきりと見えてくる。それは、貝殻と珊瑚で作られた街並だった。貝殻の家々の窓から漏れる明かりや、ところどころに提灯のようにぶら下がっている、光を閉じ込めた色とりどりのガラス瓶が、星のように煌めいていた。

 貝殻に腰かけて談笑したり、その辺りを自由に泳ぎ回ったりしている人魚たちもいるようだ。


 そして、ルリは私とアヤメの方を向き直り、屈託のない笑顔を浮かべる。


「人魚の里へ、ようこそ!」

人魚の里編、開幕です。


ムーンライトノベルズの方で、「人魚と姫」の刺激強めのエピソード集の公開を始めました。

細々と載せていくので、興味があって、見られる年齢の方は、検索してみてください。

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