今日も花瓶が外せません!
「ねっ? 花瓶様。卒業をしたら、あなたには私の義妹として一緒に王家を支えて欲しいの」
柔らかな綿菓子のような手が、ニコラの手を包みこんだ。
周囲の生徒たちが揃って、自分たちを怪訝な目でみているのは、学園でも有名な美少女のイリーナが怪しい女生徒の両手を請うように握りしめているからだろう。
イリーナは背まである銀色のストレートな髪とアメジストの瞳を持った周囲の目を惹くような美貌を持つ令嬢であるが、平凡なニコラもある意味で悪目立ちをしている。
ニコラの頭はすっぽり花瓶を被っている状態だからだ。
もしも、この場所が街中であったら、ニコラは憲兵に怪しい奴め! と連行されていただろう。
ニコラはそっと、イリーナの手を放した。
王家を支えるという点で、ニコラは女官にはなりたかったが、侯爵家の嫁なんてイリーナも知らない事情があり無理だ。
「イリーナ様。平民の私がイリーナ様のお兄さまと、なんて恐れ多いです」
イリーナはニコラの言葉に可愛らしい頬を膨らませる。彼女の兄と同じ顔をしているのに、イリーナが子供っぽい仕草をするのは、彼とは違い可愛く思える。
「私だけじゃなくて、お兄さまも貴方のことを気にいってますのに」
それは彼女の兄が面白いものや変わったものが、好きだからだとニコラは思う。
そもそも、ニコラだって、好きで花瓶を被っているわけではない。花瓶を被ることで、ようやく母から、貴族ばかりの学園へ入学することを許されたからだ。
*
ニコラは将来、王宮に勤める女官となり、両親が年老いても、自分が家族を支えてゆきたいと考えていた。
双子の弟たちもいるし、彼らが実家のパン屋以外の道に進みたいと思ったとき、やはり、お金が必要となる。女官になるのは険しい道ではあるが、その分、貰える給与は高い。
試験を受けるためには貴族ばかりの学園に通うことが条件となるので、ニコラは母に学園を受験したいことを告げた。
「母さん。私、都会にある学園に通いたいの」
「絶対、駄目」
「えっ、なんで?」
母なら自分の決めた道に反対はしないと思っていた。
「あそこは貴族しかいないだろ? あんたみたいな町娘が行ったら、いい見せ物だよ」
「でも」
「はいはい。この話は終わり。することがないなら、店番を変わっておくれ」
「……おにババア」
「生意気なことをいうのは、この口かい?」
「い、いたひ」
母は普段、ニコラが突飛な振る舞いをしても自由にさせてくれていたが、貴族たちも通う学園のに入学することだけは、決して許してはくれなかった。
貴族たちも内緒で買いにくるほど、ニコラの家のパン屋は美味しいことで有名だが、暮らしぶりは両親たちが必死に働かないと食べてはいけない。
学園の高い入学金が払えないから、母は入学を許してくれないのではと反対される理由を見つけたニコラは、自分に甘い父にお願いをして、特待生の枠を狙い、学園の試験を受ける手続きをした。
母に似ている顔で上目遣いのお願いをすれば、仕方ないなぁと父は最愛の母にも内緒にしてくれた。
普段、家の手伝いを自分に任せてばかりの弟たちも自分の本気が分かってか、珍しく、手伝いを代わってくれたので、ニコラは試験勉強に集中できた。
試験結果は無事、特待生として合格をし、ニコラはこの町で初めて学園へ入学する権利を得た。
しかし、母に告げれば、入学を辞退するように言われてしまう可能性もある。
「ニコラちゃん。どうしたんだい? 家の前に突っ立って」
「あっ、おばさん」
ニコラは母に反対されないよう、近所の噂話が大好きなおばさんに合格したことを話して噂を広げることを思いついた。
「私、憧れてた学園に合格することが出来たの」
「それはめでたいね!」
きっと、明日には町中に噂が広まっているだろう。
こうして、ニコラは母に合格が知られる前に外堀を埋めた。ここまで話が広がれば反対はしないだろうと、彼女の前でニコニコと笑うと母は苦笑をする。
「あんたには負けたわ。代わりにひとつ守って欲しいことがあるの」
「学園に通えるなら、私、なんでもする!」
「言ったね?」
ニコラの母は自分に花瓶を被せてくる。
花瓶は普段、食卓で花を飾っていたものだが、大きくはなかったはずなのに、ニコラの頭から外れそうにはない。
「えっ、えっ⁉︎ なにこれ⁇ 母さん、私、これから、どうやってご飯を食べればいいの」
魔法は貴族の血を受け継ぐ者しか使えない。
しかし、母が魔法を使えた事実より、ニコラは今後の飲食が気になった。
学園で学ぶことも楽しみだったが、紹介されているご飯も美味しそうだった。
分厚いお肉に、宝石のように彩られたケーキたち。
今後、それを食べれないなんてと嘆いたニコラに、ほら、と母が口元だと目をつけたあたりにパンを持っていくと、花瓶のなかの自分の口はパンをくわえている。
「……相変わらず、あんたは色気より食い気だね。それは魔法の花瓶で髪も清潔に保てるし、花瓶の近くに食べものを持っていけばご飯も食べられるよ」
外側から自分は見えないが、内側の自分からは相手のことも認識出来るようだ。
ニコラは花瓶を被ったまま、『鉢かづき姫』じゃあるまいし、とパンをむしゃくしゃと食べていたが、『鉢かづき姫』と頭に浮かんだ昔話と目の前の母をみて、顔を青くした。
幸い、花瓶を被らされたことで、母にはニコラの動揺が分からなかったようだ。
「あんたなら心配ないと思うけど。いい、ニコラ? 学園で穏やかな生活を過ごしたいなら、恋をしちゃいけないよ。花瓶の魔法が解けてしまうから」
「……う、うん。分かった」
ニコラが素直に頷いたことを母は訝しく思ったようだが、父に呼ばれて、もう一度、言い聞かせるようにいうとそのまま、行ってしまう。
どうして、今まで気づかなかったのか、不思議でしかたない。
自分が生きてきた日常は、ニコラが前世で読んでいた小説が終わったあとの世界だ。
前世、自分がどうやって亡くなったのかは覚えていないが、不思議と小説の内容は思い出せる。
母はニコラからしてみれば、パン作りで鍛えられた腕は逞しく、横幅が広いパワフルな人だ。
若いころは母の美貌から、近隣だけではなく、遠くの町からも男性たちがよく店に来ていたと、父から嫉妬まじりの惚気の話を、ニコラはよく聞いていた。
しかし、ニコラが知る母と父が語る母は繋がらず、父の目は母への愛ゆえ、おかしくなっているのだろうと聞き流していた。
前世の小説の内容を思い出せば、母の変わりように父の話を聞き流すべきではなかったと思う。
母は元々、伯爵家で可愛がられていた一人娘だ。
しかし、彼女の父が愛人の娘を連れてきたことで、母は普段は家に父が寄りつかないことをいいことに、愛人の娘をいじめ抜いた。
彼女の部屋は蜘蛛の巣が作られている屋根裏部屋だし、食事のスープも野菜の切れ端すら入っていない。
この母の義妹こそ、ニコラが前世で読んでいた小説の可憐で優しいヒロインだ。
母は周囲が甘やかすばかりの環境だったこともあり、ヒロインが自分の義妹だと認めず、使用人のような扱いをしていた。
学園に入学しても、ヒロインに対する母の対応は変わらず、使える取り巻きが増えたことで、より酷くなっていく。
母がこのような権力を使えたのも、侯爵家の嫡男が婚約者だったこともある。
彼らは未来の侯爵夫人に媚びを売っていた。
母の取り巻きによって学校の制服がずぶ濡れになってしまったヒロインと母の婚約者は知り合い、互いに想いあうことになったが、母はそのことを知って激怒した。
母は越えてはいけない一線を越えてしまい、ヒロインを階段から落とそうとしたところを、婚約者に見つかってしまう。
自分の娘たちに無関心だった伯爵家の当主は、さすがに自分の娘が行ってきた数々の悪事を見過ごすことが出来ず、婚約破棄をされた母は伯爵家からも追放となり、母の婚約者の侯爵令息といじめられたヒロインは結婚して幸せに暮らしたと物語は終わっていた。
あの自尊心が高かった母が、こうして平民として生きていられたのは、彼女の下僕として、心からの忠誠を誓っていた従僕、今はニコラの父と結婚したからだろう。
父は母に殴られても嬉しそうに笑っていられるのかが分からなく、弟たちと共に不気味がっていたが今なら、その理由もわかる。
学園には母の犯した事件を知るものや、侯爵家の令息や令嬢たちも通っている可能性が高いため、瓜二つの顔をしたニコラに花瓶を被せたに違いない。
楽しみだった学園生活が、前世を思い出したせいで憂鬱になってしまった。
*
周囲の生徒たちのざわめきは綺麗な人を見た反応ではなく、奇妙なものをみたときの反応だ。
「花瓶?」
「花瓶が歩いてる」
母がどのようなコネを使ったのかは分からないが、ニコラは花瓶を被ったまま、学園生活を送ることが許可されてしまった。
門の前に佇んでいた鮮やかな人たちが、ニコラをみて首を傾げる。
「どうして、逆さまの花瓶が歩いてるんだ?」
「花瓶じゃありません。新入生です」
「この花瓶。喋るのか」
面白そうに自分を見下ろしてくるのは、一緒にいた人物のお陰ですぐに分かった。
王家の人間は黒髪とピジョンブラッド、鮮明な紅色の瞳を持っている。ニコラより歳上だと考えれば、第一王子だろう。
そんな高貴な人物の傍にいられる人間となると限られる、ニコラに興味を持ったのは侯爵家の人間、母の元婚約者の嫡男だ。
挿絵でみた元婚約者より、彼はヒロインに似ている気がする。
耳まである銀色の髪と瞳はヒロインと違ってアメジストの色だが、もしもヒロインが男性だったら、こういう姿だっただろうと想像が出来る姿だ。
生徒会の腕章をつけていることで、彼らが自分たち、新入生を見に来たことが分かった。
「カーティス。新入生の子に絡むなよ」
「だって、花瓶が歩いてるんだぞ? 気にならない方がおかしいだろう? ほかの生徒たちも気になっているようだし」
カーティスが遠巻きにニコラたちを見ていた生徒たちを指差せば、彼らはそそくさと学園へと向かう。
花瓶を被っている女生徒よりも、彼らの美貌が気になってみていた生徒たちの方が多いと、ニコラは思う。
花瓶の強度が気になったのか、カーティスは手の甲で花瓶を軽く叩こうとするが、なにかに弾かれたのか、咄嗟に手を庇った。
「……防御魔法が働いているのか?」
まじまじと観察をされるが、ニコラにしてみれば、至近距離で顔を覗きこまれている状態だ。
ニコラにイケメン耐性はなく、いかに相手が変人だろうとも顔が紅く染まっていく。
カーティスから距離をとろうとする前に、彼は一緒にいた王子に首根っこを掴まれた。
「きみ、特待生の子だったよね? 私の友人が失礼な態度をとってしまってすまない」
「い、いえ、殿下。お気遣いなく」
ニコラが令嬢たちの見よう見真似なお辞儀をすると、彼は笑う。
「また、〈これ〉が迷惑をかけたなら言ってくれ。すぐに引き取りにくるから」
「は、はぁ」
これ以上、彼らと関わりあいにならないだろうと思っていたニコラは甘かった。
自分が被っている花瓶に興味を惹かれたカーティスは、ニコラが行く先々に現れる。
自分に追跡魔法でもかけられているのではないかと勘ぐったが、学園では生徒が魔法を使うことは、一切、禁じられている。
一度、花瓶に触れることができ、感電のような状態で、カーティスが医務室送りになったからなのか。ニコラをカーティスが見つけてるたび、追いかけてきた王子が先に彼を気絶させていた。
「あっ! 花瓶! 今日こそ、観察を……ぐっ」
「今日もごめんね〜」
ニコラを見るなり嬉しそうに駆け寄ってくるカーティスを王子が回収してくれるので、ニコラとしては助かっていたが平民であるニコラが王子や侯爵令息に媚びを売っているという噂になるのは、正直、困る。
今日もまた、廊下で自分に難癖をつけたい女生徒がニコラを待ち構えていた。
「あなたね! 平民のくせに、お兄さまに近寄る花瓶って……えっ、か、かび……」
花瓶と呟き終える前に女生徒は、箱入りのご令嬢なのか、ニコラの姿をみるなり、その場で失神してしまった。
「イリーナ様! しっかりしてください‼︎」
「あ、あんたが花瓶なんて被ってるから、イリーナ様が失神されてしまったじゃない‼︎」
「それよりも、イリーナ様を医務室に連れていった方が」
「そ、そうね」
「花瓶のくせに正論じゃない!」
しかし、か弱いご令嬢たちでは、ふたりがかりでもイリーナを運べない。
母から貴族のご令嬢はフォークより重たいものを持ったことがないと聞いてはいたが、本当のことかもしれないとニコラは思う。
「私が運びます」
ニコラは仕方なく、イリーナを横抱きにすると、女生徒たちを置いて医務室へと向かう。
そこでまた、カーティスと出会ってしまった。
「花瓶。どうしたんだ?」
「えっと、このご令嬢が私の姿をみて、驚いたみたいで」
カーティスは急に両腕をニコラの前で広げる。
まさか、自分の胸に飛び込んでこいということではないだろう。
「? どうしたんですか? カーティス様」
「重いだろ? あとは俺が運ぶ」
「そりゃあ綿菓子のように軽くはないですけど。高貴なご令嬢が知らない令息に運ばれるだなんて、嫌じゃないですか?」
「お前、知らなかったのか? お前が抱えてるのは俺の妹だ」
よくよく、ふたりを交互にみれば、彼らが兄妹だということが分かる。思ったより、カーティスと話していたためか、イリーナが軽く、呻いた。
「……っ、お兄さま‼︎」
「イリーナ。お前、花瓶をみて、倒れたそうだな」
愉快そうなカーティスに恥ずかしくなったのか『おろしてくださいませ』とイリーナは軽く、ニコラの胸元を叩いてくる。
イリーナはニコラを睨みつけると『お礼だけはいいますわ!』と感謝なのか分からない言葉を述べて、早足で立ち去ってしまった。
「妹が迷惑かけたな」
「正直、カーティス様の方が迷惑ですので。あの、今日は殿下と一緒じゃないんですか?」
「あいつも忙しいからな。花瓶も王子妃狙いなのか?」
「いえ。私は婚約者探しに学園に通っているわけではありませんから」
「それは良かった。内密だが、あいつの婚約者は決まっているんだ」
「わ、私に話していいんですか⁉︎」
自分が聞いてしまったことで、あとから口封じをされるのはごめんだ。
花瓶の外側からでもニコラの動揺が分かったのか、カーティスは安心させるように言う。
「数日内に発表になるから問題はない。それに花瓶は噂を吹聴しないだろう? いつも、ひとりでいるし」
「……カーティス様が私に構うせいで、友達が作れないんです」
「悪かったな」
カーティスは悪いとは思っていない口調だ。
こうして、彼と穏やかに話せていることを、ニコラは不思議に思う。
「カーティス様。今日は花瓶の観察はいいんですか?」
「ん? まぁな。妹の詫びに寮まで送っていってやる」
「ありがとうございます。ただ、花瓶には触らないでくださいね。カーティス様はイリーナ様と違って、私だけでは運べませんから」
「ああ」
*
「昨日は大変、失礼しましたわ」
翌日、イリーナが素直に謝罪してきたことに、ニコラは驚いた。
「お茶会での噂を間に受けて、お兄さまの婚約者を狙っている不届者がいると聞いて、一言、注意をしよう思っていましたの。最近、他国でも平民が王太子の婚約者を狙って起こした事件もありましたから」
確かに、カーティスの婚約者からしてみれば、自分のことを放っておき、他の女生徒を追いかけてると聞けば気分のいいものではないだろう。
今になって、その可能性に思いあたり、ニコラは申し訳ない気持ちで、イリーナに尋ねる。
「イリーナ様。カーティス様に婚約者は?」
「両親がお兄さまには恋愛結婚をして欲しいという希望もあり、いませんわ。お兄さまの見た目に騙されている、女生徒たちが互いに牽制しあっている状況ですわね」
「大変ですね」
学園に入ってから知ったが、一見、お淑やかにみえる令嬢も肉食系だ。チャンスがあれば、既成事実を作ることくらいはするだろう。
だから、声を掛けにくい王子と一緒にいるのかとニコラは考える。イリーナはそんな自分に小首を傾げた。
「花瓶さまは本当、お兄さまに興味がありませんのね」
「ニコラ、です。私は勉強がしたくて、学園に入学したので」
「ふぅん」
イリーナはなにかを思いついたような顔をすると、ニコラの手をとる。
「花瓶様。私たち、お友達になりましょう!」
「えっ⁉︎」
「お兄さまが仲良くしているのなら、私も仲良くしたいと思ったんです」
「で、でも」
もう物語は終わったとはいえ、ざまぁをされた悪役令嬢の娘とヒロインの子女が友達になっていいものかと思う。
「お兄さまとは仲良く出来て、私とはお友達になれませんの?」
膨れ面をしたイリーナの言葉にニコラは渋々、頷くと、彼女は周囲に花が舞うような笑みを見せた。
「花瓶様。私とは違い、あなたを妬んで危害を加える令嬢がいるかもしれません。どうか、周囲にはお気をつけてくださいませ」
*
――落ちる。
あんたがカーティス様たちに近づくのが悪いのよ! そんな怨恨が混じった声と共に階段を降りようとしていた背中をニコラは押されたが、後ろを振り返る余裕もなかった。
このまま階段から転がり落ちていけば、大怪我は免れない。
過去、ヒロインに対し、母が行なってきた悪事だからと娘だからと受けている気持ちになる。
かつて悪役令嬢だった母への悪口を心の中で吐き出しつつ、覚悟を決めて両目をぎゅっと閉じたニコラを、寸でのところで誰かが抱きとめた。
「危なかったな、花瓶」
「カ、カーティス様」
カーティスは階段の上を見ると、首を振った。
自分を階段から突き落とした相手は、すでに去っていたのだろう。
「すまなかった。イリーナにも花瓶のことに気をつけるようにと言われていたんだが、今日のお前が大怪我をしそうになったのは俺のせいだ」
「……カーティス様のせいじゃないです。それに、助けて貰ったお陰で、私は無事でしたから」
「お前が無事で良かった」
強がっていてもニコラが震えていたことが分かったのだろう。ニコラを安心させるように、カーティスがニコラを抱きしめる。
その瞬間。パリンとした音と共に頑丈だった、花瓶が割れてしまった。
花瓶が割れると、カーティスの驚いたような、アメジストの瞳と目があう。
恋をしちゃいけないよ。花瓶の魔法が解けてしまうから。
ニコラは母の言葉を思い出して、顔が真っ赤に染まっていく。
彼にうっかり、ときめいてしまっただけで、自分は恋なんてしていない筈だ。
「なんだ、本当に花瓶が頭じゃなかったんだな」
カーティスはニコラの顔を見て、残念そうに言う。
「だから、私は人間だって、何度も言っていたじゃないですか!」
「そうだったな。どうして、顔を隠してたんだ? 可愛い顔をしてるのに」
「……カーティス様のそういうところが、嫌なんです」
落ち着いてきたニコラは立ち上がると、医務室まで送るというカーティスの申し出を断る。
花瓶が割れてしまったことで、母になんて言われるかと考えただけで、ニコラは今から気が重い。
*
「どうして、今度は紙袋を被ってるんだ?」
心底、不思議そうにいうカーティスが紙袋を触ってこようとしたことに、ニコラは後ずさった。花瓶と違って、紙袋は些細なことで破れてしまう。
「カーティス様は花瓶に興味があったから、私に会いに来てたんじゃないんですか?」
「俺としては、お前に会いたい気持ちもあったんだが」
自分が彼を好きになったから、花瓶が割れただなんてニコラは認めたくはない。
カーティスは、ニコラが被っている紙袋に手をやると、簡単に引き裂いてしまう。
「やっぱり、素顔の方がいい」
彼に顔を見られていることに、ニコラはそっと瞳を背けた。
数多くある作品の中からお読み頂き、有難うございます。よろしければ、ブクマや評価を頂ければ、嬉しいです。