(10-07)深森の廃村(挟撃戦)
(10-07)深森の廃村(挟撃戦)
カッフェさんことマラウィさんの意見具申で、こっちの大陸への臨時調査隊が来まして、その人から向こう隣のゼルガニア帝国が、性懲りもなくお隣のブルボニアを侵略しようとしているらしいと言う話を聞いて『こんなこともあろうかと』を準備している所の、辺境村村娘です。はた迷惑な。
1. 来るかな
「ゼルガニアねぇ、こっちに来るかなー」
「わからないよ~、後ろから叩かれたくないって考えたら来るんじゃない」
「だってさぁ、その分ご飯がいるじゃん。もったいない」
「例えばですね、新兵器とかあって試しておきたいとかだったら来ませんか」
「新兵器かぁー、この前の王国みたいに、魔法戦とかあるかな」
「それならありそうさね、新しい詠唱文とか文言とか、試したければ、ここなら人もおらんし、自分たちは安全と考えるさね」
「そりゃねぇ、4人しか居ないしね、躊躇する鍵だった姫様もいないしね、来ようと思えば来られるのか」
「それで、どうするの」
「村の入口に丘を作って良い?」
「丘ですか、絶好の観測地になりませんか」
「うん、だから。そこに本陣を置きたくなるような立派な丘」
「あ、そうか。本陣を築いてくれれば、そこを狙えばいいのか」
「簡単でしょ」
「はっはっは。ここに来る指揮官は可愛そうさね」
「知らんです」
どうやって丘を作るかというとですね、まず穴を掘ります。ため池になれる位の大きな穴。そこを固めた土で蓋をして塞ぎます。蓋は、少々の事では崩れませんが、支えを取ればあっという間に落とし穴。残った土を蓋の上に盛り上げておしまい。一月もたたずに草原となる事でしょう。畑脇を流れる用水路は、一度地下のため池に流れ込んで、排水口から先はご自由に流れ出て下さいの適当工事。たぶん今と同じで2の村に向かって流れると思います。もしかするとそれも障害になる予定。
「後はどうするの」
「ここに本陣を置いてくれるのが一番楽なんだけどね」
「村の畑から家まで一望できますから、置くんじゃないですかね。距離も戦術魔法が届かない500[㍍]ありますから、ちょうど良い距離ですよね」
「よし、迫撃砲の練習でもしておくか」
火魔石による着発信管を取り付けた砲弾をポポーンと飛ばす迫撃砲。飛距離はおよそ800[㍍]位。それを500に設定します。打ち方はですね、3発ずつ飛ばします。最初の2発は、敵前に同時着発。それで後ろに逃げると、そこへ3発目が落下して一網打尽の榴弾砲弾。中身は温泉山の黒曜石。
「こんなもんかね?」
「軍隊なら毎日繰り返すんでしょうけどね、万が一の策ですしね」
「こればっかりって言うのも、戦争みたいでいやだよね~」
「そうだよね」
後はですね、傾斜を付けた魔力盾。それを斜めの魔力盾で補強して貰います。避弾経始って奴ですね、あっちに大砲なんかがあればですけど。玉が飛んできてバイーンと跳ね返ってくれると楽ですけどね。爆発しても大丈夫でしょう。
「よし訓練終わりっと。戦団が来たときの魔力盾はこっちのにしてね」
「「了解」」
2. 新街道の様子
久しぶりに新街道脇に捨て置いた、大聖堂を見に来ました。なにせ住人がいませんでしょ、たまには見に来ないと外壁が蔦と草だらけになってしまうんですよ。見るとね、あれま人だかり。というかですね、村になりかけていました。どうやら隣国とかその向こうから移動してきた人達がここで力つきたのか、大聖堂が建っているんだから、ここは我らの土地だと勘違いしているのか、その先へ進む事なく生活を初めているようでした。
大聖堂はともかく、周りの街区には入れますので、たぶんそのせいなんでしょうけど、ちょうど私と同じくらいの年格好の子達がおりましたので、こっそり混じり込んで見ました。薄汚れるのを忘れずに。
「あの、アタシ王国の外れから来たんですけど、王国語分かりますか」
「はい、アーシ、ゼルガニア来た。王国語少しわかる、あります」
「王国語お上手ですね、分かります大丈夫です。それで、なぜ皆さんここに集まっているのでしょう」
「大司教、ゼルガニア来た。ここ教国作る言った。です」
「なるほど、偉い人がいるんですね、どなたか知っていますか」
「はい、あそこ、お説、言っている、大司教」
「なるほど、分かりました」
「はい、分かりましたか。あります」
「ありがとう」
大司教ですか、また勝手に国にしようとしているんですかね、まさか闇の子満載の隷呪環でとか言わないよね。しばらく、女の子(だよ!)同士でキャイキャイ話して判ったのは、ゼルガニアでもお触れが出ていたそうで、大司教さん共々追い出されたらしかったです。だから、傷病を治す人を追い出しちゃ駄目でしょうが。
それと王国語とゼルガニア帝国語は、割と似ていましたので、流暢とは行きませんけど、それなりに話せるようになっていました。うむ、今更ながら修得能力がバグっとらんかね。おかしくないですかね、まぁ良いか。さて、ちょっと大司教さんとやらを確認してきましょう。途中で、見慣れた人が。
「あれ、神父さんだ。なんか目に力がないな」
よく見ると腕輪をしていました。そうです、あの腕輪です。隣にはジュダさんが。やっぱり腕輪を嵌められていて、なんかちっさいのを抱き抱えているんですけど。一個増えとるがな。流石に小さい子には嵌っていませんね。しょうがない、外すか。
「えいっ」
転呪されてはいませんでしたので、環を取るだけ。暫くすると正気に戻ったようで、目の光が戻ってきました。
「おや、君はどなたかな」
久しぶりで分かりませんか。
「ミールですよ。神父様」
「ミール君?大きくなったね」
「まぁ、ほぼ5年ぶりくらいですからね」
「そうか、もうそんなに経つのか、元気そうでなにより」
それで、はずした腕輪を見せながら、なんの環か説明してみました。
「なんと、私はそんな魔法を掛けられていたのか。所でここはどこだろうか」
「ありゃ、そこまで認識不良になるんですか、この腕輪」
「そうだね、そうらしい」
ということで、場所の説明、簡単な経緯を説明しました。ついでにやっぱり閉じ込められていましたよ闇の精霊。
「そうか、そういう事か。いや王国から退去命令が来て、村から出た事は思い出せたのだが、あの方に会ってから今までがさっぱりだね」
「ミールちゃん、私達はどうしたら良いかしら。ここは教国ではないのでしょ」
「そうですね、ただの管理放棄地ですから、こんな所に集まっていたら、両方の国から討伐隊を出されますね。今ならまだ旧教国に行くと言えば、帝国も魔導国も通過できるはずですけど」
「そうか、いやでも食料とか着るものとか、足りないものばかりだな」
「真教国まで行くなら衣食は援助できますけど。それと、お二人だけならともかく、全員の住は無理かな」
「衣食と言うと」
「今は閉まっている教会付属の倉庫位なら、開ける事ができますよ、たぶん。あの大きい建物は無理でしょうけど」
「なるほど、巧く行けば拡張鞄も見つかるかもしれないね、頼めるかい」
「わかりました、では行きましょう」
拡張鞄、ありますよ。あの腐れ教皇さんとか枢機卿さんが持っていた腰下げ鞄。倉庫に放り投げて来ましたから。大司教に見つからないように、倉庫を開放。
「これからどうします。教国に行きますか。さっきも言いましたけど、お二人だけなら住む所とかなんとかなりますけど、全員の援助はできません」
「うーむ、私達だけ助かるというのもな、気が引ける。とりあえず、教皇とか居ないのであれば、教国までは行ってみるとしよう。保存食もこれだけあれば、道中でも向こうについてもなんとかなるだろう。それと、他の人の隷呪環も外して上げられないだろうか」
「それはやります。ある人からちょっと頼まれもしていますので。ただ、あの大司教さんは、生かしてはおけないかな。たぶんあの人が腕輪を付けた張本人でしょうから、いろいろ危ないんで」
「君にも事情はあるだろう、わかった、それらは見なかった事にするよ」
「ありがとうございます。それじゃ行ってきますね。道中気をつけて」
「うん、ありがとう」
別れ際に、使うかどうかは分かりませんが、いつもの魔法習得指南書を渡して置きました。教皇がいなくなって、新たに真教を立てるなら、大丈夫でしょう。腕輪やら首輪やらしている人にこそこそ近づいては外しを繰り返し、大司教さんが説話を終えて、異変に気づく前に大聖堂に引きずり込んで、自白用の隷呪環をカチャ。言う事はあいも変わらず全く同じなんで、面倒だからプチッ。うむ、直接はあまり気乗りしませんね、相変わらず気分最悪。当然のことのように隷呪環がドサッっと。やっぱり此奴が持っていたのか。運ぶ事はできないので、一人でチマチマ解錠。闇の精霊だらけになった所で、ジュンちゃんとアッちゃんにお願いしました。拡張鞄毎持ち帰ればですか、嫌ですよこんな人達のなんて。外に出ると、皆さん既に移動中。神父さん達、無事に教国へたどり着けると良いけどな。
3. 北上中
そろそろ来るかなって事で、海岸へ見に来てみました。するとですね、居ますね団体さんが上陸中。人数はそれほど多くは無さそうです。時期的には予想より少々早いですね、先発隊ですかね。
それで、上陸部隊ですけど。なんかね、車輪を担いだ人が2人、交代要員かな、さらに2人。神輿のような枠に油紙で包んだような豚の丸焼きっぽいのを載せて担いでいる人が6人。梯子のようなものを担いでいる人達が4人。全部で14人。後ろから鉄の玉を3個ほど背負っている人達が20人。全部で60玉ということですね。それとなにやら布袋を背負っている人が20人。それが16隊。さらに荷物を満載した荷車が10台。それらを率いているのは、凛々しいお姉さん。たぶん大将さんかな。白い軍装で綺羅びやかな格好をしています。お供が6人ほど。だいたい1000人位でしょうか、さほど人数は多く無いです。という一団が北上中。軍旗は掲げていません。あくまでも一般人を装うつもりなんでしょうが、バレバレですよね。さて、どこへ行くんでしょう、上流の旧旧の渡しへ行ってくれれば良いのですけど。ああ、橋は無いですよ、落とされています。仮に渡河するとして、どうするつもりかしらね。
4. 来ました
先の北上していた団体さんですが、こっちに来ちゃいました。面倒だから来て欲しくなかったんですけど、早かったですね。ほんでね、定石通りって言いますか、期待通りに丘の頂上に本陣を構築してくれまして、ありがとう面倒がなくて助かります。頂上地下には通路を作ってありましてね、偵察もできるようにしてあるんですよ。聞いているとですね。
「総司令殿へ報告。砲撃隊位置に付きました」
「うむ。では明朝組み立てを行い、砲撃によりあの辺境村を潰すとしよう」
「はっ」
いきなりかよ、宣言も何もなしか。それと、あれ大砲だったんだ。魔導砲かね、火薬砲かね、どっちだろ。火薬砲なら火薬の作り方を知りたいですけどね。どうせ、明るくならないと照準とか付けられないでしょうから、用意できるまで待ちましょう。
うっそーん、明るくなって来たら、宣言も何もなしでせわしなく動き始めて、砲撃準備を始めましたよ。エッちゃんとアッセさんに、戦時魔力盾を張っておくようにお願いして、砲撃隊へ近づいて見ました。まだ光学迷彩は有効な薄暗さです。揺らぎとかが見える人も居ないっぽいので、助かりますね。近くに立っても気づかれません。足元?浮いていますから音は出ません。
「全砲門組み立て完了、最終検査終了、照準よし。初弾用意完了しました」
「よし。総員位置に付け。さて、私は最前列で指揮をせねばな。君たちは観戦していてくれたまえ」
「はっ、ご武運を」
少し離れて大将さんに付いていきます。気配すら悟られねえでやんのよ。
「なに、一撃で消えるだろあの程度」
消えないですよ、何発打っても。ただの鉄球じゃあなあ、無理です。
「新型砲の的あて実践にはちょうど良いな」
何を言っているんですかね、罪もない一般人ですよ私等。それと、前装砲が新型ですかい、ああそうですか。
「よし、打ち方はじーめ」
大将さんが、采配を振り上げ号令を掛けますと、合図らしき太鼓がドーン、ドーン、ドーンと3回打ち鳴らされて、最後に2回ドンドンと短点のようになると一斉に火を吹きました。村まで約400[㍍]です、射程がその位って事ですね。あら短いのね。
「撃ってきた~」
「宣言も何もなしですか、酷いですね」
着弾の結果は、ドドンとぶつかるだけなんで、魔力盾が壊れる様子も無し。あわれ鉄球はその場に落ちて終わり。ゴーンと跳弾してくれて大砲を潰すかと思いましたけど、そんな威力すら無し。どこが新型砲だよ、つまらん。
「ふん、これで終わりか。つまらんな」
いえね、盛大な白煙でまだ前が見えていないんです。もう少しお待ち下さい。
「アッセさーん、じゃ反撃宜しく」
「了ー解。ポポポーンとな」
反撃の迫撃砲が丘の頂上に向けて発射され、大砲の煙が晴れるとほぼ同時に迫撃砲弾が着弾。頂上から本陣が消えました。
「何!なんだと。なんともなっていないではないか。当たらなかったのか」
そりゃそうだ。あれっ?頂上の音が聞こえていなかったのかな。次弾装填を命じていますね。後ろ見たほうがいいですよ、それといくら撃っても無駄ですよ。
5. 捕まえました
待っていても仕方がないので、大将さんへいつものお薬をチュッ!隷呪環を嵌めたらそのまま迷彩に引き込んでさようなら。兵隊さん達は、頑張って次弾を装填中。前装砲は大変なんですよ、砲身をお掃除して、冷ましてから火薬を投入して、球を込め、再度照準を取らないと撃てません。発射時の反作用を打ち消す駐退機の無い大砲では、数分に一回位撃てれば上出来。周りを気にする余裕ですか?無いですね。
「ただいま」
「お帰り~」
「次弾来ますかね?」
「命令を下す大将さんがいない事に気がつけば来ないんじゃない。一応盾張って待機しましょ。録画は止めてもいいかな」
「「了解」」
何時までも発射命令が来ないので、兵隊さんが慌て始めました。伝令らしき人が頂上へ走って戻ってきたら、皆さん大砲と鉄球一式置き去りにして蜘蛛の子散らし。そりゃ頂上には何も無いもん。誰も居ないもん。2の村で待機していた輜重隊も、僅かな食料を持っただけで荷物を置き去りにして逃亡。無理もないか、指揮する人達が誰も居ないもんね。川を渡る訳にも行かず、上陸地点方面へ撤退。何をしに来たんですかね。




