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(10-09)ゼルガニア帝国(漁港)

(10-09)ゼルガニア帝国(漁港)


 ゼルガニアから態々やって来て侵略に失敗し、挙げ句に賠償金を取られ散々な目に会っているゼルガニア帝国ですが、大騒ぎしているのは中央部だけで、田舎は実に平和でございます。初めての漁港ですからね、魚とにかく魚。元々は魚の国の出ですから、魚は大事でございます。さぁ、買うぞー買いまくるぞーの辺境村村娘です。おはようございます。


1. よっしゃ買いまく…れない


「魚ーッ」


 買い取り人の朝は早い。そろそろ漁から戻って来るだろうと思わしき時間に来てみると、もう終わっていた。


「なんで」

「そりゃ、嬢ちゃん。ここらじゃ村内で食べる分しか獲らんしな。あとは干物を作る程度だからな、まれに一夜干しして、隣にある村に届ける位だな」

「あ…生け簀なんてないわな」


 それでもわずかに残っていた桶や盥を覗くと、平べったいのやら、赤いのやら、青いのやらがギリ泳いでいたんで取り敢えず全部買ってみました。


「これは買えますか」

「おぅ、そろそろ仕舞いだからな、買ってくれるなら5銅でどうだ」

「全部でおいくらでしょう」

「全部?こっちはいいが、駄目になっちまうぞ。締めるならそこの処理場でできるけどな」

「大丈夫ですよ、少し下ごしらえもしますから。処理場は有料ですか」

「よし、なら全部で50銅だな。いや、誰でも無料で使えるぞ」

「はいこれ、でね沢山買うとしたらどうしたら良いですかね」

「沢山?大丈夫か」

「食べられる魚なら、大丈夫です。ついでにこういうのは取れますか」


 手を影絵のカニのようにしてみたら、分かってくれたようだ。


「おお、蟹ならいるぞ。あと海老もいるな、これっくらいのが」


 両手で示してくれた海老の大きさは、伊勢海老の倍くらい。


「そんなの獲れます?」

「任せろや、大丈夫だ。明日の今頃また来てくれや、周りの奴らにも声かけておくけど良いか?それと、貝なんかはどうだ、焼いたりすると美味えぞ」

「先にお支払いしておきましょうか、大体の見積もりで獲ってきて下さい」


 じゃらっと銀貨を渡してみました。


「こいつは豪勢だな。おーい皆ちょっと来てくれ」


 集まった人に状況を話して、およその見積もりを言って、お願いしておきました。


2. とりあえず保存のため


「こんにちはー。処理場の主任さんとか居られますか」

「はーい、あらお嬢ちゃんどうしたの」

「あの、この魚をここで処理したいんですけど」

「お嬢ちゃんが?大丈夫」

「大丈夫ですよ」


 やっぱり訝しがられるよなぁー、子供だもんよ。とりあえず鯖っぽいのを三枚に下ろして見ました。魚の内臓は駄目なんですけどね。


「あら、上手じゃない。内臓はどうするの」

「そうだ、魚の内臓を処理できる人っていますか」

「うーん、この辺りの人なら大抵できるわよ。今日は終わりだから教えようか」

「えっ、できたらお願いします」


 婆ちゃん達ですか、『居ても役にたたん』と言う理由で近くの薬草市場へ行っています。そっちで合流予定。


「あ、それはたん臓と言ってね、駄目なのよ。それは精巣、そっちは卵巣、卵ね。大物の肝は生食もできるけど、内臓は虫がいるから気をつけてね」

「ああ『腹破り』でしたっけ、あれ以外にもいますか」

「あら、見たことがあるの。うーん、あれ以外は見たことがないな」

「そうですか、一応今ある魚にはいませんけど」

「判るの?どうやって」

「えっ、魔力の揺らぎが見えるなら分かりますよ」

「うそっ、初耳だわ。ちょっと待ってて、漁労長が結構な魔力持ちだから」

「はーい」


 手元の魚を全部下ろして、塩を振って万能草で締めて置きます。平たいカレイみたいなのは誰もいないのを良いことにそのまま鞄へぽい。丸の唐揚げとか、煮付け用に。


「おい、嬢ちゃん。『腹破り』が判るってのは本当か」

「はい、その魚にいますよね…なんでか知りませんが、団体で」


 うへぇ、気持ち悪い。なんて魚だろう、よく生きていられるな。


「ああ、よくいる魚なんだけどな、食えねえんだ。本当に判るのか。そりゃぁすぐにできるようになるのか」

「うーんと、漁労長さん?位に魔力が多い人ならすぐにできますよ」


 それから、少し魔力の動かし方を教えてみました。そうすると、意識さえすれば見えるようになるんですよ。要は魔力視だし。


「おぉ、こりゃおもしれえ。本当に判るようになるんだな」

「あ、私もわかるようになった」

「でしょ、魔力量によるんですけどね」

「魔力量か、訓練すりゃぁ良いんだよな」

「そうですね。移動訓練をすればそれなりに向上しますから」

「それならなんとかなるな。分かった、それができれば生でも行けるようになるかな。名物にできれば活気も出るよな」

「完全な生じゃなくても、これみたいに万能草締めとかすれば近い状態で食べられますけどね」

「薬草の『万能草』か?」

「そうですよ、虫が小さいうちは、万能草の魔力に負けて、死んでしまうんです」

「なるほどな。こりゃぁ良いことを聞いた。ところで嬢ちゃんは泊まりか」

「はい、4人でこの先にある『海鮮の宿』を取りました」

「よし、こっちにいる間はただにするよう言っておくわ。なんて名前だ」

「ミールで取りました。ありがたいですけど、良いんでしょうか」

「なに、俺ん家だ」

「なるほど」


3. 薬草市場


 まさか、薬草だけの市場があるとは思いませんでした。だってさ、薔薇畑のような良い香りってなら分かりますよ、薬草だからね、香辛料とかになる物だと匂いがね、特にこっちの世界の人は強い匂いだと敬遠しがちだし。この辺だと違うのかな。


「なんか面白いのあったー」

「私の知っているものばかりさね」

「そら、婆ちゃんの知識を上回るって言ったら、相当な代物じゃないとなー」

「温室のすらありますもんね」

「だよねー。そうだ、なんかね漁労長って人がね、宿代タダにしてくれるって」

「なぜさね」

「『腹破り』の判別方法を教えたらね、タダにしてくれた」

「そりゃ、良かったさね」


 香辛料と薬草は紙一重ですからね、紙よりもっと薄っぺらいかも知れない。鬱金だって、健肝薬なのが、ターメリックとか呼ばれてカレー粉に入っていたりするでしょ。なんて事を思いながら市場をうろうろしていたら、赤いのが目に入りました。


「あ、おじさん。この赤い針みたいなのは何」

「そりゃ、サッフラーンだな。冷え性に効くらしいな」

「アッセさん、プリンに入っているのは香り的にこれかね」

「そのはずですよ。はい、この香りですね。ただ帝国だと手に入れづらいですけどね、これだけ沢山あるのを見るのは、初めてです」

「えっ、プリンに入れるの?本当だプリンの香りだ。買う!買うよね」

「そうだと思った。買え買えぇ、全部買え」

「豪勢だねぇ、50銀だぞ。大丈夫か」

「大丈夫。はい、これ~」

「そういや、最近作っていなかったよね」

「そうだね。これで完成形になるかな」

「そうですね。あとは、煮詰め砂糖(カラメル)の上に何かを乗せるとかできますけど」

「アッセさんを、プリン料理長に任命します」

「承りました。「あははは」」


 サッフラーンは、どこから入ってくるのか聞いてみた所、この国よりさらに東、都市国家が寄り集まった所があって、その先は砂だらけの土地で、南の大陸と陸続きになっているそうだ。コの字型に地面が繋がっているって事ですよね。その大陸に入って最初の国で栽培されていると言っていました。


「海から行った方が早くないですか」

「ああ、その通りなんだがな。知っているか、海魔がいるんだぞ」

「あ、こっちにもいるのか。八脚とか十脚とか、大蛇みたいなのは見ましたよ」

「見たことがあるのか、つうか、それでおまえさん良く生きているな」

「運が良かったんですかね」

「そりゃぁ、そうだ。逃げられただけでも幸運ってもんだ」


 いや、全部始末しただけですけどね。


4. 海鮮の宿


 お泊りは、漁労長さんの宿。まずは、お夕飯。


「お世話になりまーす」

「おう、さっきはありがとうよ。早速作ってみたぜ食べてみてくれ」

「「「「では、いただきます」」」」

「あれ、これ万能草以外になにか使っているな。海藻?」

「本当だ。隠れていますけど、海藻の味ですよね」

「ああ、海にある草の味だ。内海のより濃い味だよね」

「これはまた、奥深い味になるものさね。これは良いね」

「おっ!分かったか。『海中緑草(【昆布】)』って名前でな、海の雑草なんだが干すといい味出してくれるんだよ」

「なるほど、これも買えますか」

「おう、村の中だけじゃ消費しきれなくてな、買って行ってくれるか」

「もちろん、山住まいだと手に入りませんからね。あるなら買いますよ」

「助かるぜ」


 それとこっちにも魚醤があるみたい。さらにはなんと。


「あ、アッセさん。そんなに食べたら」

「むーーーーーーーーッ、はッはッは」


 じたんだ、ばたんだ、あっはっはっは。


「辛いでしょ。はい、牛の乳」

「はッはッはッ、ぶっはーッ。辛かったー。まさか辛いとは思わなかった」

「あはははは、ミーちゃんもやったよね。森の湧水川で」

「あれね、あんな所で群生しているとは思わなかったんだもん」


 そうです、山葵です。ただし、見た目は小さい大根で、おろすと白いんです。少しねとついた大根おろしみたいな感じになりますのでね、騙されたー。


「辛味根は、魚の匂いとかを抑えてくれるから重宝するんだけどな。いきなり全部を口にするとは思わなかったぞ」

「ああ、辛味根って言うのか、この辺りの呼び名ですか」

「そうだな、この近所だけじゃないかな『辛味根』って言っているのは。出回っているのも近所だけだしな。山住まいで、森の湧水っていうと、おまえさんが知っているのと同じかな」

「たぶん、そうだと思います。名前がないので不便でしたけどね、『辛味根』って名前があるなら登録してあるんですか」

「おお、この国の商業組合には登録してあるぞ」

「早い所共通化して欲しいんだけどなー」

「そうだよな、商業組合同士で統一して欲しいよな」

「ねー」


5. 水揚げ


 昨日は空振りしてしまったので、お願いしておいた魚を買いに来ました。なんと漁港には、いつもは当番ではない人まで出漁し、船が沢山行列中。貝だの蟹やら海老を取るために海女さんとなった村の女衆も行列中。ついでに打ち上げられた昆布を拾いに行っていた子供達も行列中。村中みんなこぞって獲りに行って来てくれたらしいです。何故か海中紅草(【天草】)なんてのも混じっていて、周りから『そりゃだめだ』と言われて泣きそうになっている子もいたりして、大丈夫沢山あればちゃんと使えますので、泣くな少年。ついでに追加で取ってきてもらいました。


「うひゃぁー、どうやって捌くべ。えーと、えーと、アッセさん水球作れる」

「できますよ、ひとまず全部洗っちゃいましょうか」

「蟹とか海老はこっちへお願いしますねー、軽く茹でます」


 ウォータースライダーみたいな熱水の流れを作ってドバドバ投入してもらいました。お支払いがまだの人はエッちゃん宜しく。


「なんかさ、このお湯に出汁が出ているような気がするんだけど」

「そうですよね、こぼしたら勿体なさそうですよね」


 熱水に通して冷水で締めて、凍結させたらどんどこ鞄に入れて行きます。どれくらいの量になったかですか?知らんがな。魚は、血抜きをして締めたら、凍結してそのまま鞄へ。態々凍結する必要はなかろうですか、そうなんですけどね、不思議がられても困りますからね。


「ひゃっほーい、当分は無くならないよねー」

「嬢ちゃん達、兄ちゃんもすげぇな。あっという間に片付いちまった」

「ありがとう、お陰で当分お魚楽しめますよ」

「おい、嬢ちゃん。その凍結ってのは、どのくらい低いんだ」

「あ、これ。うーんと、えーと。そうだっ」


 板と釘を用意します。鯖みたいな魚(名無さん)を取り出して、例の奴。ガンガンと鯖で釘を打って見せました。だいたい-70度以下のはずです。液体窒素だともっと低いのかな。


「なんと、魚で釘が打てるのか」

「ここまで凍らせると虫も死んでしまうんですよね」


 それを見ていたあの漁労長さんが『うん、うん』と唸っていますが、何でしょう。


「おりゃぁー」


 気合一閃。鯖もどきが凍結。ほんでもって、ガンガン。


「おーっ、こりゃすげえ、本当に釘が打てるぞ。これまたおもしれえな、おい」

「漁労長やるな」


 良くまぁ、見ただけで真似ることが出来るもんだ。


「ところでよ、嬢ちゃん。それ解けるのか」

「ああ、解かす時はね、海水を使うか、同じくらいの塩水に浸けておけば解けますよ。お水だとそれこそ水っぽくなっちゃいますけど」

「そういう事か。拡張鞄を使えば隣村どころか帝都まで運べそうだな」

「試してみないと分かりませんけどね」

「そうだな、その辺は試してみるわ」


 なんか新たな販路が開拓できそうで、何よりですね。


6. バター醤油


 買い取りをしていたら、お昼近くになってしまいましたので、適当にバーベキュウ用の竈を作って貝を焼いて見ました。


「お、いい香りしますよね、やっぱり海の物は良いですよね」

「アッセさんも好きだよね~」

「そうですよ、あっちじゃ食べられませんからね」

「そうか、汽水しかないもんね。汽水域遠いしね」

「そうなんですよ、残念です」


 焼けてきた所で、バターを載せて、豆醤油を垂らして仕上げ。


「これよ、これ。いい香り」

「おっ、その醤油は何だ。『豆』?豆でも醤油ができるのか」


 魚醤を作れるならなんとかなるでしょって事で、豆醤油の作り方も伝授。結局そのまま夜まで海産物の焼き祭りとなりました。ということで、次の日も村を上げての水揚げ大会。お陰様で大分充足致しました。


「エッちゃーん、銀貨どうなったー」

「えーとね、残りは4万9000枚」

「なくならないねー」

「あっはっは。そりゃそうさね」


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