(10-11)モーリタ連合国(買物)
(10-11)モーリタ連合国(買物)
「ミーちゃん、パタパタ作って~」
「できないよー」
「え~なんで~」
2輪車は、蛇の皮がありませんのでこれ以上作れません。リアカー用ならなんとかなるのですが、2輪車用タイヤができないのですよ。分厚い蛇皮をくり抜いて扁平チューブレスタイヤにしています。動力伝達にも使いますので、良質の所ばかりを結構消費してしまいます。それで、いつの間にか使える部分がなくなっていました。あれま、他には何に使いましたっけ、覚えていませんね。海蛇の皮はどうかと言えば、パッキンには使えますが、ほぼ油。なんとゼラチンが作れたりします。車輪には使えません。という理由で、2輪車は作れません。欲しけりゃ大蛇を捕まえてきて下さいと言う事で。
ゴムでタイヤとチューブを作れれば良いのですけどね、もう暫く先でしょう。一応ソバーニさんにゴーム樹液を入荷するようお願いしてはあります。タイヤは試験的には制作済みではあるのですが、一輪丸ごと製造したわけではありませんので、耐久性?どうですかね。ということなので、残念諦めてねの辺境村村娘でございます。
1. ゴームの樹液
その樹液なんですがね、ソバーニさんによると、モラッコ共和国側からゴーム樹液の販売は停止すると通達されたそうなのですよ。板状ゴームと硬質ゴーム材を使った受注製品だけになるそうな。要するに、今の所それしか作れないと言う事なのでしょうけれどね。まあ、製造書を渡す時に『加工品を持ってきて貰うほうが良い』とは言いましたけど、製法を独り占めしろとは言ってはいませんね。ゴームの製法は生産国に渡ると思っていたんですけど、やっぱりだめだったかあ。
「ごめんなさい、モラッコ共和国で止めて専売化するとは考えませんでした」
「ミーちゃん的にはそうなんでしょうけどね、それで、どうしましょうか。板状ゴームも更に加工しないと使えませんよね、硬質ゴーム材も今のところ利用先がありませんので『発注なきは他の交易品も停止する』と言われるとどうにもなりません。他の商会も泣く泣く発注している有り様なんですよ」
『硬質ゴーム材』というのはエボナイトの事だと思いますけど、ペンの持ち手とかの樹脂製品に加工すればなんとかいけますけどね、それだけじゃなあ。
「また、強引に抱き合わせ販売して来ましたねぇ」
「そうなんですよねえ、あまり良い商法だとは思いませんが」
「あ、出荷元の国とか、モラッコ共和国に対する出荷量とか、商会個別ならその商会とかは調べられますか。あと、契約方法とか」
「はい、それはなんとかなりますよ。モラッコ共和国は、ほぼ全量を南にあるモーリタ連合国から仕入れているはずです。ゴームは連合国でしか取れないそうなんで。契約は普通であれば、出荷毎の個別契約でしょうね」
「直接買い付けに行っちゃいましょうか。できますかね」
「ウドンダにお任せいただければ、なんとかしますけど」
「それなら、ウドンダさんと一緒にお買い物でもしてきましょうかね」
「わかりました、何か手があるんですね。港街でお待ちしましょう」
やっぱり、今の世界で通話機は狡いですよね、その場で話し合いができちゃいますからね、争奪戦になるのもわかる気がしました。ただ今のところは簡易型のため、傍受されちゃいます。通話先と同じ水晶板を受信側に取り付ければ聞こえちゃいますものね、なんとかせねばとは思いますけど、思いつきません。
2. 先に買っちゃいましょう
「それで、どうしましょう」
「先に、購入量とか価格とか期日とかを決めておきます。内金を払って於けばよほどの事が無い限り、裏切ることもないでしょ」
目的としては、モラッコ共和国への嫌がらせみたいなものですから、損得なんて考えていませんけど、一応は一番高値で売れた時を基準にすれば、向こうも納得しやすかろうと思います。生産者としては、今は現物取引ですから、豊作なら安く買われ、不作ではそもそも売り物がなく、何れも収入減になってしまいます。予め先の買い取りも確約して於けば、不作であっても次年度の計画が立てられますので、生活が安定します。
「不作の時はどうしますか、こちらに損が発生しますよね」
「其の為の長期保管樽ですね、中身は5年やそこらでは品質が変わりません」
残念ですが、ドラム缶のような黒鉄缶を誰もが作る事はできませんので、木の樽に脱酸素の魔石栓を追加しました。気圧により樽が締まって乾燥し難くなる樽です。
「なるほど、これで市場に流す量を一定に保つ事ができると言う事ですか」
「そうです。市場価格が安定すれば、予想と対策もできるでしょ。モラッコ共和国の購入量と金額がいくらかは行ってみないと分かりませんけど、できるだけ先の分も契約してお買い物しましょう」
「支払いは如何にしましょう」
「紙切れ。証文を書いて証拠金以外は、契約書だけの取引になりますかね」
「ああ、取引日に支払うことになるんですね」
「そうですね、その証文をモラッコ共和国に買ってもらう事もできますし」
「それで行きましょう、ウドンダ頼んだぞ」
「承知しました」
3. 交易言語
こっちの4人とウドンダさん達商人代表が3人、それと2頭で観光がてらモーリタ連合国へ行くことになりました。商人さん達は空を飛ぶ船に興味津々だったんだけど、とりあえず同じものを作った場合の金額を聞いたら青くなっていました。魔導国とお話して廉価版を考えた方が良いかな。空は飛べないけどね。
言葉はどうすんべと思ったら、交易のための共通言語があるらしい、あら便利。商人の間だけで使われていて、通常会話と商用語しかないそうなので、公用語にはならないそうだ。口伝なので教科書もないそうで、行く途中で教えてもらいつつ教科書を作ってみた。喜ばれた。
「そう言われてみればそうですな、教科書にしておけば新人に渡すだけで済みますからね、いままでの口伝だけってのが変ですよね」
「まあ、商学院とかないし、親方とかから教わるのが普通だったらしいから誰も気が付かなかったのかも知れませんけどね」
「『商学院』ですか。それはなんでしょう」
「いや、ほら薬学院とか貴族院とかありますでしょ。基本を教えてくれる学び舎」
「ありますね、そうか商人のための基礎知識を予め教えておけば、親方等の負担も減ると言うものですね」
「そう、そういうのは短期間で良いので、専門学院がないのが不思議なんですけどね、皆秘密主義で困りますね」
「いや、これは耳が痛い。確かにそうですね」
「教師役の人がいればですけどね」
「それはそうですよね、引退した商会長とかなら大丈夫ではないですかね」
「後は商会毎のやり方とか、その方法に秘密とかがありすぎると共通化できませんけどね」
「なるほど、でも一考の価値はありそうですよ、商学院」
3. カッフェもここなの
地球みたいに旅券もなければ査証もないので、ゼルガニア銀貨と交換で現地通貨に両替して、入国時にお金を払えば入れます。ついでに袖の下に山吹色のお菓子を差し入れると、優遇されてしまいます。2頭の黙認ぎみな登録料金も。はっはっは。
「こちらの商業組合と、作物を纏める農業長さん達との会合は、一週間後になりました」
「農業長?あ、そういう方式なんだ」
「そうですね、豪農が農園を持っていたり、農家が一まとまりになって集団を作っていたりとかですね」
「なるほど、それまで観光でもして待ちますかね」
「分かりました。我々は商業組合で色々見聞きしてきましょう」
「はい、お願いします」
商売の素人が何をしても始まらないので、観光する事になりました。婆ちゃんは薬剤関係を、私等は魔道具とか魔法関係なんかを中心に。
「同じ大陸なのにさ、あれないね。サッフラーン」
「そういえば、薬草屋に無かったね」
「そうさね、途中に障害があるのかも知れないさね」
「あ、そうなのかな。地図とか売っていないかね」
「雑貨商とかですかね、商業とか冒険者の組合の方が良いかな」
「うん、とりあえず地図を探そう。上から行くときも役に立つし」
途中でカッフェ屋がありましたので、一息入れる事になりました。目新しいお菓子とかあるかな。
「なにこれ」
「この粒粒はなんですかね、小麦でできているような気がしますけど」
「でも面白いし、美味しいよ」
「嬢ちゃん達は、『クスクス』ってのを知らないのか」
「うん、海を渡ってちょっと遠くから来たもので」
// ------------(注)--------------
普通に話ている感じを受けるでしょうが、実際は次のようになります
「はい・渡る・海・来た・少し遠い・場所」
主音声はこのように話しております。お聞き辛いと思わますので、通常会話風に副音声化しました。
// ------------(終)--------------
「ああ、そういや隣国で中海の定期便ができたって聞いたな。そうか、その格好からすると良い所の子って事か。婆さんは、御目付かい」
「うん、そんな感じかな。目利きが良いですね」
『クスクス』ってのが地球と同じなら、小麦の粒だよね多分。でもあれご飯じゃなかったっけか、眼の前に出てきたのはお菓子なんですけど。
「これはな、『クスクス』を蒸して砂糖で甘くして、桂皮の精油と粉砂糖をかけた菓子だな」
仄かにニッキって言うか、シナモンの香りがするんですけど。
「婆ちゃん『桂皮』って、なんだっけ」
「『芳香性健胃薬』さね、熱だの咳だのを抑える薬にも入っているさね」
「おっ、御目付さんすげえな。その通りだ」
「それをお菓子にしたのか、考えるもんだねえ」
「これとカッフェがうちの売りでな、ゆっくりして行ってくれ」
「海向こうよりカッフェがお安いですよね」
「そりゃ産地だからだろ。海を渡れば高くもなるって事よ」
「産地、カッフェもこの国なの」
「そうだぞ。まだ広がってはいないらしいけどな」
「そうなんだ」
ついでに買っちゃおうかね。
4. 魔獣がいた
この街ってば、書店があるんですよ、書店。なんとまあ、すごいですね。印刷技術なんてないんですよ、こっちにも。と言う事は、複製するには大人数で一気に写本するしかないわけで、高価になるんですよ。それなのに書店て、商売になるんかね。
「こんにちは」
「おや、珍しい。どこから来なすった」
「海の向こうですけどね」
「なるほど、それでその格好かね。何をお望みかね」
「えーと、図鑑とか、地図とかかな」
「ほうほう、珍しい生き物がいれば良いのだけどね。地図はこっちだね」
「ああ、砂の大地から此方側が載っているんですね」
「そうだね、大地向こうならあっちで買ったほうが良かろ」
「そうですけどね、あっちの地図はこれほど詳しくないかな」
戦略物資ですからね、あまり細かい地図って無いんです。後すげえ適当。
「これはね、昔に滅ぼされた国で作られていた地図だね、軍務用だから細かいってだけさ。それを写したものだね」
「そういう事か、でも今と比べたら国境が違うんじゃないの」
「大丈夫、それも書き加えた新作だから」
「あ、そうなんですね。じゃあこっちの『生き物図鑑』と2つ下さい」
「50金だけど、いいのかい」
「はい、これね」
「毎度あり」
生き物って言うからただの動物図鑑だと思ったんですけど『魔獣図鑑』でした。
「あれ、全部魔獣っぽいですけど、普通の動物のはないの」
「いや、全部が魔獣ってわけじゃないしな、確認されているのは、今はそれで全部らしいぞ。それとあまり小さいのは載っていないな」
「なるほど」
魔獣扱いなのは、身体強化魔法を使っていたり、水球だのを飛ばしてきたりする動物で、それ以外が一般動物と言う事らしい。当たってはいるけどアバウトだね。
宿に戻って図鑑を眺めていると、象です。象さんがいるようです。それもマンモスなんて言う可愛い生き物じゃ無さそう。棲息域が砂の大地ってサバンナっぽいのかね、だからでしょうか、マンモスみたいなフッサフサじゃなくて、体毛が無いに等しく短いです。鼻も短いな。牙はね鼻の倍位で、3[㍍]位の円錐状なのが一対。ランスっていうんだっけ、あんな感じです。口内にも牙があるようで、それが上下に生えています。肉食用の牙ですかね。人物図と比べると体高が8[㍍]、体長は12[㍍]ほど。結構でかいです。地面に絵を書いてロウタと比べたら、不敵に笑ってくれました。出会ったらやる気だね此奴。
5. 先物買い
先物取引をする知識なんて無いに等しいです。あまり本格的に進めるとボロが出ますので、適当に都合よく纏まれば良いかなって思っているのですが、どうでしょう。とりあえずは、取れ高に関わらず定収入であることを主眼として説明してみました。ウドンダさんが。
「と言うことでですね、農作物の取れ高が一定ではなくて、上下するなら有効だと思いますが、如何でしょう」
「そうですな、豊作時は買い叩かれますし、不作時はそもそも売るものがありませんからな。作物は生きておりますので一定量とは行きません、そちらがおっしゃるように定額でお求め頂けるなら、それに越したことはないでしょう」
「不作時は、契約量に届かない訳ですが、それではそちらが不利になりませんか」
「それは、ご心配には及びません。詳細はお伝えできませんが、ちゃんと手立てはございますので、大丈夫です」
「その手立てと言うのをお見せいただくと言う事はできますか」
ウドンダさんがこちらを見てきました。うーん、技術公開して作れるかな。
「えーと、手立ての中の一つとしてなら、こちらの試作樽を見て頂けますか」
「普通の樽に見えますが」
「栓の内側にですね、魔石が嵌っているのが分かりますか」
樽の栓には貫通孔が開いていましてね、中には魔石が入っていて、脱酸素機能が付いています。ただ、酸素の存在はこちらの人達も知りませんので、直ぐには説明はできないのですけど。
「なるほど、品質を落としてしまう気体が空気に混じっていると言う事ですか」
「そう考えればと言う事ですね、思い当たる事がありませんか」
「ありますな、空気が抜けると中身が長持ちするのは経験がございますぞ。そうか、それを樽に応用した訳か、これは気が付かなかった。時に栓を譲って頂くとかは…」
「栓の作り方、考え方をお教えした方が良いと思いますけど。魔獣がいるらしいですから、生物魔石はお持ちでしょ」
「宜しいのですか、如何程になりますか」
「いえ、契約をお考え頂ければ、その一環としてお伝えできますけど」
・
・ 商業組合さんと、農園主さん達が話し合い。
・
「ふむ、商業組合は『先物契約』に賛同致します」
「そういう事なら、我が農園も契約しましょう。ほぼ全量をお買い求め頂けるのですよね、それなら是非もありません」
と言う事で、第一回目のお買い物は向こう5年間、毎年魔導金貨換算で2万枚と言う事になりました。カッフェとゴーム樹液をお買い上げ。
6. 輸送
「ミーちゃん、輸送はどうしますか。モラッコ共和国を通過すると通過税を掛けられますけど」
「通過税を掛けるじゃないですか、その税額分は普通、商品に被せて販売価格にしませんか、そうすると今度は自分たちが購入する金額が上がりますでしょ、好事物とは言え物が高騰したら、共和国の人達どうすると思います」
「あっ…そうですよね、対外分のほぼ全量を契約してしまいましたものね」
「あの船がありますからね、脚を止められても最後の一手にはなります」
「それもそうですな」
「後は、私どもの大陸で売れるかなんですが、予想は立ちますか」
「ゴームについては、ソバーニ伯爵が既に工房を抑えているはずです。カッフェはこれからですけど、飲料としてなら帝国まで販路を広げられますよ。帝国はハンジョさんの所になりますけど、こちらも結構飲まれているみたいですから」
「なるほど、売り先は既にあるんですね、何も心配はないと」
「今のところは全く無いですね、全量をさばけます。捌けなかった場合はですね」
ジャジャーンとばかりにゼルガニアの金塊をドドンと積み上げて見せてみました。こういうのは現物が背景にあると妙に安心するのです。
「保険はありますので、安心して下さい」
「これは…すごいですね」
「『どこから、どうやって』ってのは、内緒ですけど。この先魔導国で輸送船を持てれば、さらに安く輸送ができますよね」
「そうですな、いやこれはかなり壮大な事になりましたな」
「うちもですよ、単にお買い物のつもりで来てしまいました。お恥ずかしい」
「いえいえ、まだこれからですので、宜しくお願いしますね。そうだ、期日前に他へ売り渡して、こちらには不作申告したりするかもしれませんでしょ、そういう対策も考えておいて下さいませんか」
「「「お任せ下さい」」」
まぁ、良い笑顔でございますこと。




