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人魚と姫 〜私達が結婚すると、世界が救われる!?〜  作者:
第一章 「聖なる巫女」を求めて
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14. 町娘風の装いで

 朝、起きるとすぐ目の前にルリの顔があった。

 ルリの長い睫毛が触れそうなほどの近さに、息が止まりそうになる。


 ――そうだ、昨晩、一緒の布団で……


 昨晩、寝る時間になって。

 ルリが「今日は海にたっぷり入ってきたから、海水の中で寝なくて大丈夫そう!」なんて言いながら、当たり前のように布団に潜り込んで来たのだ。

 疲れていたらしく、ルリはすぐ寝息を立て始めたけれど……。私は、肩をくすぐる吐息と、絡まった脚から感じる確かな体温に心臓が潰されそうになってしまって、なかなか眠れなかった。


「ふふっ、あなたといると、心臓がどうにかなっちゃいそうよ……」


 静かに眠るルリの髪を優しく撫でる。

 昨日湯浴みの際に塗ってもらったヘアオイルのお陰で、ルリの髪はいつもに増して艷やかだ。いつもかすかに海の香りがするルリの髪から、今日は私とお揃いの甘い香りがして、どきりとする。

 そして、髪を撫でる手が、ふと頬に触れる。頬をむにゅっとつつくと、その隣にある、赤い唇が目に入る。昨日、珊瑚のトンネルでキスをしそうになったのを思い出して、鼓動が早くなるのを感じる。


(キスができないのは、私に、勇気がないから……)


 昨日、キスはもう少し待って欲しいと頼んでから、ルリはキスの話はしなくなった。

 キスをしないといけないのも、私が予言に従って子どもを作らないといけないという、私の都合。

 キスをまだしたくないのも、私の心の準備が整っていないという、私の都合。それなのに、ルリは文句も言わず従ってくれている。


(これ以上、ルリの気持ちを無駄にするわけには、いけない)


 ルリの柔らかい唇にそっと触れながら、今日こそちゃんとキスをしよう、そう決意を新たにする。

 ベッドから起きて、思い切り伸びをした。

 昨日は、ルリの故郷の海で、心躍る冒険をした。だから今日は、私の日常である城下町に連れて行ってあげようかな。そんなことをぼんやりと考えていると。


「ぅん……。あっ、サクラ……おはよっ……」


 ルリが目を覚ました。

 朝日に照らされたルリは、目を擦りながら、天使のような微笑みで朝の挨拶をした。そして、ゆっくりと身体を起こす。


「おふとんって、すごく気持ちいいのね! びっくりしちゃったぁ。海の中でも使えるふとん、あったりするのかなぁ……」


 ルリは初めての布団にいたく感動したようで、布団を抱きしめてごろごろと転がりまわっている。羽毛布団に顔をうずめたり、布団を頭からかぶったり、まるで子どものようだ。


「ふふっ、水の中に沈めると、羽毛が潰れてしまいそうね」


 その様子が愛らしくて、自然と笑みが溢れてしまった。

 そうしていると、控えめなノックが聞こえる。メイドのチェリーとキウイが、身支度を手伝いに来てくれたのだ。ドレスを着付けてもらいながら、先ほど思い浮かべた計画を口にしてみた。


「今日は、よければ城下町を案内しようと思うのだけど……。ルリ、どうかしら?」


 私の言葉を聞いたルリは、目をきらきらと輝かせた。


「わあ、城下町! どんなところなの? どんな色の貝殻が拾えるの?」

「ふふっ、海じゃないから、貝殻は落ちてないのよ。でも、屋台で美味しいものを売っていたり、可愛い雑貨屋さんがあったりするの」

「とってもよさそう! たのしみ〜!」


 ルリの純粋な反応に、私までわくわくしてくる。


「それなら、ドレスだと悪目立ちしてしまいますから、町娘風の服の方がいいですね。朝食の間に準備しておきます」


 チェリーも私の計画に賛成してくれて、準備を進めておいてくれることになった。




「お二人とも、お似合いです〜! やっぱり、差し色の小物に、お相手のお色を入れるのが大正解!です!」


 朝食後、チェリーが用意してくれた町娘風の服に着替えた。

 ルリは私の髪色のバンダナを身に着けていて、私の服は腰のベルトがルリの髪色になっていた。

 とても可愛らしい装いだが、一つだけ問題があった。いつものドレスよりも、スカート丈がかなり短いのだ。ひらひらと揺れる裾から脚が見えるのが気になって、なんだか落ち着かない。


「チェリー、これ、丈が短すぎではないかしら? 風が吹くと中が見えてしまいそうよ」


 私は思わず、スカートの裾をぎゅっと抑えた。そんな私を見て、チェリーが微笑む。


「今の城下町の年頃の娘の間では、こういうのが流行っているのですよ! 中にペチコートを履いているのですから、多少揺れても問題ありません。それに、丈が長い服はかえって珍しいので、目立ってしまいます」


 私の文句は、チェリーに軽くいなされてしまった。


「サクラ、とってもかわいいよ!」


 無邪気に笑うルリの言葉に、この服も悪くないな……という気持ちになってくる。我ながら、なんとも単純な性格だ。


「お付きの者とか必要ないでしょうか? 私、付いていきましょうか? お荷物とか、いくらでも持ちますよ」

「キウイさん、弁えましょうね。お二人の貴重なデートの時間なのですよ」

「言ってみただけです。でも、お土産話楽しみにしてますから」


 隙あらばルリを観察するチャンスを狙っているキウイは、チェリーに注意されても、涼しい顔をしていた。


「じゃあ、行ってくるね!」


 ルリは満面の笑みで、私の手を握った。その仕草に、どきっとしながらも、強く握り返す。


「行ってくるわね」


 そうして私とルリは、城下町デートへと踏み出した。


 今日こそ、ちゃんと、キスをしよう。

 私の胸には、そんな決意を、秘めながら。

次は、城下町デート編になります! そろそろ一歩進んでほしいですね。

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