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人魚と姫 〜私達が結婚すると、世界が救われる!?〜  作者:
第六章 ナデシコの国

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144. 母の教えと、家族の絆

 ヘーゼルへ無事に箸の練習に使った皿を返し終え、厨房の活気を背に受けながら、二人は静まり返った廊下を並んで歩いていた。

 窓の外には夕刻の気配が忍び寄り、回廊に落ちる二人の影を長く引き伸ばしている。

 チェリーは隣を歩くキウイに、先程から胸に抱いていた疑問を投げかけた。


「あの……キウイさん。お箸、とってもお上手でしたけれど……以前に使ったことがあったのですか?」


 キウイは柔らかな微笑みを浮かべたまま、前を見据えて答える。


「……幼い頃、母と一緒に色んな場所を旅しましたから。実のところ、ナデシコの国にも行ったことあるのです」

「ええっ、そうなのですか?」


 思わぬ告白に、チェリーは目を丸くした。

 けれど思い返せば、訪問に向けてナデシコの国の伝統的な衣装の着付けの指南を受けた際も、キウイは淀みのない手つきでそれらを扱っていた。

 あれはかつての実体験が指先に刻まれていたからこそだったのだ。


他所(よそ)様の土地にお邪魔するのであれば、その文化を(おもんばか)るべし……というのが私の母の教えでした。もちろん食文化もその対象です。母と二人で、現地の人に教えられながら、箸の使い方を覚えました」


 遠い異国の風景と、母親の面影を思い出すように、キウイは目を細めた。


「……素敵な、お母様ですね」

「ええ、自慢の母です」


 キウイの横顔には、語られた言葉以上に確かな愛情が宿っているように見えた。

 だからこそ、チェリーは心の奥に温めていた問いを、そっと口にする。


「…………その。お母様に会いたいとは……思わないのですか?」


 その問いに、キウイは静かに首を振った。


「私が自立して自由に生きることこそが、母にとっての幸せですから。少なくとも、今は……会いたいという寂しさは感じていません」


 キウイはふと足を止め、チェリーの方へ向き直った。

 細くしなやかな指先が伸ばされ、チェリーの頬をふわりと包み込む。


「今の私が、時を共にするべき家族は……チェリーさん、あなただけです」


 一点の曇りもない、真っ直ぐな視線。

 その熱い瞳に射抜かれ、チェリーは胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じながら、幸せを噛みしめるようにはにかんだ。


「……ありがとう、ございます」


 その返答に満足したように頷くと、キウイは愛おしさを込めるようにして、チェリーの頬にそっと顔を寄せた。

 ちゅ、という小さな音とともに、羽が触れるような軽やかな唇の感触が当てられる。

 チェリーは驚く代わりに、目を細めてその温もりを受け入れた。

 もう、キウイからの不意の口づけにただ狼狽えるだけの時期は過ぎたのだ。

 頬に残る微かな熱が、誇らしくさえある。


 キウイは手のひらで包んでいたチェリーの頬を解放すると、今度は指を絡めるように手を取り、歩みを再開した。


「私が本当に母を必要としたなら、その時は……どこからともなく、何らかの手段で手を差し伸べてくれるでしょう。そのような確信があります」


 その言葉には、揺るぎない信頼の念が籠められていた。


「キウイさんは、お母様のこと……心から信じていらっしゃるのですね」

「ふふっ……。普段はちゃらんぽらんで、ねぼすけで、いい加減な人ですが。……やる時はやるし、誰かが助けを求めていれば、必ず手を差し伸べる。私の母とは、そういう人なのです」


 キウイの誇らしげな言葉に、チェリーも自然と笑みを零した。


「私もいつか……お会いしてみたいです」

「ええ、いずれきっと会えるでしょう。人生は長いのですから。……さて」


 キウイが目線を向ける、廊下の先には、見慣れた扉が見える。

 (あるじ)であるサクラとルリの部屋の扉だ。


「休憩時間はおしまいですね」

「そうですね。……お箸の使い方、教えてくださってありがとうございました」


 チェリーは背筋をぴんと伸ばし、メイドとしての顔に戻る。

 けれど、繋いだままの右手に少しだけ力を込めると、隣を歩く妻へ、もう一度だけ幸せそうに微笑みかけた。


「それと、キウイさんのこと……また一つ詳しくなれて嬉しいです。さあ、お仕事を頑張りましょう」


 重なっていた指先が、名残惜しそうに離れていく。


 ナデシコの国への旅路。

 そこには、きっとまだ見ぬ景色と、二人で紡ぐ新しい時間が待っている。

 チェリーは、その未知への期待と最愛の人への想いが溢れる胸の奥が、じんわりと温かくなるのを感じていた。






先週の更新スキップに加え、

更新が一日遅れてしまい申し訳ありませんでした……!



キウイと母親の話は、読み切り短編

『いずれ最強の結界魔法使いとなる幼子の旅の記憶』

で読むことができます。

そちらを読んでからこの話を読むと、少しほっこりするかもしれません。

https://ncode.syosetu.com/n4213lv/



色々な縁があり、『人魚と姫』のPVを作成していただきました!

とってもかわいいので、ぜひご覧ください!

サクラとルリに加えて、チェリーとキウイも出てきます!

https://youtu.be/d4U9GaXZdT0?si=U8rRLMrp1bbAETT7

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