103. 素肌を染める所有欲の印
チェリーとキウイがただイチャイチャする話が数話続きます。
ストーリー進行に大きく影響はしない話なので、読み飛ばしていただいても問題ありません。
「キウイさん……少し悪戯がすぎますっ」
ランジェリーショップの試着室から出て、店員にメジャーを返したチェリーは、頬を林檎のように赤く染めながらそう言い放った。
試着室で服を着直している間、鏡越しに無言でじっとりと睨んできた瞳。
そして今、頬を膨らませて送ってくる、恨めしそうな上目遣い。
そのすべてが、キウイにとっては愛らしくてたまらなかった。
「すみません、チェリーさんが可愛すぎて……つい、夢中になってしまいました」
キウイは悪びれる様子もなく、むしろ満足そうに目を細めて謝罪の言葉を口にした。
その飄々とした態度と、明らかな口だけの謝罪に、チェリーはさらに頬を膨らませる。
「……キウイさんってば、ちゃんと反省していらっしゃいますか? そのお顔、悪いと思っているように全然見えないんですけど」
「ふふ、後悔はしていないですね。だって、可愛いチェリーさんをたくさん見られましたから」
キウイの開き直ったような甘い言葉に、チェリーは毒気を抜かれたようにため息をついた。
「ふう……。もう、キウイさんはいつもそうなんですから……っ」
言葉とは裏腹に、チェリーはキウイの腕をきゅっと抱きしめ、肩にこてんと頭を預けた。
口では怒っていても、結局はこの距離感を求めてしまう。
そんな婚約者の様子に、キウイは愛おしむように目を細めた。
「ほら、チェリーさん、私に下着を選んでくれるのでしょう? 早くしないと、時間がなくなってしまいますよ」
「もう、わかってますっ」
チェリーは名残惜しそうにキウイの腕をぎゅっと抱きしめ直すと、ぱっと離れて向き直った。
その瞳には、やる気に満ちた炎が宿っている。
「私、キウイさんにとびきり可愛い下着を選んで差し上げるんですからっ」
「はい、楽しみにしています」
「……ふふっ、覚悟しておいてください」
チェリーは捨て台詞のようにそう言い残すと、軽い足取りで商品棚の方へと歩き出した。
残されたキウイは、そんな婚約者の愛らしい背中を見送りながら、静かに口角を上げる。
「さて……では、私も選ばせていただきましょうか。チェリーさんを、最も魅力的にするお下着を」
(チェリーさんは既にお下着をたくさんお持ちですから……中途半端なものでは意味がありません。私が贈るべきは、たった一つの、至高の一品です)
キウイは、まるで魔道具の素材を選定するかのような鋭い眼差しで、店内に並ぶ商品を吟味し始めた。
(あちらの……布面積が極端に少なく、紐だけで構成されたような下着も大変興味深いですが……)
キウイの視線が、一際大胆なデザインの棚に吸い寄せられる。
その構造的な美しさと、それを身につけた時の刺激たっぷりの見た目には、心惹かれるものがある。
だが、今日選ぶべきは「変わり種」ではなく、チェリーの魅力を正攻法で引き立てる「本命」だ。
(……一着きりとなると、ここは王道で攻めたいところです)
キウイは名残惜しそうに刺激的なデザインの下着から視線を外し、フリルやリボンが溢れる「王道」の棚へと向き直った。
(やはり、チェリーさんの愛らしさを最大限に引き出すためには、レースは外せません)
キウイが手に触れたのは、繊細な花の刺繍が施された総レースの一着だ。
肌を透かすような薄手のレースは、チェリーの透明感のある肌に載せれば、清楚さと色気を同時に演出するだろう。
(問題は……お色ですね。非常に悩ましい)
キウイは顎に手を当て、棚に並んだ色とりどりの下着を見ながら、脳内で愛しい婚約者の着せ替えを開始する。
(やはり、恥じらう頬の色と同じ、可愛らしい薄紅色……いえ、あえての爽やかな空色という選択肢も……)
どの下着もチェリーによく似合う。だが、これこそが「至高の一品」だと、ぴんとくる決定打に欠けていた。
ただ可愛いだけではない、ただ似合うだけでもない。
魅力溢れるチェリーに、さらに自分を惚れさせてくれるような、特別な色。
(ふむ……どのお色も、素晴らしいですが……何かが足りません)
その時、棚の奥に陳列されていた一着の下着が、キウイの目に飛び込んできた。
繊細なレースで編まれた、深く、鮮やかな緑。
それは紛れもなく、キウイの瞳と同じ色だった。
(あ……あぁ、これは……)
キウイは吸い寄せられるようにその下着を手に取った。
その色を見た瞬間、キウイの脳裏に閃きが走る。
以前贈った「耳飾り」は、他人に見せつけ、チェリーに寄ってくる魔の手を牽制するための、「独占の印」だった。
対して、この「下着」は――あえて誰にも見えない場所に秘める、自分だけがその存在を知る「所有の印」だ。
(……悪くありません。いえ、これ以上の正解はないでしょう)
キウイは口角を上げ、愛おしそうにその緑色の布地を撫でた。
「キウイさん、選んでみたのですが……あっ……」
タイミングよく戻ってきたチェリーが、キウイの手にあるものを見て声を漏らした。
そして、キウイもまた、チェリーの手にあるものを見て息をのむ。
恥ずかしそうに微笑むチェリーの手に握られていたのは――チェリーの瞳と同じ、鮮烈なワインレッドの下着だったのだ。
「ふふっ……私たち、考えることが一緒みたいですね」
「……ええ、本当に……愛おしい人です」
お互いに、「相手に自分の色を身につけてほしい」と願っていたのだ。
その通じ合った想いが嬉しくて、キウイはチェリーの手にある赤い下着へと視線を落とし、熱っぽく囁く。
「私の色を芯まで刻みつけてください、チェリーさん」
「……はい。キウイさんも、私の色に綺麗に染まってくださいね」
二人は顔を見合わせて、共犯者のように甘く微笑みあったのだった。
チェリーはちょろくてかわいいです。
そして、大真面目に下着を選ぶキウイ……かわいいですね。
みんな、かわいい!(語彙力
下着屋さん編、ようやく終わりました!
城下町デート編もあと1話です!
引き続きお楽しみください!




