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人魚と姫 〜私達が結婚すると、世界が救われる!?〜  作者:
第一章 「聖なる巫女」を求めて
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12. 深海の花と、新しいメイド

 どうやって帰ったのか、あまり覚えていない。


 ルリに抱えられて滝を登ったのだけはよく覚えている。重厚な水圧でもうだめかと思ったけど、ルリが結界を張ってくれていたようで、登りきってみればなんともなかった。

 滝を登った先で人間に戻してもらって。

 城に向かって歩き出した頃には、もう夕日が差し込んでいたように思う。


 夢の中にいるかのような、現実味のない時間だった。身体がふわふわと宙に浮いているみたいで、地に足がついていなかった。


 そのふわふわの状態まま、家に帰って、夕食を済ませ、部屋に戻ってから。

 二人で、深海から持ち帰った花を部屋に飾った。

 水槽を用意して、ルリの小瓶から少し海水をもらって、水槽を満たす。かすかな潮の香りが、部屋に広がった。


「じゃあ、行くよー!」


 ルリが水の中で手をふわっと広げると、ぽんっと音がして、私が時止めの魔法をかけた花が出てきた。


「きれい……」


 窓辺に飾られたその花は、夜闇をほんのり照らして、まるで部屋に小さな月があるかのような、とても神秘的な輝きを放っていた。

 深海での大冒険と、そこでルリと過ごした濃厚な時間を思い出し、私の心臓はきゅんと高鳴る。

 隣で花に見入っているルリの横顔の笑顔が、その淡い光に照らされて、優しくて……。思わず、きゅんとときめく心臓を、そっと手で押さえる。


 音もなくただ二人でその花に見入っていると、部屋がノックされる。


「サクラ様、ルリ様、……わあ、とても綺麗なお花ですね……!」


 部屋に入ってきたのはメイドのチェリーだった。花に見とれてうっとりしている。そしてチェリーの後ろからもう一人、部屋に入る人物がいた。


「これは……もしや月の雫ですか? 本の挿絵では見たことがあるのですが、まさか実物を拝見できるとは……。文献通り、微弱な魔力反応が漏れ出ていますね……なるほど」

「キウイ……? その格好は?」


 チェリーと一緒に入ってきたのは、花を見て興奮気味に語る宮廷魔術師のキウイだった。昨晩は宮廷魔術師らしくローブを着ていたのだが、今はチェリーと同じメイド服を着ている。


「……コホン、失礼しました。私、今日付けでルリ様付きのメイドになったのです。よろしくお願いします」

「そうなの? 宮廷魔術師の仕事は?」

「ルリ様の側にいた方が、魔術師として色々学べると思いまして。葵様に頼み込んで、宮廷魔術師の仕事と兼任ならということで、許可されたのです。メイドの仕事は未経験なので、チェリーさんから指導を受けながら、ルリ様の身の回りの世話をさせていただきます」


 キウイが丁寧にお辞儀をした。


「キウイさんとも、これからいっぱいお話できるってことかな? よろしくね!」


 ルリは元気いっぱいに挨拶する。


「こちらの花……月の雫は、深海でしか発見報告がない幻の花です。どちらからお持ちになったのですか? サクラ様の魔法で、時を止めていらっしゃるのですね。相変わらず、惚れ惚れする時魔法です」

「今日、深海で取ってきたの」


 今日のあらましを簡単に説明すると、キウイは大袈裟に「なんと?」「まさかそんなことが……」なんて逐一反応しながら聞いてくれた。


「この花のこと、キウイは知っているようね?」

「変化の魔法を、他人にも……? 人間が人魚に? ああ、聞きたいことがたくさんあるのですが……。月の雫についてお話しします。と言っても、詳しいことは誰も知らないのです。文献に民間の潜水艦が発見したことがあるという報告が数件あるのみで……実在するかは疑わしいと書かれていました」


 いつも海にいる人魚のルリも、見つかるのはかなりラッキーと言っていた。

 人間の文献に発見報告があること自体が、奇跡みたいなものだろう。


「月からこぼれ落ちたような輝きを深海で放つので、月の雫と呼ばれています。こちら、可能なら研究に使わせていただきたいのですが……」

「あっ、持っていっちゃダメだよ! サクラとの思い出なんだから!」

「……ですよね。大丈夫です、言ってみただけです」


 キウイが鋭い眼光で月の雫を見るので、ルリは警戒していた。言ってみただけ……と言うが、その目は隙あらば獲物を我が物にしようと狙う、獰猛な獣の目つきをしていた。


「キウイさん、我々はメイドとしての仕事をしに来たのですよ!」


 呆れてチェリーがキウイを制止する。


「そうでした、失礼いたしました。サクラ様、ルリ様。本日は長く出歩いていたようなので、お疲れでしょう。湯浴みの準備ができたので、いかがですか?」


 キウイが姿勢を正して言うと、ルリがきょとんと首を傾げた。


「ユアミ?」

「ああ、昨日ルリ様は湯浴みの前に寝てしまったのでしたね。身体を温かいお湯で清めるのですよ」


 キウイが簡単に湯浴みの説明をすると、ルリの顔はどんどん明るくなっていった。


「わあ、とってもステキね! じゃあ、サクラ、いっしょに行こう!」


 ルリがうきうきした声で言う。すっかり湯浴みが楽しみになってしまったようだ。


「ええ、行きましょうか」


 と、自然に返事をしてから気づく。ルリと、一緒に、湯浴み!?


 湯浴みとは、お風呂だ。

 つまり私は、これからルリと二人で、何も身に着けていない状態で、一緒の浴室で身体を清めるのだ。想像するだけで心臓が破裂しそうになる。


「浴場って、どんなところかな? お魚さんたちはいるかな?」

「お魚を入れると、茹だってしまいそうですね〜」


 そんな会話をしながら、ルリとキウイが行ってしまう。


「ほら、サクラ様も行きましょう、ふふっ」


 チェリーが私を柔らかく見つめてくる視線の裏に、からかいの色が混じっている気がする。そんなチェリーに背を押されながら、私は浴場へと向かうのだった。

メイドが増えました。キウイには、魔法関連の解説キャラを担ってもらおうと思います。次回はお風呂回です。

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