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人魚と姫 〜私達が結婚すると、世界が救われる!?〜  作者:
第二章 人魚の里

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18. 妹の生誕、そして、18歳

 ララ・ヴァインとの激闘から、一ヶ月ほどが経過した。

 あれから、私の周りでは、いくつかの変化があった。




 まずは、私の部屋の一角に、海に直接つながる水場が設置された。ルリの魔力回復用だ。

 正式に結婚を済ませてからでもいいのでは、なんて意見もあったけど、私とキウイが表に立って計画を押し進めた。おかげで、ルリはいつでも魔力回復と、海水の補充ができるようになった。


 次は、ルリの身体の変化。

 驚くことに、ルリが、私と同じ時魔法を使えるようになった。

 時魔法は、フィオーレ王族が代第引き継いできた、元々限られた適性者しか使えない特別な魔法だ。フィオーレ王族はその適性を代々引き継いできたが、周りではそれ以外に適性を持つ者はおらず、私も数少ない時魔法適性者の一人だった。

 しかしある日ルリが、私がいつものように部屋の花に時止めの魔法をかけているのを見て、「私にもできる気がする」……なんて言って、見様見真似でやってのけたのだ。

 キウイによると、私が魔力を渡したから、時魔法の適性も渡ったのかもしれない、とのこと。

 私も水魔法や空間魔法が使えるのでは、なんて期待したけど、そんなことはなかった。私がルリに魔力を渡したのであって、ルリから魔力を受け取ったわけではないので、逆はないようだ。


 そして、ルリ……というより、ルリと私の変化。

 魔法通話……遠隔での意思疎通ができるようになった。

 これも、魔力譲渡の影響らしい。魔力回路がつながったのでは、なんて、キウイは言っていた。

 ある日、私が一人で紅茶を飲んでいると、私の頭の中に、聞き慣れた呑気な声が響いた。


『わあ、キレイな花! サクラといっしょに見たいな〜』


 突然の出来事に、私は持っていたカップを落としそうになった。慌てて周囲を見渡すが、ルリの姿はどこにもなかった。それもそのはず、ルリはキウイに連れられて外に結界調整の手伝いに行っているはずだからだ。


『ルリ? ……ルリなの?』

『えっ、サクラ? サクラの声が聞こえる! 私、サクラとつながってるのかな?』


 こうして私たちは、お互いのことを強く想いながら心に言葉を思い浮かべると、魔法通話で相手に伝えられることを知った。

 最初の方はうまく制御ができず、ふとした拍子に心の声が漏れて赤面したりすることもあったが……二人で練習して、望んだときだけ使えるようになった。ルリは、器用に使いこなして、映像情報を送ってくることもある。


 ちなみに、私たち二人の関係性は、まだ、「婚約者」のままだ。

 現在、結婚式の準備が進められているところで、結婚式を済ませたら、晴れて姫と妃という関係になる。




 そして、ここ一ヶ月で、一番大きい変化。

 私の妹の、アヤメ――アヤメ・エスポワール・フィオーレが18歳になるのを祝して、成人の儀を執り行うことになった。




 夕食で家族皆が揃った時、見慣れた少女――アヤメは、ふわりと微笑んで、深々とお辞儀をした。


「お母様方、サクラお姉様、そしてルリお姉様。今日から私も『こちら』で生活いたします。よろしくお願いしますね」


 真珠のような肌。腰まで届くストレートの白髪が、滑らかなシルクのように揺れる。まるで、産まれたての妖精のようにも見える、可憐な少女。それが私の妹、アヤメである。


「アヤメちゃん、わたし、一緒に暮らすのをとっても楽しみにしてたの! よろしくね!」


 ルリは無邪気に、その手を握り返した。その様子は、まるで絵画のように美しい。


 アヤメは、一ヶ月ほど前にローズ母様のお腹に宿った。予定通りだと、まだ妊娠一ヶ月ほどの時期だ。

 しかし、予言の「災い」がいつ起こるかわからない。そのため、ローズ母様と葵母様は、時魔法を使ってお腹の子をなるべく早く出産し、成長させ、災いに備えることにしたそうだ。


 城の一区画を「時早め」の魔法空間にし、現実時間の一日で、その空間内では一年が経過するようにした。魔法空間の整備には一週間ほどの時間を要した。魔法空間は外から維持する必要があるので、私と、時魔法を使いこなせるようになったルリで協力して維持した。

 魔法空間が準備できて以降、ローズ母様は出産まで魔法空間にこもった。出産以降は、ローズ母様と葵母様が魔法空間内でアヤメの世話をした。乳児期は二人でつきっきりで世話し、その後は現実時間の半日ごとに交代で世話していたようだ。 

 現実時間の朝から夕方まで葵母様が、夕方から朝まではローズ母様がアヤメの世話をする。そうして、アヤメの世話担当でない方が、執務をこなして、王国の執務に穴が開かないようにしていた。

 たまに様々な分野の教育係が魔法空間にが入ることもあった。外に出ることは許されなかったアヤメが暇をしないように、言語学、魔法学などの基礎教育以外にも、音楽などの芸術なんかも幅広く教えていたようだ。


 アヤメは、現実時間の夕食の時間だけ、部屋から出てきて、家族で夕食を共にするルールだった。これは、魔法空間のメンテナンス時間を兼ねていた。私たちとしては毎晩一緒に夕食を食べているが、アヤメからすると、一年に一度だけの家族団欒の時間で、とても楽しみにしていたようだった。いつも和やかな笑みで食卓につき、魔法空間内の一年で学んだことを教えてくれたり、私達の他愛ない話に耳を傾けたりしていた。

 最初に見たアヤメは小さい赤ちゃんで、必死で離乳食をがっついていた。そして、次に会った時には、しっかりと歩いていて、また次に会った時は、立派にお喋りしていた。そして、ぐんぐん大きくなって、あっという間にお淑やかな少女に成長した。




「明日は、アヤメの成人の儀だ。サクラとルリの二人も、参列をよろしく頼む」

「せいじんのぎ?」


 食事の最中にローズ母様が言った言葉に、ルリが首を傾げる。


「成人王族……大人って認めるための儀式のことね。フィオーレ王国では、18歳から大人として認められるの。アヤメは、生まれてから18日目だけど、魔法空間で過ごした時間を入れると、明日で18歳だから……」

「といっても、特に何が変わるわけでもないわ。ただの、記念式典みたいなものよ」


 私の説明に、葵母様が付け加える。


「とにかく、おめでとうってことね? わかったよ!」


 ルリぱあっと顔を輝かせて、嬉しそうに何度も頷いた。


「アヤメ、お主を数奇な境遇に置いてしまって、すまない。ここまでよく耐えてくれた」


 ローズ母様の言葉に、アヤメは首を横に振って、微笑んだ。


「いいえ、ローズお母様。私を立派に育てていただいて感謝こそすれ、自分の運命を嘆いたことなどありません。それに……」


 そこでアヤメは言葉を区切ると、私とルリの方を見た。


「私が過ごしていた魔法空間は、サクラお姉様と、ルリお姉様が維持してくれていたのでしょう? とても、心温まる空間でしたわ……。年に一度の家族での夕食の時間も、とても楽しみにしていましたの。不満など何一つありませんわ。ありがとうございます」


 そう言って控えめに笑うアヤメは、とても無垢で純粋だった。

 アヤメは、姉の私から見ても、年齢にそぐわず、とても大人らしいの雰囲気を纏っている。私が成人の儀をした頃は、こんなに落ち着いていなかった。

 明日からは、たった18日で大人になった、慣れない「妹」の生活が待っている。戸惑いもあれば、ちゃんと姉として接することができるかという不安もある。

 けれどそれ以上に、明日からは毎日を一緒に過ごすことができると思うと、胸の奥から温かい期待が込み上げてくるのだった。




 そして最後に、ここ一ヶ月の変化が、もう一つだけ。


「ねぇっ、サクラ……そろそろ、今日のが、ほしいのっ」


 寝支度を整えて布団に潜り込むやいなや、ルリが上目遣いで言ってくる。

 最近はルリがずっと人間の脚で過ごしていて、鱗が乾く心配もないので、ルリは夜は布団の中で過ごすことが多い。それに、ルリは布団をたいそう気に入っているようで、これを知ったら水の中では寝られないと、すっかり布団の虜だ。


 最後の変化は、ルリが定期的に、私の魔力を求めるようになったことだ。


 ルリが時魔法を使えることからもわかるように、ルリの中で、ルリの元々の魔力と、私の魔力が、混ざった状態になっているようなのだが……。元々私の魔力だった分は、ルリの中では自然回復しないので、私から補充をしないといけない、とのことだ。

 キウイ曰く、なくなった魔力を求めるように、中毒状態の離脱症状のような物が出ているのではないかと言っていた。


「ふふっ、かわいいわ……私のルリ……」


 私はルリの髪を優しく撫でて、今日も、深く、深く、キスをする。


 ルリに魔力が吸われていく感じが、心地よかった。

なんか設定を長々と書きましたが、なんか妹のアヤメちゃんはもう18歳なのね〜ぐらいに思っていただけたらと思います。

あと、サクラとルリの初々しい感じが終わって、イチャイチャな感じになりました。


※ムーンライトノベルズにて、カットされたシーンを公開中です

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